SSブログ

オイラー格子でみる純正律~ピッチ変動について~ [音律]

私なりに理解したオイラー格子を使って,純正律の性質を調べます。
今回は,実際にオイラー格子を使って,純正律の欠点と言われる,ピッチ変動について考察してみます。コード(和声)進行については音楽的には五線譜を使うのがいいのでしょうが,五線譜上でそれをいくら追ってもピッチが変わる理由が分りません(それで分る人は天才です)。五線譜上では音符(音名)と音の高さは一対一に対応しているはずですから。しかし,音の関係を地図のように表したオイラー格子上でたどれば,はっきりします。

なお和音の名称は基本的にCとかAmとかのコードネームで行きます。

ではオイラー格子上で,Cコードを表示します。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭

CEG,ドミソですね。L字形に表示されることに注意します。ベース音が角になって,右に五度音,上に長三度音が来る事が分ります。

「純正律がダメだ!」と言う理由にあげられるのは,次のコード進行です。

C Am Dm/F G C

上でCコードを示しましたので,次のAmすなわち,ACEを表示します。短和音だと,パターンが逆L字形になっています。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭

つぎは,Dm/Fです。これはDFAの第一転回形でいわば,FADです。厳密には和声機能が異なるのかもしれませんが,構成音は同じでオイラー格子上ではふつうのDmと同じです。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭

左の方に移動して来ました。右側にもDAFがあるよ!と気づかれると思いますが,それは使えません。オイラー格子上の音名はいわば「同名異音」ですから,同名であってもコード進行する際には前のコードと同じ構成音がある場合はそれを含まないといけません。当然今の場合はA音はそのままでないといけませんし,無い場合でも隣合わせでないといけません。
次はGコードです。やはりGBDは右側にもありますが,Dは共通音でそのままでないといけませんので,以下の様になります。
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭

次は,主和音Cに戻りますが,やはりGは共通音ですから,欄外の左上のCEGに行ってしまい,真ん中に戻って来ません。
E
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
C
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭

音の純正関係は保ったままCコードに戻りますが,構成音は全て元の80/81倍,すなわちシントニックコンマ分低くなっています。すなわち約22セント分ピッチ低下したことになります。

このようなコード進行を繰り返すと,和音の純正は保たれても,ピッチはどんどん・どんどん低下してしまいます。だから,純正律はダメという主張があります。

ほんとうにダメなのでしょうか?
次回執拗に繰り返すパターンを考えてみます。(つづく)
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

オイラー格子でみる純正律~オイラー格子入門~ [音律]

私なりに理解したオイラー格子*を使って,純正律の性質を調べてみたいと思います。
まず初回は,オイラー格子そのものの考え方についてです。

純正律は歴史的には沢山あったようですが,オイラーによって整理されたもの考えます。現在の音楽学でもたいがいこのオイラーの考え方が用いられるようです。(たとえば,これこれなど)。

オイラーが定式化した純正律は,5リミット純正律です。これは,音階音を構成する音の高さを表わす素数を5まで使うという事です。

C音を基準1としますと,例えばG音はC音の3/2ですから,G=2-1・31・50と表わされます。同様に,D音ですと,D=2-3・32・50,以下,
A=20・3-1・51
E=2-2・30・51
などと,2,3,5の素数の乗除で表わされます。
このやり方で,7,11,13,17...と核になる素数を拡張して行くのが現在の純正律の考え方です。歴史的な純正律も当然そこに含みます。7以上に拡張したのはフォッカーという20世紀の物理学者(音響学者でもあった)だそうです。
オイラーの5リミットの表(オイラー格子)は上の様な無味乾燥な数式での表記でなくて規則的に純正音を示すキレイな表になります。

一般向けの本には7以上の素数を使った純正律もあるよ,とまでは書いてあるものも多いのですが,その詳しい説明がありません。詳しい名著?にも無いのも困ったものです。まあそれはいいとしても,広く使われて来た5リミットまでの純正律を網羅するオイラーの簡明な考え方が,全く空論かのごとくに扱われないのはどういうことなんでしょうか?

