SSブログ

バッテリーの話 [科学と技術一般]

 電池は得意でないと書きました。化学反応の常として,反応式そのものは単純な算術でも,実際の反応過程は複雑怪奇と言う事が多いからです。

EnriqueAutographSmall.png
◆蓄電池の現状と鉛蓄電池に関する情報など
 電池の化学反応式も単純なものですが,その過程は複雑で,その寿命などは使い方により大きく影響を受けます。現在リチウムイオン電池が世の趨勢です。エネルギー密度が過去最高で,モバイル電子機器や自動車にも用いられます。最大の問題は,お値段が高い事です。元が取れる様な用途ならば良いですが,太陽光発電した電力を蓄えて使うといった当方などのケチな用途には向きません。その用途には鉛蓄電池が最もコストパフォーマンス良好です。これは重たいのが欠点ですが,据え置きでの使用ならば問題になりません。
 鉛蓄電池は発明から165年。何分歴史が古く,特に近年改良された密閉型ならば安全性にも問題がありません。その取扱いに関しての詳しい情報が少ないような気がしていましたが,日置電機さんのページに,詳しいレポートがありました。知りたい内容が網羅されています。当方が見つけたネット上の情報としては最も優れたものだと思います。むろん,製品情報などが必要ならば,電池メーカーのものなどがいろいろあります。検定試験などを受けるために知識を整理しておくには,電気技術者協会の電気技術解説講座(二次電池について(1)鉛蓄電池)などが良いと思います。
 なお,当方が知りたかった情報のポイントとしては,
①自動車用バッテリーとディープサイクルバッテリーの相違点は?
②寿命を伸ばすにはどうしたら良いのか?
といったものでした。
 また日置電機さんのレポートには充電方法などについても詳しく記述されていますが,一般素人の場合は市販の充電器を使いますから,その意味くらいを知っておけば十分でしょう。

◆電池の基礎
 何事も基礎が大事ですので,かいつまんで見ておきます。

 鉛蓄電池のプラス極が酸化鉛PbO2,マイナス極が鉛Pbで,これらが濃度40%の希硫酸に浸かっているだけです。これだけなら,中学で習った電池と同じです。電解液に化学ポテンシャル(イオン化傾向)の異なる金属が浸かり,同ポテンシャルの高い方がマイナス極*になると,それだけです。ですから開放電圧は,電極の素材で決まります。電池の種類により電圧が決まるのはその為です。電池の種類が同じならば,そのサイズによらず開放電圧は一定です。
 鉛蓄電池が中学で習った電池(塩酸に銅板と亜鉛板)と異なる点は,プラス極が金属ではなく酸化物であることと,化学反応が可逆反応で充電可能だという事でしょう。亜鉛は銅よりも化学ポテンシャル(イオン化傾向)が高いので,(電子はマイナスの電気の為)亜鉛側がマイナス極になり,銅側がプラス極になります。電解液は効率を問わなければ酸なら何でも良いはずです。レモンに電極を刺しても電池になりました。
 まず,中学で習った電池(ボルタ電池)の化学反応式は,亜鉛のマイナス極だけに注目すれば,

  Zn + 2HCl → 2ZnCl + H2

 亜鉛は銅よりもイオンになり易いですから,マイナス極に電子(と電解液中に水素イオン)を放出します(プラス極側では水素イオンは電子を受け取って水素ガスを放出します)。使い切りのマンガン乾電池やアルカリ乾電池**はこのタイプです。ちなみそれらはプラス極が炭素で,マイナス極が亜鉛です。
 一方,鉛蓄電池の化学反応式は,

  PbO2(プラス極) + Pb(マイナス極) + 2H2SO4 ⇔ 2PbSO4 + 2H2O

です。右向きの反応(放電)と左向きの反応(充電)とが可逆反応であることがポイントです。
 放電時は,鉛Pbのマイナス極側が負イオンSO42-と反応してPbSO4となって電子を放出,酸化鉛PbO2のプラス極側は,電解液中の硫酸イオンと電子を受け取って,PbSO4となって水H2Oを放出。放電終了時は,両電極が硫酸鉛となり,電解液はただの水になります。むろんそれはぴったり化学量論組成で反応が進んだ場合で,現実には電極の量は余裕を持って作られるでしょうが。
 充電時は,この逆反応が起こります。放電時と逆向きに電流が流される事により,マイナス極には電子が渡されて硫酸鉛が鉛と硫酸イオンに還元され,プラス極側の硫酸鉛は電子が引き抜かれて発生した水素イオンとマイナス極側で発生した硫酸イオンとで酸化鉛となり電解液に硫酸を戻します。充電時のプラス極側の反応が少々複雑ですが,いずれにしろ一種の酸化還元反応です。

