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アパガードスに関して [雑感]

スタッカートの話を書いていて思い出したことがあります。

消音です。わざわざスペイン語で「アパガードス」と言ったりします。
スタッカートは弾いた直後消すわけですから,音を出さない2回目のタッチが必要ですので,ギターではわりと難しい技術です。

アパガードスはスタッカートの消音ではなく,音価通りに止めるとか,不協になる音を消したりするわけで,いわば音を出さない為にタッチする必要があるので,やはり難しい技術です。

ピアノなら,手を離せば音はダンパーで消えます。むしろ,延ばすためにダンパーペダルを使います。
ギターでは開放弦はペダルを踏んだままになりますから,不必要な場合消さないといけません。押さえた音ならば左手を離せば消えますが,バスなどの開放弦は触れるなどで消さないといけません。

ギターではまず音をきちんと出して,レガートにつなげることが基本ですから,最初消音はあまり言いませんし,ある程度やっていても,独学時代は余り気にしなかったと思います。

アルペジオの楽譜に関しては以前も書きました。
音を残すのか,楽譜の音価通りにするのか,ギターの楽譜を初めて見る方には分かりにくいでしょう。ギターのアルペジオはピアノではペダルを踏んだ状態になります。和声音だけに掛かっていますから,コードパターンを押さえてしまえば,和音を弾くというのに実に向いた楽器です。しかし,ピアノ並みに独奏をやる場合,開放弦で弾いたバスやメロディの処理などをきちんとしないとキレイな演奏になりません。

ギターの楽譜では休符が省略される傾向があります。伸ばしたり止めたりのコントロールが自在にできないところがあるので,「良きに計らえ」ということでしょう。無理に止めないほうがキレイだったりすることもありますので。その辺を書き出すとキリがない感じがするので,ごく極端な例を出してみたいと思います。

F・フェランディエールの「コントール・ダンス(道化師の踊り)」。これは,超初心者向きの曲だと思っていました。ギターを独学で始めた頃すぐに弾いた記憶があります。しかしこの曲,無邪気に弾くと,消音がおざなりになってしまいます。むろん消音がテキトーならば易しい曲ですが,きちんと消音して弾くにはそれなりの練習が必要です。信頼感の厚い小山勝氏の初級のギター教本では最後の曲になっています。これがきちんと仕上がれば,初級卒業と言えるのではないでしょうか。
道化師の踊り.jpeg
小山勝著「こどものギターレッスン」最終曲


こどものギターレッスン 小山勝 著

こどものギターレッスン 小山勝 著

  • 作者: 小山 勝
  • 出版社/メーカー: 全音楽譜出版社
  • 発売日: 1998/12/10
  • メディア: 楽譜


他の曲では,「サルタレッロ」。
⑥⑤④の開放弦がドローンの様に鳴り響きます。

サルタレッロ.jpeg
芳志戸幹雄のNHKテキストより。ガリレオ作曲の「サルタレッロ」となっています。


「ガリアルダ」と呼ばれるものは,ガリレオの父親ヴィンチェンツォ・ガリレイの作と言われます。以前弾いたドイツのプレトリウスのテレプシコーレにもほぼ同じ旋律が現れますので,ルネサンスの頃のポピュラーな旋律・リズムだったのかもしれません。有名なレスピーギの「リュートのための古風なアリアと舞曲・第1組曲」の第2曲にも使われています。

なかなか衝撃的な曲です。通常のクラシック曲ではあり得ません。ギターでは,突然こういう古楽曲が現れます。これを最初に弾いた時は,低音弦は鳴らしっぱなしで弾いていましたが,後年この曲でレッスンを受けた時,低音の伴奏というか(ドローン音)を消音しながら弾きました。すっきり歯切れ良くて良いかなと思ったのですが,師は絶句してしまい消音しないほうに戻されました。

極端な例を挙げますので,いきなり上級曲に飛びます。アランフェスです。
ブログ開始初期にこの曲に取り組んでいたので,記事にしました
有名な第2楽章で,けっこう長いカデンツが終わって,オケの総奏に渡すクライマックスです。