何かの陰謀なのか?どうか知りませんが,エライ方々がそのようにするメリットもあまり感じられないので,日本のアカデミズムではこのような音楽と科学の境界領域を受け入れないのか?あるいは「音楽は数学じゃない!ハートだぁ?」くらいにしておきましょうか(笑)。まあ広い意味で「商売にならん!」のが最大の理由だと思いますが。商売にならんことをやれるのがアマチュアの特権です。オイラーはすでに18世紀の人ですから,大学どころか,高校の教科書に載っていてもバチはあたらない内容だと思います(次の世代に期待しましょうか)。そこで思い立ったのがこの記事です。

5リミットですと,平面の表で表わされますので,見ようによっては五度圏よりもやさしいのです。
中心が1でした。これは適宜C音などとします。ヨコに3の累乗をとります。左側は1/3などもとるのですね。これらはすべて整数乗として表わされるわけですが,数学アレルギーの人は何乗というのもイヤだと思いますので,掛け算と割り算(分数)にしておきます。
先日書いた図を再記します。最初にこの表は必要ですが,以後音名のみになりますから,ご安心ください。

純正律の音程と音の関係を表すオイラー格子(the Euler lattice)
5j \ 3i
1/27
1/9
1/3
1
3
9
27
25
50/27
25/18
25/24
25/16
75/64
225/128
675/512
5
40/27
10/9
5/3
5/4
15/8
45/32
135//128
1
32/27
16/9
4/3
1
3/2
9/8
27/16
1/5
256/135
64/45
16/15
8/5
6/5
9/5
27/20
1/25
1024/675
256/225
128/75
32/25
48/25
36/25
27/25

中央に基準のC=1を置きます。C基準で考えますが,G基準でもF基準でも相対関係は全く同じことになります。
横は3の整数乗で純正五度間隔,縦は5の整数乗で純正長三度間隔です。縦横の見出しの数字の掛け算した数字が表内に表わされます。ただし,2の乗数で掛け算割り算をして,すべての数字(音高)を1オクターブ以内,すなわち1~2の間におさめた数字です。

例を挙げれば,
中央C=1の右隣は3×1=3ですが,オクターブに収めて3/2,これがG音。
さらに,G音の右隣は9×1=9ですが,オクターブに収めて9/8,これがD音。
などで,横は全くピタゴラスですね。
同じように縦は5や1/5の倍数が掛って行きます。
例えば先のG音の上は3×5=15ですが,やはりオクターブに収めて15/8,これがB音。
などとなっています。
全てこのルールで計算した数字になっています。

なお,特定のコード進行を繰り返すと音がこの図からはみ出すこともありますが,だいたいこの位の範囲で音を議論します。じっさいにはこの表は左右上下にずっとつづいていますので心配いりません。

五度圏を書く時と同じルールで音名を書くと,以下の様になります。

分数値を音名に書き換えたオイラー格子
5j \ 3i
1/27
1/9
1/3
1
3
9
27
25
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
5
G
D
A
E
B
F#
C#
1
E♭
B♭
F
C
G
D
A
1/5
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
1/25
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


ダブった音名がいくつも出てきました。これらの音名は,場所が違うと,シントニックコンマ分音程が違うことになります。例えば,Cの二つ左一段上の10/9の整数比で表わされるD音とCの二つ右9/8の整数比で表わされるD音やその右隣の各A音5/3と27/16などその他のことです。それらの比をとるといずれも81/80になっていますね。

このように,同じ音名でも高さが違うセットの音,いわば「同名異音**」を持っているのが純正律の特徴です。音の進行はこの図の中でたどれますが,コード進行での音のグループはこの図の中でくっつくか隣合わせで行かないといけません。

なお,この表の中には,ピタゴラスやキルンベルガーI,歴史的な多くの純正律,も含みます。

なお,これ以降は,さし当たって数字は使わないので以下の様な音名のみの表にします。音楽学者の論文でもそのようにしています。

音名のみのオイラー格子
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


このオイラー格子のC=1の左右の列だけを使ったのがピタゴラス律です(この表の範囲では右にはみ出ますが)。水色で表しました。これは3リミット純正律で5の要素がない3が公比(適宜オクターブ補正)の1次元の等比数列ですね。

