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「成功する音楽家の新習慣」を読み直す [雑感]

以前の記事で,「成功する音楽家の新習慣」の紹介をちょこっとしました。

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成功する音楽家の新習慣 ~練習・本番・身体の戦略的ガイド~

成功する音楽家の新習慣 ~練習・本番・身体の戦略的ガイド~

  • 出版社/メーカー: ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 単行本
何分,この本は具体的な指針満載ですので,部分的に取り上げても,ネタバレか下手をすると著作権法違反になりそうですので,残念ながら内容に関してあまり深入りできません。

正直なところ,当方も既に心がけてその様にやっているところが,有名アーチストの言などを借りながら客観的かつアメリカ人らしいプラクティカルな記述になっているところでしょうか。当方の記事で今まで主張して来た事が間違いではない事,あるいはもっときちんと徹底した方が良いという事などに気づかせてくれます。

例えば,練習方法に関しては,項目立てて具体的な注意があります。個別の注意事項の第一項目には何度も何度も脱力というキーワードが入っています。ここまで徹底して脱力が最優先されている書籍を見たことがありません。

当書籍は,三部にわかれています。
第Ⅰ部 練習上手になるには
第Ⅱ部 恐れずに演奏する
第Ⅲ部 音楽家でありつづけるためには


です。まず,第Ⅰ部の練習方法に関する記述が参考になると思います。素人が陥りやすい問題点を容赦なく突いていますので,「なるほど!」と思える方は,既に効率よい練習が出来ている人,あるいは出来る人ででしょう。

例えば,第Ⅰ部の新曲に着手する新曲の取り組み方(p.051)では,四つのステップに分け,第一ステップとして1.全体像をつかむがあり,さらにその課題の一つにa.聴覚モデルを作る。があります。楽譜で音がとりにくい人の場合,録音を聞く事が手っ取り早い方法だが,「真似をしてはいけない」(p.052)とあります。解釈は自分で作り上げるものなので,「録音は何種類か用意し,楽譜を見ながら聴こう。」とあります。また,譜読みが不得意な人が無理してぎこちない演奏を練習する際のリスクである「困った癖」についても触れています。

以降,声楽を含むあらゆる器楽の演奏に関して,繰り返し練習に至る注意事項が楽譜への書き込み等々事細かに指摘されます。まずは系統立てて練習する事,次に自由なリズムで少しづつ出来る限り力を抜いて感情豊かに,「メモや声に出してみる事」も必要とあります。

「ブロックに分ける」事や「力を抜いて慎重に演奏できるテンポ設定」などが必要ですが,ゆっくり練習では「速く演奏する時と関係のない癖がつくこともある」との事で,テンポを速めるにはまた別な注意が必要との事です。確かに,スロー・プラクティスは非常に有効な手段だとは思いますが,技量以上の曲をテンポを極ゆっくりで演奏された場合,聴いている方には何の曲だか分からなくなることがあります。

心がけていないと,ついつい忘れてしまうのが,「イメージしてから演奏する」ことですが,これも重要でしょう。部分練習とつなげ方にも細かい記述がありますがこれは各自やっている事と思います。

反復練習をうまく行う(p.060)には,当ブログでも何度も取り上げて来た事項が記述されています。そのひとつ目が,1.高いレベルを目指す事です。何とここでも,「脱力」が最初に取り上げられ,「表現力」,「正確さ」,「リズム」,「音色」など,項目が7つ並びます。高いレベルを目指せなくなったら,一休みした方が良いと。

そのことは,次の項目,2.漫然とくり返さないにも当てはまります。あるパッセージを10回繰り返して,何度も間違いを重ねる。11回目に出来たとしても,いつもきちんと弾けるわけではなくむしろ逆だと。イメージがはっきりしない演奏を繰り返してもダメで,イメージに基づいて3回きちんと演奏出来て(複雑な箇所は5回)次に行くこと。不正確な通し練習厳禁と述べています。当方含め,独学が長い人間はその厳禁練習を良くしたものです。一生懸命上達しない練習に励んでいたわけです。マンネリに陥ってしまったら,態勢の立て直しが必要との事です。

