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実践的楽式論(6) [音楽理論]

暗譜のため,楽式論をかじっている。
石桁真礼生の「楽式論」を用い,今回は第2編・基礎楽式のうちの,第5章ソナタ形式のつづき。

第5章 ソナタ形式(つづき)

・ソナタによる実例解説
ベートーベンにより完成されたとみなせるため,彼の作品を研究するのがその理解の近道である。ここでは,まずソナタらしく,あまり規模の膨大でないものとして,Op.2-1ヘ短調,第1楽章を見る。
主題提示部は,第1主題群・経過句・第2主題群・小結尾より成り立っている。
譜例132は第1主題である大楽節。半終止のまま,強い疑問を残して停止する。フェルマータはあたかも疑問符のようである。
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譜例133の小展開を経て,譜例134の経過句に接続。
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和声は変イのTと変ホのTとの間をゆれ動くが,その支点は変ホのTであり,譜例135に示す変イ長調の第2主題の準備がなされる。譜例135は第2主題の冒頭および後尾で,二つの大楽節よりなる主題群を成している。
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譜例136は第2主題のBとしての大楽節の前半小楽節。
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譜例137は小結尾。
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譜例138は展開部(1~5)の主要な旋律。
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再現部は,ほぼ提示部の反復である。コーダは提示部の小結尾に数小節付加されたのみだが,副七の和音を連続し曲を締めくくる。以上がOp.2-1ヘ短調,第1楽章の実例。

さらに規模の大きいものの例として,中期の傑作「熱情」があげられる。これは32曲のピアノ・ソナタの23曲目。主題提示部のリピートがなくなり,直ちに展開部に入る。そのためか,展開部は提示部の展開的反復ともいえるものである。これほどの長大な曲のほとんどが,必ずといっていいほど二つの主題群に由来している。主要な第1と第2主題の動機が,別個の,あるいは異種のものではないことは驚くべきことである。

ソナタ形式は組形式としてのソナタやシンフォニー,室内楽,協奏曲などの第1楽章に圧倒的に多く用いられる形だが,他の楽章に用いられないこともない。定番であった最終楽章のロンド形式から,ソナタ形式への移行もある。これは,後述するロンドソナタ形式への進化を意味する。以下に,ソナタ形式に関する諸事項をまとめておく。

・ソナタ以外の名称をもつ楽曲のソナタ形式
ソナタの名称をもたない,ソナタ形式の楽曲も数多くある。有名な例ではブラームスのラプソディなどがある。

・両主題の設定について
この極致はベートーベンのシンフォニー第5番の第1楽章の第1主題(譜例155)と第2主題(譜例156)。この第1主題はあらゆるソナタ形式の中で最も短く展開可能性を持っている。いわば展開の素材そのものである。第2主題も非常に短くおだやかでバランスが取れている。低音に第1主題の動機の片鱗がある。元来両主題は異質なものではなく,根本的な楽想を異なった手法で表現するものである。
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楽譜156.JPG

・経過句と小結尾について
経過句は和声的に安定であってはならない。不協和音的であり,第2主題が安定した和音にのってあらわれるように作るべき。なるべく完結せず,動きの多い,不安定なものでなくてはならない。
小結尾は,必ずしも必要ではなく,強大な印象は避けるべき。主題(主に第1主題)に関連あるもので提示部を一応確立させるため第2主題の調による終止形(T-S-D-T)を持つものが良い。

・展開部と転調について
最高潮部分が展開部に存在する。ぐんぐん盛り上げるためには,この中で安定した調に留まることなく,頻繁な転調が必要である。ただし,主調に復帰すべく見通しを持った転調が必要である。主調に復帰する準備として,属音の低音持続音オルゲルプンクトが打ち鳴らされる。展開部の手法としては,移調的変化・装飾・和声律動音高線の変化・拍子変化・速度変化・対位法的処理・フガート(フーガ的技法)の使用等々。これらの手法を転調進行とからみ合わせて用いる。

・再現部と結尾句について
例外はあるが,再現部は両主題が主調またはその同主調に復帰する。再現部における主題の反復は機械的におちいらず,省略・延長により新鮮味をだす必要がある。結尾句は曲最後のコーダなので,曲を完結させるための適切な長さで,主調を強烈に指向したものでなくてはならない。

・導入部について
心理的準備としての緩徐楽章を前置することがある。ここは際立った主題的印象をさけ,明確な線の無いものがよい。ベートーベンなどの構成の大家はなんらかの意味で主題を暗示しているようである。

・一元的作法によるソナタ形式
ベートーベンは二つの主題を有機的に関連付けているが,それをさらに推し進めたのが,ブラームスのソナタヘ短調Op.5などの例。両主題および経過句・結尾まで全く一元的な動機構造の変形の編合であり,ただ1個の要素よりいかに多様性を発揮しうるかという一つの極限を示している。

・ソナタ形式の変態
リストによってさかんに用いられた「循環形式」とも呼べるソナタ形式の変態がある。
また,ロンド形式とソナタ形式の折衷形式に「ロンドソナタ形式」がある。これはソナタ形式の展開部分にロンド形式の中間部分を構成したものや,反対にロンド形式のの中間部分の代わりに主題の展開風の部分を構成したものである。

ソナタ形式は,対比と統一の妙を,著者の言葉を借りれば「立体的に」構成した,最も成熟した楽式といえるだろう。
基本楽式の締めくくりで第6章はフーガ形式だが,これは構成上の配列による分類とは異なる。この解説は別の機会にゆずるとして,基礎楽式はここで終了する。(おわり)

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