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実践的楽式論(5) [音楽理論]

暗譜のため,楽式論をかじっている。
石桁真礼生の「楽式論」を用い,今回は第2編・基礎楽式のうちの,ソナタ形式を概観する。

第5章 ソナタ形式

ソナタ形式は,組形式(多楽章楽曲や組曲の形式)としてのソナタ(Sonata;奏鳴曲)と区別する必要がある。ソナタとはソナタ形式で書かれた楽章を一つ含み,数楽章で構成された楽曲をいう。ソナタという名称は,鳴り響くという語義より,器楽曲の形式である。さらにピアノなどの独奏楽器のための楽曲の名称である。したがって,ソナタ形式で書かかれていても,弦楽合奏やオーケストラ,声楽曲などには用いられない。今まで述べてきた形式,次章のフーガ形式を含めた全楽式のなかでも,最も完成された楽式である。ベートーベンによって完成されたとみなしてよい。

・ソナタ形式の概観
主題を多種・多様に利用・展開して,複雑・立体的曲想を持ちえる形式である。骨格としての形式的区分は,

主題提示部展開部主題再現部

という3部分的なものである。
主題提示部は,主題を提示する全曲の1/3くらいの部分。主題はたいてい第1主題と第2主題に別けられ,それをつなぐ経過句が存在する。たとえばハ長調の第1主題からト長調(属調が多い)の第2主題への転調楽句である。

これらの構造を簡単明瞭に示す,ソナチネとよばれる小さな規模のものから,主題が主題群とも呼ばれるべき,二つあるいは三つの大楽節で構成(2部・3部形式)されていたり,数個の主題を合成したものである場合がある。

経過句も,単なる走句状のものから,ベートーベンに見られるように,第1主題を素材として展開的に積み重ねられ進展し経過句を形成するような進化を遂げている。

さらに,第2主題(群)に入り,これが終わってもすぐに終了させずこの部分を確立させるため,第1主題の動機構造に関連させた小結尾がつくこともある。以上,主題提示部は属調で終了し,展開部に向かう。ベートーベンの中期までは例外なくこの部分を反復する。

以上まとめると,
主題提示部=第1主題(群)+経過句+第2主題(群)+小結尾
と表される。

展開部は,動機構造を素材として展開し,曲を頂点に持っていく,最も技巧的で性格的な部分である。ただしモーツァルトにおいては主題からとらず経過句や小結尾からとっているものがあるが,これは例外と見る。頂点に達しこの部分が終わり近くなった時に,低続音(オルゲルプンクト)が現れることが多い。これは主題再現部に入る準備として高い価値を持つ。低続音は主調の属音が慣用される。

主題再現部は,おおまかに主題提示部の反復的再現である。主題提示部と異なるところは,主調またはその並行調か同種調に復帰するところである。そのため,経過句にも多少の変化がおこる。提示部の終了は楽曲の終了を意味する。この部分には,主題提示部の小結尾よりも長大なCodaが現れることがあり,主調で終わる。

・ソナチネによる実例解説
ソナチネによりソナタ形式を完全に理解することは出来ないが,学習の手始めには非常に有効なもの。ここでは,クレメンティのOp.31-1,ハ長調の第1楽章を用いる。譜例124にその第1主題を示す。
楽譜124.jpg
和声は属調で開いたまま。譜例125はつづく経過句である。
楽譜125.jpg
主題の動機を用いつつト長調に転調させている。譜例126はつづく第2主題である。
楽譜126.jpg
8小節からなるが,真正の第2主題は前半4小節で後半4小節は小結尾の意味を持つ。
これだけで簡潔に主題提示部を終了する。ただし当時の慣習で反復。

譜例127は,展開部である8小節。主題提示部のト長調の終止に引き続き,ハ短調の属調で開始。2小節目の変ホ音でハ短調が明確になる。これらの音型は第1主題のもの。ト音の連続はオルゲルプンクトと見られる。最後の低音のホ音の出現により,ハ長調が準備され,再現部の第1主題の出現を準備している。
楽譜127.jpg
譜例128は,主題再現部全体。第1主題はオクターブ下だが全く同一。再現経過句は転調の必要がないので提示部の動きとは異なる。第2主題はソナタ形式の定石よりト長調から主調のハ長調に復帰し,提示部とほぼ同じ構造を持つ。展開部の初めから反復されて終了する。
楽譜128.jpg
上の例はきわめて簡潔なものであるが,もう少し複雑な形をしたソナチネも多数見られる。例えば,ソナチネアルバムの2番のクーラウのOp.20-2は,さしたる展開はなくても提示部や再現部の主題に変奏的反復が見られるなど,ソナタにいたる中間的なものともいえる。
つづいて,「ソナタによる実例解説」だが,長くなったので次回に回す。
(つづく)

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