オジサンたちの話から [雑感]
以前,アルバイト先でのオジサンたちの興味深いお話について書きました[1], [2]。今回は,含蓄のある話ではなく実用的な話を聞きました。
オジサン,アマチュア無線が趣味で,無線機をクルマに積んでいるのだそうです。
モバイル・アンテナを取り付けるために,クルマのスキーキャリア?のステンレス部材に穴を開けたかったのだそうです。
ステンレスは難削材です。
普通のドリル刃では歯が立ちません。ステンレス加工用の高いドリル刃を買いましたが,それでも中々スムーズには開かなかったと。
オジサン,「ステンコロリン」というオモシロイ名前の切削液を見つけ,これを使ったところ,普通の鉄鋼用のドリル刃で,ウソのように楽々穴あけが出来たそうです。
少々高いですが,作業能力が格段に向上するのであれば,これはナカナカ優れものの様です。
SUS304などの硬いステンレス鋼に「豆腐の様に」穴が開くという,うたい文句だそうです。まあ豆腐の硬さにも色々ありますし,そこら辺の感覚は極めて定性的なものですが。
その昔,当方電子ビーム蒸着装置という結構大掛かりな装置を一人で設置した際に,冷却排水を下水に流すため,実験室の数ミリ厚の鉄板(ステンレス鋼ではなかったのだろうと思いますが)にパイプの外形大の穴をホールソーで穴あけをした事があります。
当時,ホールソーをお借りした技術課のオジサンから,「必ず油を付けてやるんだ。」と言われました。
言われたとおりにやりましたが,結果は,力だけ入れても,刃先が滑って,全く削れず,困った記憶があります。
油を掛けるというのは,潤滑ではなく,冷却効果だと気づき,水を掛けながらやると,良く食いつき直ぐに穴は開きました。言われた油は油と言っても普通の油ではなく,切削油の事だったのかもしれません。油と言っても現在では切削液は油よりも水が主成分のようです。
冷却能力は水が優れています。
そのことで思い出すのが,本田宗一郎創業のホンダの話です(以前にも少し触れた事があります[3])。
戦後2輪からスタートした同社でしたが,4輪も作るようになってからでも,他社エンジンが水冷になる中,同社のエンジンは空冷でした。
宗一郎オヤジは,空冷にこだわっていたのです。
理由を想像すれば,余計な仕掛けを入れないシンプルさでしょう。水冷だと配管がごちゃごちゃし,サーモスタットや大きなラジエーターを付けたり水温の管理が面倒で,万一水が漏れたりしたら?油で潤滑しているエンジン内に水を通すなんて,彼の技術思想とは合わなかったのでしょう。
当方のわずかな経験上でも,上述の電子ビーム蒸着装置でも,使用中に水を流し忘れて電子ビームを出して,高価なハース(るつぼ)をオシャカにした事があります。水冷の融点千℃程度の銅製ハースで融点数千度の物質を融かすわけですから,紙の入れ物で水を沸かすような話です。水を入れ忘れたら燃えてしまいます。
むろん自動車は,専門家の実験装置ではありませんので,安全・安心・高信頼性が求められます。「本質安全」と「制御安全」などという技術思想を持ち出すまでもなく,空冷の方が「本質安全」です。水冷では,万一水冷系が壊れたら,手に負えなくなりますから,徹底した「制御安全」が求められます。
しかしながら,エンジンが大型化してきますと,水冷の冷却能力が圧倒的に勝るため,水冷式にせざるを得ませんでした。しかし,そこは宗一郎オヤジのエライところで,自らの判断の間違いに気づくと,それまでのワンマンで社内の自分の偏った考え方が通るような体制は良くないと,異論であっても自由に意見を言えるよう社内の風通しを良くするよう図りました。同族体制も良くないと,入れていた息子を退社させました。そして自分の名前を社名にしてしまった事を悔やんだそうです。
冷却能力の話に戻れば,水冷エンジン車には寒冷地では不凍液を入れる(通常の冷却水でもエチレングリコールなどの凍りにくい成分が入っています)わけで,通常の使用には問題ありませんが,不凍液は粘り気があって冷却能力が劣るので,ラリーなどの高負荷運転には,専用のサラサラした冷却液に入れ替えるという事を,また別の自動車専門のオジサンから聞きました。冷却能力は,空気よりも水,水でも不凍液ではなくサラサラな水が優れているのです。
その話を聞いた時,子供の頃,片栗の入ったとろみ汁の温度が予想外に高く,口をやけどしそうになった事を思い出しました。同じ水なのに,とろみが付いていると,なかなかフーフーしてもなかなか冷めません。後に熱の伝導モードに「対流」というものがある事を学んでその理屈を理解したのでした。
現在のアルバイト先のオジサンの話から,あちこちのオジサンの話に脱線してしまいました。
引用記事
[1]「少しアブない話」
[2]「続・少しアブない話」 [3]「『世の中には無駄なものは何もない』」