オイラー格子上に示したピタゴラス律
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
D♭,A♭
E♭
B♭
F
C
G
D
A
E,B,F#
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭

純正系と言われるキルンベルガーIもちゃんとこのオイラー格子にハマります。大枠はピタゴラスを五度圏で回したものですが,オイラー格子上ではF, C, G, Dの上側にA, E, B, F#の純正音を出しています。A♭,D♭はこの表からは左にはみ出ますが,ピタゴラス律同様ちゃんとこの表におさまります。この音律はシンプルですが見事に音階音を純正律に収めています。

オイラー格子上に示したキルンベルガーI律
B
F#
C#
G#
D#
A#
E#
G
D
A
E
B
F#
C#
D♭,A♭
E♭
B♭
F
C
G
D
A
C♭
G♭
D♭
A♭
E♭
B♭
F
A♭♭
E♭♭
B♭♭
F♭
C♭
G♭
D♭


この表は5リミット以下の純正律をすべて含みます。純正律として含まないのは7リミット以上に拡張された純正律のみです。オイラー格子を立体以上に拡張したのがオイラー・フォッカー律というようです。だから,歴史的には色々あったでしょうが,純正律の系譜は理論的にはピタゴラス→オイラー→オイラー・フォッカーでおしまいなのです(5リミット純正律の始祖はプトレマイオスとの説もあるようですが)。

ミーントーンはどうかと言うと,おおざっぱな考え方としてはオイラー格子のC=1の上下のみで音階を作ることになります。通常のもの(1/4シントニックコンマ)は長三度を優先して5度を縮めていますので,平均律の一種とも言え(1/12ピタゴラスコンマで5度を縮めてオクターブ優先の通常の12平均律とは異なりますが),オイラー格子にピッタリははまらないので,純正律とは言えませんが,5リミット優先不完全純正律とでもいえるでしょうか。

このように,オイラー格子というのは,純正律の挙動(というか楽曲一般の音の動き)をしらべる地図もしくはコンパスのようなものだと言えます。

なお,五度圏との関係は,鍵盤向け音律を説明する際に述べます。
この表(オイラー格子)を使って純正律の性質を次回以降順次みて行きます(つづく)。


*「オイラー表」としていましたが,「オイラー格子: Euler lattice」と言うのが正しいようです。オイラーの業績は多すぎてオイラーの名のつくものが沢山ありますので,正確な名称としました。
**本来は異名異音ですが,通常の#♭の表記では表されないということです。ヘルムホルツらの表記もあるようですが,そう言う見慣れないのを使うと,いわゆる「現代音楽」とみなされて,クラシック愛好家から拒否されるので使いません。+−を使う手もあり,以前そのようにも書きましたがメンドウなので止めました。

nice!(3)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

自然倍音と音階(4)〜補遺〜 [音律]

自然倍音について,大体基本と思われる事項を書いたのですが,いくつか補足事項を思い出しました。

例えば,n=1,2,3,4... と上げて行くばかり(倍音って普通そう言うもののはずですが)だと,例えば,中々Fが出ません。実は,上げていく方だけでは,F=4/3,(498.0セント)は原理的に出ないのですね。
もちろん,近似的には出ますが,最初の近い値としては21倍音の21/16(470.8セント),次が43倍音の43/32(511.5セント),85倍音まで行っても85/64(491.3セント)などと,かなりずれています。

上げる方が♯的だとすると,♭的なもの,すなわち1, 1/2, 1/3, 1/4...の下げて行く系統も入れておかないといけません。あまりこのような譜例は見たことがありませんが,下げて行く方も書いてみます。
Subharmonics_C.png

ピタゴラスがそうである様に(普通の5度圏がそうです),下げる系統で最初に出てくるのがF音な訳ですね。次が意外な?事に,1/5のサブハーモニックに相当するA♭音なわけです。あとやはり,1/7とか,1/11とか,1/13とかはぴったりきません。

