ポンセのソナティナ〜その2〜 [曲目]
現在,ポンセの原典版「ソナティナ」に取り組んでいます。
従前(現在でも)「南のソナチネ」の名称で親しまれている曲です。
前回は,曲の名称と各楽章に付けられた副題までに触れました。
今回からは,曲の内容に関してです。
ソナタでもソナチネ(小規模なソナタ)でも第一楽章はソナタ形式になっていることが多いです。いずれの呼称もピアノ学習者には初級レベルで「ソナチネ・アルバム」とか「ソナタ・アルバム」とかをやりますので,これらの呼称はおなじみだとは思いますが,単独の小品が多いギター曲では,ソナタやソナチネは長い曲になり,中級・上級の範疇でしょう。
ここでソナタ形式を復習しておきます。
ソナタ形式の楽曲は,大きく分けて,「主題提示部」,「展開部」,「主題再現部」の3部分からなります。どんな曲にも「主題」はあるわけですが,ソナタには第一主題と第二主題があり,それらが様々に展開され,再現され,フィナーレに至るわけです。概説は,本ブログ開始初期に石桁真礼生の「楽式論」に基づいて記事にしました[1], [2]。
ただしここで言うのは,古典派で確立されたソナタ形式であり,バロック期などのソナタは異なります。D. スカルラッティの500曲以上あるソナタは全て単一楽章の曲であり,いわゆる古典派以降の「ソナタ形式」が使われているわけではありませんし,バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(BWV1001, 1003, 1005)は複数楽章からなる楽曲ですが,やはり形式は異なります。もとは単に歌曲(カンタータ)ではない器楽曲(ソナータ)だという意味に使われ,その後形式を変えて来た様です。
さて,ソナティナ(Sonatina)ですが,これは単数形呼称で,よく使われるソナチネ(Sonatine)は複数形です。ここではポンセの手書譜に従い,ソナティナと呼ぶことにします。
M. M. ポンセ(墨, 1882-1948)がこの曲(Sonatina)を作曲したのは1930年12月[3]の事でした。セゴビアが「純スペイン風のソナチネ」を書いて欲しいという依頼の手紙が1930年8月31日付[4]ですから,かなり短期間で仕上げた事になります。セゴビアの手が入り1939年にSchottから出版された際には,南のソナチネ(Sonatina Meridional)となっていたようです。
セゴビアは,「ソナタではなくソナチネ」と断っていますので,長くなるのを嫌ったようです。現在でもそうですが,古典派の形式のソナタを,全楽章演奏するのも聴き通すのもシロートには大変な事ですので,ポピュラリティを考慮したのでしょう。
ポンセのソナティナの楽曲構造はどうなっているでしょうか?
まず第一楽章。ポンセの原典版でもセゴビア版でも226小節です。第一主題は,セゴビア版ではピチカートで演奏されるモチーフのつなぎ部分などを含めて第1小節から第51小節までです。形式そのものは古典派の形式に基づいており,リピートされます。
第2主題は,51小節目のフェルマータの後に始まります。
古典ソナタ定番で,第2主題は主調のニ長調の属調であるイ長調になっています。非常に単純なモチーフですが,リズムや速度の変化で第1主題との対比は明確です。
第一主題が顔をのぞかせながら,主題提示部は78小節目で終了します。
第一主題。第二主題含めて,まず気がつくのはモチーフとして使われているスペイン的なリズムです(譜例4)。
特に譜例4の1小節目と2小節目に示すリズムはスペイン的でしょう。また,21小節目や,37小節目から(セゴビア版ではピチカート指定)の単純な8分音符のリズムは,フラメンコ的と考えられます。楽譜自体は3/8で書かれていますが,本来フラメンコのリズムは,五線譜の小節線ではなく,時計の文字盤の様な12拍のコンパスで示されます。ですから記譜の3/8拍子では4小節単位で捉えるのが良いようです。その前提で,フラメンコの典型である「ソレア」のリズムを使っているものと想定します(曲全体のリズムの想定であるかもしれませんが)。
古典形式を用いながらも全く古臭さを感じさせないのは,スペイン的なリズムと並んで,その和声や旋法です。例えば,第3小節の和音は主調の短二度上のE♭を使っていますが,ベースはDのままで独特な効果を出しています。譜例4の4小節目のリズムを使う5小節目と6小節目のスケールはフリジア旋法で浮遊感を出して上り詰めます。
展開部以降は次回にします。
[1] 本ブログ「実践的楽式論(5)」
[2] 本ブログ「実践的楽式論(6)」
[3] Ponce Guitar Works Urtext (Schott 2006)
[4] 「現代ギター 名曲演奏の手引き Part IX ポンセとギター」94年11月臨時増刊,p.35.