◆鉛蓄電池の構造と取り扱い
 同レポートには充放電の化学反応がずっと丁寧に説明されています。少々面倒な化学反応ですが,電池の構造としては,希硫酸にプラス極の酸化亜鉛電極とマイナス極の鉛電極とが浸かっているだけです。
 まず,当方の疑問①の「自動車用バッテリーとディープサイクルバッテリーの相違点」は,電極形状の違いの様です。自動車用バッテリーは瞬発力が必要です。エンジンを掛ける際にはモータに非常に大きなトルクが必要で大きな電流が流れます。余り正確な数字は見つかりませんが,100Aとも200Aとも言われます。仮に200A流れるとすると,50Ahの容量のバッテリーでは,単純計算で15分で空になる電力です。ただし通常のバッテリー容量は,通常5時間掛けて取り出せる[Ah](アンペア時)の事ですので,50Ahのバッテリーなら10Aを5時間で取り出せる容量という事です。その10倍も20倍もの電流を急激に取り出せる量はずっと少ないはずで,15分間などは絶対に持ちません。
 自動車用バッテリーでは,エンジンを始動するのが大事な役割ですから,電極の抵抗を下げて,瞬間的に取り出せる電流を大きくしているようです。電極の抵抗を下げる方法としては,電極の表面積を大きくしているようです。もともと抵抗率の高い酸化鉛のプラス極の方が効きますから,特にこちらの電極を海綿状にするとか,ゲル状にするとか,様々な方法で電気抵抗を下げる工夫をしているようです。それによって,瞬発的に取り出せる電流は増えますが,問題としては恐らくサルフェーションです。いっぺんに疑問②の寿命の問題になります。
 サルフェーションとは,放電が進んだ状態で発生する硫酸鉛PbSO4が結晶化する現象です。この物質は抵抗が高く,結晶化して両電極(化学反応的には両極に起こり得ますが,実際は鉛のマイナス極側だと言われます)にこびりついてしまうと,電流が取り出せなくなってしまいますし,硫酸鉛が元の鉛や酸化鉛に戻せないという事は,化学反応の原理からして充電が効かないという事です。

◆サルフェーションの防止法
 サルフェーションが寿命の主要因とすれば,これも,中学理科でやった結晶作りの実験が参考になるのではないでしょうか?中学理科では食塩やミョウバンなどの結晶作りなどをやったはずです。あの時は,どうしたら良い結晶が得られるかという実験でした。サルフェーションを防ぐのは,その逆で,結晶化を極力避けるわけです。
 まず,結晶を作るには,元の物質の溶液中の濃度が重要でした。そしてじっくり静かに時間を掛けて結晶化させました。バッテリー電極で生ずる硫酸鉛の結晶も発生原理は似た様なものでしょうから,その逆をやればよいわけです。

①結晶が発生する濃度に放置しない → 放電させたら直ちに充電して,硫酸鉛の濃い状態に長く放置しない
②常に振動を与えて結晶の芽の発生を防ぐ → 特に長く保管するする際(あまり振動を与えられない場合)は,硫酸鉛が無い満充電状態としておく

 いずれも一般的によく言われる使用上の注意と同じことでした。
 特に②に関しては車載で走れば自動的に振動が与えられて,結晶の発生は抑制されるでしょう。自動車用の場合は走ることが,充電も振動も与えられますから,最も良い事になります。
 ちなみに,満充電であっても,自然放電で硫酸鉛が作られてしまいますから,長い保管ではサルフェーションは防げません。バッテリーを長く持たせる為には,補充電や物理的刺激が必要です。

◆まとめなど
 キャンピングカーなどの車載のディープサイクルバッテリーの持ちが非常に良いというのを聞いた事があります。ディープサイクルバッテリーはカーバッテリーとは違って瞬発力を要求されませんから,電極断面積を極端に大きくする必要がないので,電極が丈夫な上,車で揺られますから,車載などは理想的な使用環境なのかもしれません。
 当方は,鉛蓄電池のディーサイクルバッテリーを太陽光発電の充電用に使用していますが,大概は朝になれば補充電はなされますが,曇天続きなどで迅速に充電できない場合は,振動を加えるなどしてサルフェーション防止策をとる必要がありそうです。
 ちなみに,サルフェーションなどで劣化したバッテリーをある程度再生するチャージャーなどもありますが,充電方法などに関しては稿を改めたいと思います。

*電極の呼称には,正極・負極,陽極・陰極,およびアノード・カソードの呼び方がありますが,ここでは無用な混乱を避けるため,「プラス極・マイナス極」で統一しています。
**こちらは電解液がアルカリ性であり,水素イオンではなく水酸化イオンが働きます。

nice!(26)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 26

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。