前々回とりあげたEuler音律は,上げていく方を1, 2, 3, 4, 5倍まで,下げて行く方を1, 1/2, 1/3, 1/4, 1/5まで使って音階を構成したものだと言えるでしょう。これを7倍音以上の素数にまで拡張したものをオイラー‐フォッカーの純正律と言います。オイラー律の平面の表が立体・超立体へと拡張されていきますが,まずは3倍5倍の倍音列の音階が基本と思います(7倍音11倍音等は実用性が良く分かりません)ので,触れませんでした。

それと,短音階の純正律も考えてみないといけません。自然短音階ならば,長音階を短三度低くしたいわばエオリアン・モードに相当するわけですが,短音階には和声的・旋律的があります。純正律ではその辺どう処理されるのでしょうか?あと,オイラー‐フォッカー律にもからむのかも知れませんが,7倍音を使った長三度,短三度などの違う定義の仕方もある様です。また,簡単のため,三和音(トライアド)でのみ見てきましたが,七の和音など四つ目の音をどう処理するのかも実用的には重要だと気づきました。

純正律に関しては当初の数学者のオイラー,その後の物理学者のヘルムホルツやフォッカーなど数物理学者の興味をひくようで,かなりの基礎研究はなされているようです。わが国でもヘルムホルツに師事した田中正平が有名です。しかし,その研究成果があまり実用になったという話を聞きません。あまり儲からない話だからでしょうか?理論先行で現実はオソマツな現状というのはあちこちにありますが,現在のコンピュータ技術もってすれば,純正律の欠点を出さずに,ピタッとハーモナイズさせることはやろうと思えば出来るはずですが,まだなされません。

無い物ねだりしてもしようがないので,その前に,正しい(より良い)と思われる純正律音階を構成してみて,実際の和声進行の中でどうなるか検討してみないといけません。


また,この辺は音楽の話と言うよりも音響面に振れた話になりますが,倍音の含まれ具合は音色にも大きな影響を与えます。基音に含まれる倍音(高調波成分)の量は多いほど,硬い感じの音に,少ないほど柔らかい感じの音になります。さらに,偶数次,奇数次の分け方でいえば,量的には同じでも偶数次成分が主体のものは柔らかい感じで,奇数次はオクターブ含まず,音階にはまらない音も含まれますから,自然倍音といえ何か人工的な音になります。

もっとも端的な例が,初代ファミコンの音,コンピュータのパルス矩形波をそのまま使った音でした。あれに含まれる倍音は,奇数次,n=1, 3, 5, 7, 9, ...で,かつ各高調波の下がり方は1/nで,遅いです。楽音では普通1/n2程度での低下ですので,奇数次高調波(倍音)の多い音ということができます。

以下に,色んな波形の音を聞いてみます。まずは,倍音を全く含まない正弦波,純音です。


次に,初代ファミコン音である,矩形波。これはコンピュータの矩形パルスで直接音を出していました。


アナログ・シンセの元の音であったノコギリ波です。


三者三様明らかに音が違います。どれも人工的な感じの音です。純音は何のそっけもない音ですが,私には,矩形波よりもノコギリ波の方が少し色気のある音かなと聞こえます。「良い音」なんてのは全く主観的なものだから,数値が信用出来るという考え方があります。当然理工学はそれで動きます。モチロン,ヒトの感覚を完全に数値化出来たら,そうでしょうが,数値化の原理とヒトの感覚とがズレていたら,当然その数値の適用も十分慎重でなければいけません。

基本波に対する高調波の量で「高調波歪み率」という数値が定義されています。その定義で数学的な公式を使って計算すると,正弦波はもちろん0%,矩形波が48.3%,ノコギリ波が80.3%です。後に行くにつれ,数字的にはより激しく歪んでいる事になります。まあ,確かにノコギリ波は少しきつい音かなという感じはしますが,矩形波も奇妙な音です。