従前(現在でも)「南のソナチネ」の名称で親しまれている曲です。
前回は,曲の名称と各楽章に付けられた副題までに触れました。
今回からは,曲の内容に関してです。
ソナタでもソナチネ(小規模なソナタ)でも第一楽章はソナタ形式になっていることが多いです。いずれの呼称もピアノ学習者には初級レベルで「ソナチネ・アルバム」とか「ソナタ・アルバム」とかをやりますので,これらの呼称はおなじみだとは思いますが,単独の小品が多いギター曲では,ソナタやソナチネは長い曲になり,中級・上級の範疇でしょう。
ここでソナタ形式を復習しておきます。
ソナタ形式の楽曲は,大きく分けて,「主題提示部」,「展開部」,「主題再現部」の3部分からなります。どんな曲にも「主題」はあるわけですが,ソナタには第一主題と第二主題があり,それらが様々に展開され,再現され,フィナーレに至るわけです。概説は,本ブログ開始初期に石桁真礼生の「楽式論」に基づいて記事にしました[1], [2]。
ただしここで言うのは,古典派で確立されたソナタ形式であり,バロック期などのソナタは異なります。D. スカルラッティの500曲以上あるソナタは全て単一楽章の曲であり,いわゆる古典派以降の「ソナタ形式」が使われているわけではありませんし,バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(BWV1001, 1003, 1005)は複数楽章からなる楽曲ですが,やはり形式は異なります。もとは単に歌曲(カンタータ)ではない器楽曲(ソナータ)だという意味に使われ,その後形式を変えて来た様です。
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さて,ソナティナ(Sonatina)ですが,これは単数形呼称で,よく使われるソナチネ(Sonatine)は複数形です。ここではポンセの手書譜に従い,ソナティナと呼ぶことにします。
M. M. ポンセ(墨, 1882-1948)がこの曲(Sonatina)を作曲したのは1930年12月[3]の事でした。セゴビアが「純スペイン風のソナチネ」を書いて欲しいという依頼の手紙が1930年8月31日付[4]ですから,かなり短期間で仕上げた事になります。セゴビアの手が入り1939年にSchottから出版された際には,南のソナチネ(Sonatina Meridional)となっていたようです。
セゴビアは,「ソナタではなくソナチネ」と断っていますので,長くなるのを嫌ったようです。現在でもそうですが,古典派の形式のソナタを,全楽章演奏するのも聴き通すのもシロートには大変な事ですので,ポピュラリティを考慮したのでしょう。
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ポンセのソナティナの楽曲構造はどうなっているでしょうか?
まず第一楽章。ポンセの原典版でもセゴビア版でも226小節です。第一主題は,セゴビア版ではピチカートで演奏されるモチーフのつなぎ部分などを含めて第1小節から第51小節までです。形式そのものは古典派の形式に基づいており,リピートされます。
第2主題は,51小節目のフェルマータの後に始まります。
古典ソナタ定番で,第2主題は主調のニ長調の属調であるイ長調になっています。非常に単純なモチーフですが,リズムや速度の変化で第1主題との対比は明確です。
第一主題が顔をのぞかせながら,主題提示部は78小節目で終了します。
第一主題。第二主題含めて,まず気がつくのはモチーフとして使われているスペイン的なリズムです(譜例4)。
特に譜例4の1小節目と2小節目に示すリズムはスペイン的でしょう。また,21小節目や,37小節目から(セゴビア版ではピチカート指定)の単純な8分音符のリズムは,フラメンコ的と考えられます。楽譜自体は3/8で書かれていますが,本来フラメンコのリズムは,五線譜の小節線ではなく,時計の文字盤の様な12拍のコンパスで示されます。ですから記譜の3/8拍子では4小節単位で捉えるのが良いようです。その前提で,フラメンコの典型である「ソレア」のリズムを使っているものと想定します(曲全体のリズムの想定であるかもしれませんが)。
古典形式を用いながらも全く古臭さを感じさせないのは,スペイン的なリズムと並んで,その和声や旋法です。例えば,第3小節の和音は主調の短二度上のE♭を使っていますが,ベースはDのままで独特な効果を出しています。譜例4の4小節目のリズムを使う5小節目と6小節目のスケールはフリジア旋法で浮遊感を出して上り詰めます。
展開部以降は次回にします。
[1] 本ブログ「実践的楽式論(5)」
[2] 本ブログ「実践的楽式論(6)」
[3] Ponce Guitar Works Urtext (Schott 2006)
[4] 「現代ギター 名曲演奏の手引き Part IX ポンセとギター」94年11月臨時増刊,p.35.
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