オジサン,アマチュア無線が趣味で,無線機をクルマに積んでいるのだそうです。
モバイル・アンテナを取り付けるために,クルマのスキーキャリア?のステンレス部材に穴を開けたかったのだそうです。
ステンレスは難削材です。
普通のドリル刃では歯が立ちません。ステンレス加工用の高いドリル刃を買いましたが,それでも中々スムーズには開かなかったと。
オジサン,「ステンコロリン」というオモシロイ名前の切削液を見つけ,これを使ったところ,普通の鉄鋼用のドリル刃で,ウソのように楽々穴あけが出来たそうです。
少々高いですが,作業能力が格段に向上するのであれば,これはナカナカ優れものの様です。
SUS304などの硬いステンレス鋼に「豆腐の様に」穴が開くという,うたい文句だそうです。まあ豆腐の硬さにも色々ありますし,そこら辺の感覚は極めて定性的なものですが。
BASARA ステンコロリン赤 330mlスプレータイプ R-1
- 出版社/メーカー: BASARA
- メディア: Tools & Hardware
当時,ホールソーをお借りした技術課のオジサンから,「必ず油を付けてやるんだ。」と言われました。
言われたとおりにやりましたが,結果は,力だけ入れても,刃先が滑って,全く削れず,困った記憶があります。
油を掛けるというのは,潤滑ではなく,冷却効果だと気づき,水を掛けながらやると,良く食いつき直ぐに穴は開きました。言われた油は油と言っても普通の油ではなく,切削油の事だったのかもしれません。油と言っても現在では切削液は油よりも水が主成分のようです。
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冷却能力は水が優れています。
そのことで思い出すのが,本田宗一郎創業のホンダの話です(以前にも少し触れた事があります[3])。
戦後2輪からスタートした同社でしたが,4輪も作るようになってからでも,他社エンジンが水冷になる中,同社のエンジンは空冷でした。
宗一郎オヤジは,空冷にこだわっていたのです。
理由を想像すれば,余計な仕掛けを入れないシンプルさでしょう。水冷だと配管がごちゃごちゃし,サーモスタットや大きなラジエーターを付けたり水温の管理が面倒で,万一水が漏れたりしたら?油で潤滑しているエンジン内に水を通すなんて,彼の技術思想とは合わなかったのでしょう。
当方のわずかな経験上でも,上述の電子ビーム蒸着装置でも,使用中に水を流し忘れて電子ビームを出して,高価なハース(るつぼ)をオシャカにした事があります。水冷の融点千℃程度の銅製ハースで融点数千度の物質を融かすわけですから,紙の入れ物で水を沸かすような話です。水を入れ忘れたら燃えてしまいます。
◆
むろん自動車は,専門家の実験装置ではありませんので,安全・安心・高信頼性が求められます。「本質安全」と「制御安全」などという技術思想を持ち出すまでもなく,空冷の方が「本質安全」です。水冷では,万一水冷系が壊れたら,手に負えなくなりますから,徹底した「制御安全」が求められます。
しかしながら,エンジンが大型化してきますと,水冷の冷却能力が圧倒的に勝るため,水冷式にせざるを得ませんでした。しかし,そこは宗一郎オヤジのエライところで,自らの判断の間違いに気づくと,それまでのワンマンで社内の自分の偏った考え方が通るような体制は良くないと,異論であっても自由に意見を言えるよう社内の風通しを良くするよう図りました。同族体制も良くないと,入れていた息子を退社させました。そして自分の名前を社名にしてしまった事を悔やんだそうです。
◆
冷却能力の話に戻れば,水冷エンジン車には寒冷地では不凍液を入れる(通常の冷却水でもエチレングリコールなどの凍りにくい成分が入っています)わけで,通常の使用には問題ありませんが,不凍液は粘り気があって冷却能力が劣るので,ラリーなどの高負荷運転には,専用のサラサラした冷却液に入れ替えるという事を,また別の自動車専門のオジサンから聞きました。冷却能力は,空気よりも水,水でも不凍液ではなくサラサラな水が優れているのです。
その話を聞いた時,子供の頃,片栗の入ったとろみ汁の温度が予想外に高く,口をやけどしそうになった事を思い出しました。同じ水なのに,とろみが付いていると,なかなかフーフーしてもなかなか冷めません。後に熱の伝導モードに「対流」というものがある事を学んでその理屈を理解したのでした。
◆
現在のアルバイト先のオジサンの話から,あちこちのオジサンの話に脱線してしまいました。
引用記事
[1]「少しアブない話」
[2]「続・少しアブない話」 [3]「『世の中には無駄なものは何もない』」
2024-05-14 00:00
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