前にもちょっとふれましたが,実はノコギリ波は,全ての高次倍音を含んでいます。これから奇数次と偶数次を振り分けてみます。

ノコギリ波から,奇数次をノッチフィルターで落として偶数次のみとしたもの。計算上の歪み率は64.1%です。

ノコギリ波から,偶数次をノッチフィルターで落として奇数次のみとしたもの。同歪み率は48.3%です。

偶数次のみの方が高調波ひずみの総量としては3割かた多いのですが,どうでしょうか?
私には先の奇数次を落として偶数次のみとしたものの方が,ひずみの数値的には若干大きいですが,ずっと音楽的な音に感じます。

偶数次は2,4,6,8,10, 12, (14), 16と14倍音以外はすべて(オイラー)純正音に落ちますが,奇数次は3,5,(7),9,(11), (13), 15, (17) などと純正音階音に落ちる高調波は少なくなります。

歪み率はどんな高調波だろうが総量で定義されています。しかし,音階音に含まれる音が高調波成分として多い方が,楽器音の音色としても聞きやすいのではないかと思います。逆に歪み率としては低くても,音階音に含まれない音が高調波成分として多い耳障りな音になるのではないないかと思います。

偶数次のほうが奇数次よりも聞きやすいとか,歪み率としても偶数次よりも奇数次の方が音質劣化に効くとか良く言われるのですが,それに対する異論反論もあるようですので,以上のデモはEnriqueなりの結論です。


いろいろ,ゴチャゴチャしてきましたが,REIKOさんご指摘の琉球音階の件です。
これも検討課題として面白いですね。

旋律的ならば,世界各地にあるピタゴラス的5音音階になるはずなのに,D, Aが無くて,C, E, F, G, Bだと。オイラー表ではC音を取り囲む5音であることは確かです。DはCから見ると和声的には遠い音なので,これを使っていないということになりますか。五度下のFを用いるところといい,メロディックよりもハーモニックに振った音階なのかな?と言う事になります。

音楽理論としてすでに説明されている事項も多いのかも知れませんが,音律関連ハマるといろいろ興味のタネは尽きません。
nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

自然倍音と音階(3)〜ギターでの実際〜 [音律]

音と音律(純正律)の話をしましたが,ちょっとギターから離れた一般論となってしまったキライがありますので,ここではギターの実際的(特有)な話をします。

の中の殆どの楽器のフレットは平均律であり,倍音関係とは少しずれていますが,

・開放弦の音程は純正に合わせる事が出来ること,
・一本づつの弦が持つ倍音は自然現象として,自然倍音列になっていること,
・押さえや弦受けの多少の非線形効果(多少の音程ズレの吸収現象)
等を考慮して近似的には純正律的になっているとして話を進める事にします。

下に,通常の楽器の各弦の自然倍音を楽譜で示します。基音を実音で示しますので,ヘ音記号の守備範囲になります。2倍音以上は,ト音記号側に表しました。第1回の記事では,自然倍音として16倍音までを示しましたが,ここでは自然ハーモニクス奏法でも出る6倍音までにしておきます。参考のため,フレット位置も表示しておきました。

Natural_Harmonics_Guitar.png
の譜面ぱっと見,コードの楽譜の様に見えますが,あくまで単音を弾いた際にその中に含まれる倍音成分を表記した譜面です。ギターの譜面では,記譜は実音よりも1オクターブ高い音程で表すのがルールです。正確な譜面にはト音記号の下に8の数字が付いています。こうすると,ト音記号使って通常のギターの音域をほぼ上下加線3本づつで表す事が出来ますから合理的なのだとばかり思っていました。もちろんその理由は大きいのでしょうが,以前示したギター音の実測データに見られる様に,いわば記譜と同じ音程の2倍音も基音に負けないくらい強い事が分ります。ですから,あながち実際に使われる記譜も便宜的なものというだけでなくて,実質的な意味も持っているという事になります。ですから,この楽譜の2倍音に相当する音を見れば,記譜通りの開放弦の音程になっていることが分かります。

て,これからが本題です。ギターを弾いていて気づくのは,良く鳴る音と鳴らない音がある事です。これは勿論フレットが純正からずれていることにもよるのですが,それ以前に,高音を低音弦の倍音の共鳴でバックアップしているかどうかの違いが大きいのです。

際やってみれば直ぐ分る事ですが,ギターではCやFの音は開放弦が無いためかあまり鳴りませんが,同じく開放弦が無いのにお隣りのC#やF#音の方が良く鳴ります。どうしてでしょうか?

