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フロッピーの発明者 [科学と技術一般]

職場の片づけをしていましたら,「ドクター中松がフロッピーの発明者なんでしょ?」と言う人がいて,大変驚きました。

「おいおいしっかりしてくれよ。ど素人でもないのに。」


恐るべき事に,そう思い込んでいる人が結構いるようです。
フロッピー・ディスク・ドライブと言え,それなりのシステムになっているものが,個人のひらめきだけで出来るものではありません。丸い柔らかい磁気円盤が,汚れない様ジャケットの中に収められ,不織布で保護される。むろん,媒体だけ出来てもダメで,磁気ヘッドと信号の記録・再生・処理回路,駆動回路等が必要です。

媒体そのものもさることながら,記録再生する磁気ヘッドだけとってもその方式,媒体互換にするための位置ずれの解決法,信号の変復調方式,オーバーライト特性,走行性等々に数々の特許やノウハウがあります。

FDドライブ程度のものであっても,これだけメカトロのシステムになれば,基本特許の他に部分部分数々の特許で構成されます。当然装置を試作できる程度の総合技術が無いと,基本特許にはなりえません。フロッピーの基本パテントはIBMです。実際IBMは8インチのフロッピー媒体を使ったドライブ・システムを出しました。IBMのオフコンに搭載されましたし,初期のPC98にも使われた記憶があります。これに触れた方は多いのではないでしょうか。アメリカは先発明主義(日本は先願主義)ですから,仮に特許申請が遅れても,発明の事実が証明できればプライオリティが得られます。むろんIBMたるもの,きちんとパテント出願から登録までを済ませています。その際先行特許の調査をした際に,中松氏の微妙なものが引っかかってその対策をしたのではないかとは言われています。仮にそういう事実があったとしても,氏以外にも対策した微妙なものは沢山あったはずです。


企業時代の若いころ,当方がもらった出願時保証金は1件3000円でしたが,日本IBMではその額が30万円だかと聞いた記憶があります(正確な金額はハッキリしませんがケタ違いだったことは覚えています。米国本社の事情は知りません。)。無論同社内のチェックは厳しかった事でしょう。しかしそれで,何十億何百億かせぐ特許になったとしても,それでおしまいです(社内で表彰されれば金一封くらいは出る様でしたが)。

先発明主義は合理的に見えますが,問題点もあります。「実は俺が先に発明していた」と言い張って裁判に持ち込む事も出来てしまいます。実際そういうこともあるので,誰が真の発明者か?というのには微妙なところはあります。訴訟して負けるよりも,彼の氏のように「俺が発明した」と言いふらす事のほうが宣伝にはなりそうです。実際それに騙される人も少なくないのですから。

仮に,彼の氏がレコードかソノシートのようなものを入れ物のまま再生するという発想を持っていたとしても,それで,「俺が発明した」などとはとても言えません。そもそも,デジタル記録ですから,きっちり信号が記録再生される技術がポイントで,それらしい構成を夢見た程度では,特許になり得ません。そんなテキトウなもので特許になるのなら,何だって発明出来てしまいます。むろん,日本ならば特許庁に出願して,公開され,審査を経て,登録されれば特許取得したと言えるわけです。審査官だってバカではありませんので,科学原理に基づかないものや権利の根拠がいい加減なものは通しません。しかし,特許出願などの経験のない素人さんは,出願しただけで特許になると思っている人もいるかも知れません。当方企業時代に数十件出願しましたが,のちのち登録まで行ったのは十件程度でした。

先行特許調査をしていたその頃(昔は機械検索できないので,広報の冊子を手でめくりました),何が新規なのか全く分からない彼の氏の出願特許を見た記憶があります(たしかハードディスクヘッドでした)。いろいろ既成技術の出願をしまくっていたようです。むろん全く新規性のないものが認められて特許登録される訳もありません。しかし,拒絶されようが何だろうが「出願した」という事実にはなるのでしょう。


それらしいものは全く何も無いのか?思い当たる節はあります。Dr NakaMatsとかいう5.25インチフロッピーのエンベロープを1985年頃見た記憶があります。これです。

DrNakamats表.jpg
Dr NakaMatsと書かれたエンベロープ。
宣伝のために作ったのか,紙のエンベロープの縁を切り欠いたのがパテントなのか意味不明なものです。むろん,USパテントでも日本国特許でもなく(大体,こんなものが実用新案にすらなるわけもありません)し,これが意匠登録かどうかも分かりません。

DrNakamats裏.jpg
Dr NakaMatsエンベロープの裏面。意味不明です。
ひょっとしたら,既成事実作り?のためにこのエンベロープ入りのフロッピーディスク自体も販売していたのかもしれません。本物のPatentと言うならば,Patent登録番号を入れないと意味がありません。

比較.jpg
普通のものとの比較。媒体は便宜的にマクセル製のものを撮影。

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