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自然倍音と音階(2)〜純正律の構成〜 [音律]

でも「自然」と名がつけば,「人工」というより優しく,何かいい感じがしますが,「自然倍音」だけで音階を構成するのは大変そうでした。少なくとも,マトモに出る倍音で音階音を構成することはまず無理そうでした。ではどうするのでしょうか?「純正律」って,自然倍音で音階を構成するんじゃなかった?

正律を「音楽的に」説明したものを読んでもさっぱり分かりません。要は三和音が純正比率になればいいので,全音階に関してははっきりしていますが,これが半音となると,音階をどう構成するのかの基本原理が見えません。

方厚氏は,「音律と音階の科学」で,純正律に関する基礎理論はないとしています。
ここでは,大数学者のオイラーが考案したという,オイラー純正律に着目してみます。これが一番「分かる」純正律の構成規則です。

の表を以下に示します。上の表は整数比律を表し,下の表は対応する音名を示します。なお,この表では純正音の説明のために,通常のオイラー純正律を作るよりも,更に上下左右一段ずつ多くとってあります。

オイラー音律の構成表
EulerJustIntonation2.png


の表は,左右に3の倍数系列を並べ,上下に5の倍数系列を並べています。いわば左右に純正五度間隔を,上下に純正長三度間隔を示した表になります。さらにいえば,左右はピタゴラス音律の間隔で,上下はミーントーンの長三度間隔という事になります*。なお表の各数字の意味は,縦横の数字を掛け合わせ,その数字が1〜2の範囲に入る様に(オクターブ内の比率におさまるよう)2のべき数(2, 4, 8, 16 . . .)で乗除したものです。枠で囲んだ部分は通常のオイラー律で用いられる範囲です。

然倍音列としては3倍音と5倍音の系列のみを限定的に使うという事です。7倍音や11倍音を用いたものもあるようですが,整数比率にはなっていても一般の多くの音階との相性は悪いと思います。やはり,2倍音(オクターブ),3倍音(完全五度),5倍音(長三度)が基本だと思います。これらの組み合わせで,他の音程も表す事が出来ます。

うして純正五度と純正長三度を満たす整数比率音を#側♭側対称に求めると15音が出来ます。あれ,オクターブって12音でなかった?C音を取り巻く, F, G, A, E, B, D♭, A♭, E♭の中心の9音は確定ですが,残り3音をどこから拾い出すか,若しくは15音からどの3音を捨てるかです。余談ながら,前回作ったペンタトニック音階と同じように最も基本的な5音をこの表から取り出すと,ちょうど,Cとその周りのG, F, E, A♭と言う事になります。これをCから並べ直せば, C, E, F, G, A♭となり,いわばオイラー式ペンタトニック音階?と言う事になります。何かこの音階もどこかの国にあるかもしれません。

て純正のCEGやGBD,FAC和音を作るためには,この表でそれらの音名同士が上下左右で隣り合っていないといけません(左右が純正5度,上下が長三度,斜めが短三度関係でした)。下側の表の斜線を付けた部分で12音の音階を作るのは良く使われる(と思われる)「非対称型」の一種ですが,これは満たしています。しかしながら,D音とA音の間が直接の五度間隔ではなくて純正五度より狭まっています**。いわゆる純正律特有のD-A禁則です。もちろん,これを避ける方法はあります。枠線の中の15音を使って音階を構成すれば,隣り合わせのD-A(枠内の左上)も使えます。しかし,DF#A和音のF#は枠内の音(右上のF#=45/32)では高くなりすぎます。それでも,5度純正は生きますので良いかと思いますが,枠外のF#=25/18を使っている「純正律」もあるのだそうです。へえ〜,DF#A和音を純正に保つ純正律か〜と思いきや,D=9/8を使っているようですので,これは使い物にならない音階でしょう。もし,F#=25/18を使うなら,その前提としてD=10/9を使わないといけないでしょう。もちろん,枠内のDF#音を使うならばA音として枠外のA=27/16を使わないといけません。そうすると今度はA音が2つ発生してしまいます。

II
の和音DF#Aだけ見ても,オクターブ12音でこれを純正に保つ事は出来ません(基本3和音を犠牲にすれば別ですが)。純正を保つためにはオクターブ内の音を増やす必要があります。ましてや,ただでさえ足りない12音の中に場当たり式に,使用頻度の少ない純正音を入れる余裕はありません。また,純正和音でトレースして行くと,オクターブを突き抜けてピッチの変動が起こります。
「純正律では転調が出来ない」というように常識のように言われますが,音がオクターブ内で循環するという,ほとんどの音律での常識を当てはめた制限であって,ピッチ変動を認めれば別に制約があるわけでもありません。逆に言えば,多くの音律では音をオクターブ内におさめるために,あちこちで音程調整するハメになっているわけですね。

のように,純正律(少なくともオイラー型)音階は3倍音と5倍音の組み合わせだけで作ったごく自然なものです。7倍音や11倍音はあまり美味しくなさそうなので,濾しとっていますが***。なお,表(下側)の中でキルンベルガーIの構成音との一致を○×で示します。幹音およびF#はこのオイラー律と一致していることが分ります。純正律の定義は曖昧ですが,この表で×をしてある,A♭,D♭音もこの表を左に拡張すれば一致しますので,広義のオイラー律に含まれる事になります。

初,キルンベルガーIを見た時,「なーんだ,ピタゴラス音律を移調しただけか」と思いました。もちろん,ピタゴラス律も広義のオイラー律に含まれるわけです****が,最適位置へのコンマの移動とスキスマ調整という,そのわずかですが本質的な変更で長三度も純正に保つという絶大な効果を上げています。古典音律好きのかたが惚れ込むのもムリはなさそうです。

*ただし,この表ではオクターブにおさめるといういう事(5度圏におけるウルフ調整)をしないので,左右はドンドン広がって行き,上下はドンドン狭まって行く事になります。ミーントーンの通常のウルフ位置ではこの表に現れるA♭,F♭は出ません。
**シントニックコンマ分,比率で80/81分五度が狭くなっています。これは純正五度よりも約−22セントです。
***7倍音や11倍音を使った超自然志向の純正律もあるようです。
****ピタゴラス律は「3リミット純正律」といいます。
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