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Hoppstock編PonceのSonatina原典版について(第2楽章など) [曲目]

Ponceの原典版(Urtext)の編著者のHoppstockさんのSonatinaの(楽譜と)演奏に関する続きです。

2楽章冒頭.png
Guitar Works: Urtext Edition

Guitar Works: Urtext Edition

  • 出版社/メーカー: Schott & Co Ltd
  • 発売日: 2006/06/01
  • メディア: ペーパーバック
ポンセの手書き譜と比較して,忠実に印刷化しているものとばかり思っていましたが,細部に相違点を見つけました。前回は第1楽章の詳細をみましたが,今回はそのつづきです。


常識的な事実(譜面を見てすぐにわかる事)としては,セゴビア編では第1楽章にCampo(田園),第2楽章に Copla,第3楽章にFiestaという副題を付けています。おまけに,曲のタイトルそのものもSonatina Meridional(南のソナチネ)と固定しているため,これを現代の人たちが敢えて原曲のSonatinaとするのは勇気が要るのか,(ほぼ)原典で弾いていながら,曲のタイトルだけは「南のソナチネ」としているものが殆どのようです。セゴビアの注文とポンセの作品としての出来栄えからしたら,むろん名前は付けていないものの「スペイン風ソナチネ」といったところですが,セゴビアは意味深なSonatina Meridional(子午線上のソナチネ)という名前をつけています。すなわち,

原曲は単なるSonatina → セゴビアがSonatina Meridional(子午線上のソナチネ)→ 日本語訳名が「南のソナチネ」

と変遷しているわけです。
Meridionalに南だけの意味は無いと思いますが,同時期のポンセの協奏曲にConcierto del Sur「南の協奏曲」があったので,それを考慮して意訳?したのかも知れません。まあ「美しい誤解」という事もあるので,あまりとやかく指摘するのも野暮というものでしょうが。

作曲者がつけた楽曲名は無論良いですが,後世の人や出版社や編者が曲に名前をつけることは一種禁断の行為です。イメージが固定してしまうので純音楽としては好ましくない事ですが,楽曲の人気面では大いに貢献します。この曲がPonceのギター曲の中でも1,2を争う人気曲であることと無関係でもないかも知れません。

どちらが先か知りませんが,愛称のある曲は人気曲です。ショパンの練習曲しかり。ソルの練習曲しかり。作品番号*の*などというよりも,「革命」とか「別れの曲」,「月光」とか「夢」とかいった方がピンときます。


さて,セゴビア編では"Copla"の副題が付く第2楽章ですが,CoplaとはCante(唄)の一部分を指す様です。

第1楽章と第3楽章のスペイン風(フラメンコ風)快活な2曲に挟まれた緩徐楽章です。わかりやすい古典的な形式を取りながらも,内容は民族的な色彩に溢れるものです。もっともポンセはメキシコ出身ですが,この曲を書き上げたのはパリ留学中の1930年12月です。元々ラテン系の血でしょうし,ヨーロッパでもスペイン風というのは大いにメジャーな風俗でしょう。

譜面と演奏に関しても書こうと思ったのですが,第2楽章に限って言えば,Hoppstock編原典版は手書き譜との相違はなさそうです。Hoppstock編巻末の"Detailed Note"にも記述は見えません。


敢えて言えば,楽譜の速度指定は,原譜もセゴビア版もHoppstock編もAndanteですが,皆さんLentくらいで弾いている事です。

いつも思うことながら。。。
この曲は(いちおう)6/8で書かれているので,1拍を付点四分音符でとるのが一般的な楽典の解釈ですが,スペイン音楽では本来フラメンコのコンパスでとるためか,6/8とも3/4ともつかない混合したリズムになっています(譜例)。

2楽章冒頭.png
譜例.第2楽章冒頭
この曲でも,冒頭のモチーフは,高音部が6/8で低音部が3/4で書かれています。どちらの拍節をAndanteにとるかで,演奏速度は1.5倍も変わってしまいます。仮に低音部の四分音符を一拍にとるにしても(多分こちらが正解だとは思いますが),流布している演奏はAndanteとしてはゆっくり過ぎる様にも感じます。
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