2楽章難所2.jpg
アランフェス第2楽章難所


和音のかき鳴らしです。ここは当然ラスゲアードで弾くわけですが,楽譜で指定されているのは,5音の和音です。⑥弦の音はありません。和音の基本からすれば最低音は重要です。それを弾くか弾かないかは重要事項です。楽譜通りならば,⑥を弾かないのは当然のことですが,何分強度指定はfffです。目一杯ギターを鳴らし切らないといけません。

ロドリーゴはピアノのみでギターは全く弾けませんでしたし,目が見えない彼の作曲する楽譜はやはりピアニストのビクトリア夫人が採譜したもので,そのせいかすこぶる弾きにくいところがあります。しかし,アランフェスは初演者のレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサの校閲を経たものですから,それなりに尊重しなければなりません。

どんな名手でも,ここで全く⑥弦を鳴らさないで,最強音で弾き切ることは出来ませんので,そこの弾き方は解釈が分かれます。楽譜通り弾く為には,⑥弦を消音というかミュートしなければなりません。その為にはフラメンコ・ギターのテクニックであるセコを使わないといけません。セコはp指を⑥弦に置いてミュートしつつ他の弦をかき鳴らす方法で,フラメンコの奏者は普段何気なくやっています。しかし,この奏法ではフラメンコのリズミカルな軽さは出ますが,fffでかき鳴らすことは出来ません。⑥弦開放のE音も和声音であるため,fffを重視して⑥弦開放も参加させて目一杯かき鳴らすのが多くの奏者の解釈の様です。以前見た時は,ブリームとジョンがセコで弾いていましたが,他の奏者はいずれも開放弦を鳴らしていました。当方もセコでレッスンを受けましたが,何分部屋で弾いている分にはセコの掻き鳴らしでも十分ですが,オケの中で弾くには,⑥弦の消音は気にせず渾身のラスゲアードというのが標準解のようです。
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EAST

Enriqueさん

初級者向けの楽曲で6弦開放弦のミ、5弦開放弦のラをバスに使用する曲はありますね。低音がミ→ラや逆の場合に前の低音が残ると音が濁るので、消音をするように教えてもらったことがあります。その際にプロを目指す人でもこれを教えてもやらない人がいると嘆いていました。自分の弾いている音を聞いて判断することが重要なのでしょう。
by EAST (2021-02-01 11:32) 

Enrique

EASTさん,そうですね。
開放弦の消音は初級レベルできちんとやらないといけませんね。確かに音が濁るからですね。高音でも開放弦を使う場合は消さないといけないケースがありますね。響きを聴けば分かることなのですが,弾くことだけに意識がいくと,聴いているようで聴いていないのですね。
音を出すことだけに意識が行って消すことをしない。
芥川の言う「音楽の基礎は静寂である」という大原則に反しますね。

by Enrique (2021-02-01 18:00) 

Cecilia

アランフェス二楽章のクライマックス、どんなだったかな?と思って演奏動画を見て確認しました。ラスゲアードもわからないので動画で確認しました。カッコいいですね~!

サルタレッロでカポタストを使うように指示がありますが、クラシックギターでもカポタストを使うのですか?
by Cecilia (2021-02-10 22:13) 

Enrique

Ceciliaさん,アランフェス2楽章のクライマックスは,最高最大の音でかき鳴らさないといけないので,楽譜の表記のままだと厳しいですが,確かに見せどころなので,めいっぱい頑張らないといけないですね。

クラシックギターではカポタストはあまり使いませんが,ルネサンスリュートの曲を弾く場合にはよく使います。3フレットにつけると,ルネサンスリュートとほぼ同じ調弦,③弦をFisにしてからつけると,全く同じになり,ルネサンスリュートやビウエラの曲をオリジナル通り弾くことができます。
あと,伴奏などで弾きにくい調の場合は使うことがあります。
by Enrique (2021-02-11 12:16) 

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