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ギター曲における転調について [音楽理論]

楽典の基本に,主調から直接飛べる(転調できるとされる)調として「近親調」があります。近親調の基本的なものに,属調,下属調,平行調,同主(同名)調があります。

指摘される事も多いかと思いますが,ギターの有名曲には,やたら同主調関係の転調が多いような気がします。



ソル「魔笛の主題による変奏曲」,序奏がホ短調,テーマがホ長調で,変奏も第二変奏のみホ短調で最後コーダ迄ホ長調で華やかに終わります。

ルビーラの「ロマンス(『禁じられた遊び』のテーマ)」も,ホ短調,ホ長調,ダカーポしてホ短調。

楽器の特性を目いっぱい出せるから,と言うのがありそうです。同名長短であれば,ベース音などが共通に使えますので,演奏技術的にもラクかもしれません。



やはり,有名曲といえば,タレガの「アルハンブラの想い出」。イ短調,イ長調,ダカーポしてイ短調。トレモロ曲のためか難曲の様に言われる事もありますが,楽式的には極めてシンプルなものです。

同じくタレガの「アデリータ」は「禁遊」と同じ。「ラグリマ」は,「禁遊」と長短の順番は逆ですが,やはりホ調の同主調関係です。

ギター曲ばかりでは本当にそうなのかどうか分かりません。
そこで,ピアノの初級曲ベートーベンの「エリーゼの為に」を見てみましょう(譜例1)。
調号なしです。イ短調で始まります(誰ですか?『調号なしならハ長調だろ』と言っている人は?)。

主調がイ短調(コードネームでAm,以下同)ですから,ドミナントの(E7)やサブドミナント(Dm)の和音を伴いながら進行します。
Elise1.png
譜例1.「エリーゼの為に」冒頭。


「ジャン・ジャン・ジャン」と和音の経過句を伴って途中からヘ長調(F)に転調します(譜例2)。わざわざ譜面に調号♭を一つ付けることはせずに臨時記号で対応します。もっともここはヘ長調に転調したというよりも,ハ長調(C)のサブドミナント(F)の扱いでしょうか。

Elise2.png
譜例2.「エリーゼの為に」中間部。
「エリーゼ」がもしギター曲の多くのような転調だったら,中間部がイ長調(A)にならないといけませんが,むろんそのそぶりもありません。ごく簡単な例ですが,ギター曲と鍵盤曲とは,フィギュレーションのみならず和声の扱いも異なるように見えます。

「エリーゼの為に」の例でも,Amから始まって中間部をCだと捉えれば,平行調への転調扱いになります。ギターでは,「禁遊」がEm ⇒ E ⇒ Em,アルハンブラが,Am ⇒ A ⇒ Amでいずれも同主調関係です。ギター曲では機能和声というよりも,旋法的側面が強い(スペイン音楽的)のでしょうか。


ギター曲であえて,同主調関係でないものを探しますと,タレガでは,「マズルカ(ハ長調)」があります。これはC ⇒ Am ⇒ Cの平行調関係で,スペイン音楽と少々趣が異なるようです。「パヴァーヌ」は,E ⇒ B ⇒ Eです。これもギター曲としてはやや珍しく属調へ行って戻っています。「アラビア風奇想曲」では,Dm ⇒ D ⇒ Dm ⇒ F と転調します。この曲を大昔弾いた時は,ニ短調⇒ニ長調はギター曲でよくある普通の転調ですが,ヘ長調になったところで,なにやら別の曲になったような錯覚を覚えたものです。左手の押さえなどの,演奏技術もがらっと変わる気がします。昔この曲が難曲と言われた理由はその辺にもあったのかもしれません。

「アランフェスのコンチェルト」は,楽章単位で捉えれば,ニ長調,ロ短調,ニ長調で,これはスペイン音楽としては珍しく?平行調を使っていますが,これは転調ではなく,独立した楽章ですから,同様には捉えられないでしょう。むしろ楽章内での和声進行を見るべきですが,今回その準備は全くありません。

以上,有名曲をちょろっと見てみただけの戯言です。俯瞰的な話ではありません。
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