の楽譜を見れば分るように,ギターの6本の開放弦の中には結構強いC#やF#を示す倍音があり,単独で弾いたC#やF#音の鳴りをバックアップしていることが分ります。もちろんE音は最強です。ギターの名曲にはホ長短調やイ長短調など,E音を中心に使う曲が多いのも納得できます。それにひきかえ,C音やF音には応援団がおらず,孤立無援状態です。

C
やFに限らず(D#(E♭),A#(B♭)なども鳴りにくい音です。このように鳴りやすさにムラがあるのが良くも悪くもギターの特徴なわけです。

来の曲を従来の楽器で弾くためにはそれで良かったのでしょう。新しい曲もそのギターの語法の中であつかうにはよいにしても,現代曲などを弾くためにはそのギター特有のクセに制約を感じ,それに飽き足らない人がいました。イエペスさんですね。そこで彼はラミレスIII世と協力して,倍音にムラが生じない10弦ギターを開発しました。以下に,彼らが開発した10弦ギターの音程と倍音を譜面で示します。

10String.png

常の楽器よりも4本も弦が多いので,さぞかし音域が広いのではと思いきや,最低音が7弦でC音になっているだけです。この楽器は音域の拡大というよりも,6弦楽器で不足する倍音成分の補強です。これだけでも,従来のC音の鳴りをバックアップすることは想像に難くありませんし,8弦以下は文字通り各種倍音を全ての半音に均等にしている様子がうかがえます。

3回のシリーズでしたが,とりあえず書きたい事を書いたので,これにて終了します。

nice!(2)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

自然倍音と音階(2)〜純正律の構成〜 [音律]

でも「自然」と名がつけば,「人工」というより優しく,何かいい感じがしますが,「自然倍音」だけで音階を構成するのは大変そうでした。少なくとも,マトモに出る倍音で音階音を構成することはまず無理そうでした。ではどうするのでしょうか?「純正律」って,自然倍音で音階を構成するんじゃなかった?

正律を「音楽的に」説明したものを読んでもさっぱり分かりません。要は三和音が純正比率になればいいので,全音階に関してははっきりしていますが,これが半音となると,音階をどう構成するのかの基本原理が見えません。

方厚氏は,「音律と音階の科学」で,純正律に関する基礎理論はないとしています。
ここでは,大数学者のオイラーが考案したという,オイラー純正律に着目してみます。これが一番「分かる」純正律の構成規則です。

の表を以下に示します。上の表は整数比律を表し,下の表は対応する音名を示します。なお,この表では純正音の説明のために,通常のオイラー純正律を作るよりも,更に上下左右一段ずつ多くとってあります。

オイラー音律の構成表
EulerJustIntonation2.png


の表は,左右に3の倍数系列を並べ,上下に5の倍数系列を並べています。いわば左右に純正五度間隔を,上下に純正長三度間隔を示した表になります。さらにいえば,左右はピタゴラス音律の間隔で,上下はミーントーンの長三度間隔という事になります*。なお表の各数字の意味は,縦横の数字を掛け合わせ,その数字が1〜2の範囲に入る様に(オクターブ内の比率におさまるよう)2のべき数(2, 4, 8, 16 . . .)で乗除したものです。枠で囲んだ部分は通常のオイラー律で用いられる範囲です。

然倍音列としては3倍音と5倍音の系列のみを限定的に使うという事です。7倍音や11倍音を用いたものもあるようですが,整数比率にはなっていても一般の多くの音階との相性は悪いと思います。やはり,2倍音(オクターブ),3倍音(完全五度),5倍音(長三度)が基本だと思います。これらの組み合わせで,他の音程も表す事が出来ます。

