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自然倍音と音階(3)〜ギターでの実際〜 [音律]

音と音律(純正律)の話をしましたが,ちょっとギターから離れた一般論となってしまったキライがありますので,ここではギターの実際的(特有)な話をします。

の中の殆どの楽器のフレットは平均律であり,倍音関係とは少しずれていますが,

・開放弦の音程は純正に合わせる事が出来ること,
・一本づつの弦が持つ倍音は自然現象として,自然倍音列になっていること,
・押さえや弦受けの多少の非線形効果(多少の音程ズレの吸収現象)
等を考慮して近似的には純正律的になっているとして話を進める事にします。

下に,通常の楽器の各弦の自然倍音を楽譜で示します。基音を実音で示しますので,ヘ音記号の守備範囲になります。2倍音以上は,ト音記号側に表しました。第1回の記事では,自然倍音として16倍音までを示しましたが,ここでは自然ハーモニクス奏法でも出る6倍音までにしておきます。参考のため,フレット位置も表示しておきました。

Natural_Harmonics_Guitar.png
の譜面ぱっと見,コードの楽譜の様に見えますが,あくまで単音を弾いた際にその中に含まれる倍音成分を表記した譜面です。ギターの譜面では,記譜は実音よりも1オクターブ高い音程で表すのがルールです。正確な譜面にはト音記号の下に8の数字が付いています。こうすると,ト音記号使って通常のギターの音域をほぼ上下加線3本づつで表す事が出来ますから合理的なのだとばかり思っていました。もちろんその理由は大きいのでしょうが,以前示したギター音の実測データに見られる様に,いわば記譜と同じ音程の2倍音も基音に負けないくらい強い事が分ります。ですから,あながち実際に使われる記譜も便宜的なものというだけでなくて,実質的な意味も持っているという事になります。ですから,この楽譜の2倍音に相当する音を見れば,記譜通りの開放弦の音程になっていることが分かります。

て,これからが本題です。ギターを弾いていて気づくのは,良く鳴る音と鳴らない音がある事です。これは勿論フレットが純正からずれていることにもよるのですが,それ以前に,高音を低音弦の倍音の共鳴でバックアップしているかどうかの違いが大きいのです。

際やってみれば直ぐ分る事ですが,ギターではCやFの音は開放弦が無いためかあまり鳴りませんが,同じく開放弦が無いのにお隣りのC#やF#音の方が良く鳴ります。どうしてでしょうか?

の楽譜を見れば分るように,ギターの6本の開放弦の中には結構強いC#やF#を示す倍音があり,単独で弾いたC#やF#音の鳴りをバックアップしていることが分ります。もちろんE音は最強です。ギターの名曲にはホ長短調やイ長短調など,E音を中心に使う曲が多いのも納得できます。それにひきかえ,C音やF音には応援団がおらず,孤立無援状態です。

C
やFに限らず(D#(E♭),A#(B♭)なども鳴りにくい音です。このように鳴りやすさにムラがあるのが良くも悪くもギターの特徴なわけです。

来の曲を従来の楽器で弾くためにはそれで良かったのでしょう。新しい曲もそのギターの語法の中であつかうにはよいにしても,現代曲などを弾くためにはそのギター特有のクセに制約を感じ,それに飽き足らない人がいました。イエペスさんですね。そこで彼はラミレスIII世と協力して,倍音にムラが生じない10弦ギターを開発しました。以下に,彼らが開発した10弦ギターの音程と倍音を譜面で示します。

10String.png

常の楽器よりも4本も弦が多いので,さぞかし音域が広いのではと思いきや,最低音が7弦でC音になっているだけです。この楽器は音域の拡大というよりも,6弦楽器で不足する倍音成分の補強です。これだけでも,従来のC音の鳴りをバックアップすることは想像に難くありませんし,8弦以下は文字通り各種倍音を全ての半音に均等にしている様子がうかがえます。

3回のシリーズでしたが,とりあえず書きたい事を書いたので,これにて終了します。

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REIKO

あ~、10弦ギターってこういうことだったのですか!
知りませんでした。
単なる音域拡大かと思ってました。(^ ^;)
そうすると8弦以下は、仮に全く弾かなかったとしても、張ってあるだけで「鳴り」を良くしてくれるのですね。
古楽器に良くあったけれど、そのうち廃れてしまった、共鳴弦を張った楽器が現代に復活したようなものですね。
でもせっかくこうやっても「平均律」で調弦したのでは、効果半減みたいな気がしますけど、どうなんでしょう?

by REIKO (2012-06-13 03:19) 

Enrique

REIKOさん,コメントありがとうございます。
これはイエペス式の10弦ギターです。6弦の平均律楽器でも発生する響きの不均等を補正して鳴りの均等化を狙ったものです。
バロックリュート式に音域拡大を狙った多弦ギターもあります。セルシェルの11弦ギターはそうですね(調弦自体もリュートに合わせています)。
調弦自体を平均律でやっている人は少ないと思いますが,フレッティングは平均律なので,それに合わせて6弦で響かない音をなるべく響く様にやっていると思います。ピアノのペダルを踏んだ状態になっているので,いわばダンパーも手でやらないといけないので,消音は大変のようですね。
by Enrique (2012-06-13 06:53) 

アヨアン・イゴカー

>ギターの名曲にはホ長短調やイ長短調など,E音を中心に使う曲が多いのも納得できます

分かりやすい説明で、納得しました。楽器ごとに、得意な(=楽器の響きがより美しくなる)調があるというのは聞いていましたが。

ここにコンピュータ音と完全に異なる自然音があったのですね。
開放弦が多くなればなった分だけ、響かせてはいけない音も響いてしまいますから、これぞ真打と言う楽器はなかなか作るのが難しそうですね。
by アヨアン・イゴカー (2012-06-16 12:18) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
弦楽器,特にギターやヴァイオリンが得意な調は♯系ですね。開放弦の音程と,押さえて上げるという楽器の特性によります。リュートやチェロは開放弦の音程は♭系です。
非常に得意な調があるにも拘らず,使う音律が12調(短調含め24調)均等に響く(均等に響かない)平均律にしてしまうのは不合理でないかというのが,ずっとこだわっている事項です。
by Enrique (2012-06-16 20:57) 

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