そして,3.単にくり返すのではなく成長を目指すことです。「いつまで経っても一向に変わり映えしないと,飽きてしまう。」その為,・繰り返すたびに力を抜き,気づく力を高める。他2項目(p.062)挙げています。「脱力」と言うのは,楽をすることではなくて,様々な課題に気づくという創造性の源でもあるわけです。弾けるようになったからと言って,そのままテンポアップするのは良くないそうです。ここでも,テンポを上げる前にさらに脱力を徹底するのです。

さらには,4.常に評価を行うことです。評価は練習が終わってからするものではなく,演奏中でも常に調節する必要があります。「もう少しでできそうなんだけど」と無意味に繰り返すのではダメ。演奏中の一瞬一瞬を正しく聴いていないと上達は望めず,「身に付くのはお粗末な習慣ばかりで,上手くなりたいとどんなに願っても目標からは遠ざかる一方」と,手厳しい指摘です。これは,練習を常に創造性に富んだ行為とすることを言っているのだと思います。

続くのは,
問題を解決する(p.063)という項目です。
問題解決のプロセスです。
1.問題に気づく
2.問題を切り分けて特定する
3.解決策を実行する

当たり前のことなのですが,問題に気づかない事には,解決しようがありません。いくら指導者に指摘されても,自分の演奏を録音して聴いても,気づかない事には同じことです。「ぱっとしない演奏は,演奏者が練習時にそのまずさに気づかなかったのだ。」と,「気づいたらなら何か対策をとったはず」と。これまた手厳しい指摘です。

問題に気づくには,まずは「謙虚になって」感覚の感度を上げる必要性を指摘しています。
レベルの高さを維持する問題点が,小節ごとに見つかる様だと取り組む曲のレベルの高すぎ。自分に合ったレベルの曲に綿密な計画を立てて取り組むことで,問題発見能力は高まるとしています。問題点に気づくためには,反復練習をうまく行うところでの,脱力以降の各項目をチェックする事が指摘されています。出来る限り余分な力を使わずに動いているか?しっくりしないならば,中断して違和感の原因を探る必要があると述べています。

問題に気づいたら,2.問題を切り分けて特定する事です。
「わかっちゃいるけど~」というのは良くありがちです。わかっていても問題点が特定できないのでは分からないのと大差ありません。そのためには,問題を具体的にすることと客観的にすることが指摘されます。具体性に関して,上で挙げた脱力以降の各項目,正確さに関してはイントネーションか,ディクションか指が回らないか,など。

解決策に関しては,譜例を挙げて説明(pp.068-078)しています。ここでは取り上げませんが,音楽の基本に立ち返るのが一番の様です。指さえ動けば演奏できると思わない事でしょう。

以降,さらに練習法に関する記述が続きますが,冒頭挙げた理由もあり,このくらいにしておきます。

第Ⅱ部(pp.143-239)は,演奏不安や舞台上でのふるまいなどについての具体策満載ですし,さらに第III部(pp.243-329)では故障を防ぐ対策や師弟関係などについても触れられています。

なお,第III部終了後に,監修者の古屋晋一氏の解説があります。日本は音楽家のケアの面で非常に遅れており,この本が演奏家の心身を守り育むことに関する教科書の役割も担うとあります。

プロアマ問わず座右においておくべき書籍でしょう。
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gonntan

読んでるとほぼそのまんまテニスに通じますね
指摘されないと自分がやってることは
中々分かりづらいです
by gonntan (2022-03-09 22:05) 

Enrique

gonntanさん,
すでに古典的になったティモシー・ガルウェイのインナーゲームという本はテニスのプレイに関するものだったと記憶します。体の精密なコントロールに関する上では共通事項は多いのだろうと思います。
当方も昔のテニス経験で思い当たるところはあります。

by Enrique (2022-03-10 07:10) 

U3

どこぞの誰かが、未だに著作権法違反を堂々とやらかしていますね。
つい最近の記事でも出自も示さないで、学生寮のイラストを校舎のように見せ掛けて、無断使用していましたしね。
いい気になっていると、そのうち刺されると思います(@^▽^@)
by U3 (2022-03-11 21:41) 

Enrique

U3さん,
教育機関は著作権法の特例がありますが,私塾はダメです。
それにブログとなると,共通土俵ですから言い訳も出来ませんね。
書籍の紹介などをする場合は,書誌事項を示さないとできませんし,中身は引用の範囲内(ここがグレーですが)で示す事になります。
常識事項が通用しない人もいます。

by Enrique (2022-03-13 07:59) 

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