うして純正五度と純正長三度を満たす整数比率音を#側♭側対称に求めると15音が出来ます。あれ,オクターブって12音でなかった?C音を取り巻く, F, G, A, E, B, D♭, A♭, E♭の中心の9音は確定ですが,残り3音をどこから拾い出すか,若しくは15音からどの3音を捨てるかです。余談ながら,前回作ったペンタトニック音階と同じように最も基本的な5音をこの表から取り出すと,ちょうど,Cとその周りのG, F, E, A♭と言う事になります。これをCから並べ直せば, C, E, F, G, A♭となり,いわばオイラー式ペンタトニック音階?と言う事になります。何かこの音階もどこかの国にあるかもしれません。

て純正のCEGやGBD,FAC和音を作るためには,この表でそれらの音名同士が上下左右で隣り合っていないといけません(左右が純正5度,上下が長三度,斜めが短三度関係でした)。下側の表の斜線を付けた部分で12音の音階を作るのは良く使われる(と思われる)「非対称型」の一種ですが,これは満たしています。しかしながら,D音とA音の間が直接の五度間隔ではなくて純正五度より狭まっています**。いわゆる純正律特有のD-A禁則です。もちろん,これを避ける方法はあります。枠線の中の15音を使って音階を構成すれば,隣り合わせのD-A(枠内の左上)も使えます。しかし,DF#A和音のF#は枠内の音(右上のF#=45/32)では高くなりすぎます。それでも,5度純正は生きますので良いかと思いますが,枠外のF#=25/18を使っている「純正律」もあるのだそうです。へえ〜,DF#A和音を純正に保つ純正律か〜と思いきや,D=9/8を使っているようですので,これは使い物にならない音階でしょう。もし,F#=25/18を使うなら,その前提としてD=10/9を使わないといけないでしょう。もちろん,枠内のDF#音を使うならばA音として枠外のA=27/16を使わないといけません。そうすると今度はA音が2つ発生してしまいます。

II
の和音DF#Aだけ見ても,オクターブ12音でこれを純正に保つ事は出来ません(基本3和音を犠牲にすれば別ですが)。純正を保つためにはオクターブ内の音を増やす必要があります。ましてや,ただでさえ足りない12音の中に場当たり式に,使用頻度の少ない純正音を入れる余裕はありません。また,純正和音でトレースして行くと,オクターブを突き抜けてピッチの変動が起こります。
「純正律では転調が出来ない」というように常識のように言われますが,音がオクターブ内で循環するという,ほとんどの音律での常識を当てはめた制限であって,ピッチ変動を認めれば別に制約があるわけでもありません。逆に言えば,多くの音律では音をオクターブ内におさめるために,あちこちで音程調整するハメになっているわけですね。

のように,純正律(少なくともオイラー型)音階は3倍音と5倍音の組み合わせだけで作ったごく自然なものです。7倍音や11倍音はあまり美味しくなさそうなので,濾しとっていますが***。なお,表(下側)の中でキルンベルガーIの構成音との一致を○×で示します。幹音およびF#はこのオイラー律と一致していることが分ります。純正律の定義は曖昧ですが,この表で×をしてある,A♭,D♭音もこの表を左に拡張すれば一致しますので,広義のオイラー律に含まれる事になります。

初,キルンベルガーIを見た時,「なーんだ,ピタゴラス音律を移調しただけか」と思いました。もちろん,ピタゴラス律も広義のオイラー律に含まれるわけです****が,最適位置へのコンマの移動とスキスマ調整という,そのわずかですが本質的な変更で長三度も純正に保つという絶大な効果を上げています。古典音律好きのかたが惚れ込むのもムリはなさそうです。

*ただし,この表ではオクターブにおさめるといういう事(5度圏におけるウルフ調整)をしないので,左右はドンドン広がって行き,上下はドンドン狭まって行く事になります。ミーントーンの通常のウルフ位置ではこの表に現れるA♭,F♭は出ません。
**シントニックコンマ分,比率で80/81分五度が狭くなっています。これは純正五度よりも約−22セントです。
***7倍音や11倍音を使った超自然志向の純正律もあるようです。
****ピタゴラス律は「3リミット純正律」といいます。
nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