SSブログ

ハカランダの憂鬱 [楽器音響]

依然ハカランダ材はギターの最高級材として君臨しています。

音質・音量にはスプルースやシダーなどの軽い表板の方が直接的には効くわけですが,ハカランダの主要の使われ方は,表板を支える側面板や裏面板としてです。むろんこちらも音質には寄与します。

当ブログ開始初期に記事にしましたが,沢山の方々に閲覧されました。当初当方も誤解していたのですが,紫色の花の咲くハカランダ(Jacaranda)は,材になるハカランダとは全くの別種で,白い花のマメ科のハカランダがギター材などになるものです。この材は数十年以上前は太材で家具などにも使われていましたが,乱獲がたたったのか,現在ではワシントン条約の中でも最も厳しい"CITES Appendix I"に指定されています。

以下にThe Wood DatabaseのSustainability欄に記載されている記載(の翻訳)を転載します。

ブラジリアン・ローズウッドは,最も制限の厳しいCITES附属書 I にリストされ,木材で作られた完成品も含まれている。これは,附属書 II に記載されるすべての Dalbergia種に対する既に制限されている属全体の制限に取って代わる唯一の種である。また,自然生息域の減少と乱獲により,過去3世代で個体数が20% 以上減少したため,IUCN レッド・リストに脆弱性があると記載されている。

何分,稀少性があると欲しくなるのが人の常。「ハカランダの音でないとダメ」という方もいます。新作楽器でハカランダが使えるのは,余程昔からのストック材を持っている伝統的な工房だけでその金額もうなぎ上りです。

60年代以前の楽器ではそう高級機種でなくても普通に使われているものです。以前当方が所持した初期の河野でも,例え質素な糸巻きが使われていても,サイド・バック材は普通にハカランダの柾目材でした。

どうしてもハカランダの材質の音が欲しい。となれば板目材でもいた仕方ありません。木材の柾目・板目は,(過去記事から)以下の通りです。柾目材をとるには大径木が必要な事が分かります。

柾目のコピー.jpg
過去記事に示した柾目(quater)・板目(slub)のイラスト。柾目は原木の半径以下,板目は同直径以下で木取りされる。skewは角材では四方柾と珍重される事がある。
板目材でも手に入れば良いですが,それもムリとなると,代替の材が必要です。昔から使われているのが,インディアン・ローズウッドです。むろん必ずしもハカランダの代替というわけでも無く,銘器フレタではこれが標準でした。ハカランダに比べ資源のサスティナビリティは大丈夫かと思っていましたが,やはり熱帯雨林産であるためか,上掲のThe Wood Databaseによれば,ハカランダほどではないにしろ,CITES附属書 II に載っています。


ハカランダがダメ,インドローズもダメとすると,代替の材を探さないといけません。ハカランダが使われる前から使われていたのが,ヴァイオリンやチェロと同じカエデ材です。インディアンの鈍さに比べたらカエデの方が良いと言う方もいます。表面板のサイド・バックが黒っぽいツートーンを見慣れていると,場合によっては色の濃さが逆転するカエデ材使用の楽器は奇異に映るかもしれません。

Torres11.jpg
サイド・バックが糸杉製のトーレスのボディ。「フェザーの様に軽い」1.1kg。
クラシックギターと形状がそっくりなフラメンコギターのサイド・バックに伝統的に使われるのが,糸杉(シープレス)です。これも白っぽいので,サイドバックにこれが使われているものを白,ローズ系を黒と言って区別します。

クラシックギターのサイド・バックに糸杉が使われることはほぼ無いと思います。即ち,クラシックギターの白は無いと思いますが,銘器では区別がないとも言われます。実際トーレスでは糸杉仕様のものがありますが,これをフラメンコギターとして使う方は(たぶん)いないと思います。現代の作家ではアルカンヘルに糸杉仕様のものがあり,当方の現在の主要愛器がこれです。

糸杉はローズ系の熱帯雨林産の堅材では無いため,ワシントン条約のCITESには載っていないですがIUCNのレッド・リストには載っている(ただし自然木の範囲で植林のものは含まず)とのことです。

  IMG_3427.jpg
  当方の現在の愛器アルカンヘル。1.2kg。
当方の個人的好みでは,ローズ系の重い楽器よりも糸杉などの軽い楽器が好きになりました。アルカンヘルが1.2kgです。しかし,それもハカランダの楽器を既に何本か所有するための贅沢なのかも知れません。これから所有する方が,折角所持するならハカランダの楽器をという気持ちもわからないではありません。

しかし無い袖は振れません。
現在では量産品はもちろんのこと,手工品でも代替えの材が使われることが多い様です。中には木目だけ見たのではハカランダそっくりなものもあり,新作ではなかなか素人目では区別できなくなっています。じつは木目の見方について書こうと思って書き出したのですが,前置きが長くなりすぎたので次回の記事としたいと思います。
nice!(38)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

nice! 38

コメント 4

八犬伝

確かに乱獲によって
使えなくなってしまうものも
これから、どんどん増えてきそうですね。
by 八犬伝 (2023-04-23 12:50) 

アヨアン・イゴカー

小林良輔と言うギター制作者をご存知でしょうか、結構、海外でも有名らしいのですが。
この方は、相模原の甥の作業場一階を工房にしています。
by アヨアン・イゴカー (2023-04-23 13:56) 

Enrique

八犬伝さん,
かなり前からハカランダの枯渇が言われています。
尤も,ギター材になるのは年数経たものでないとダメなので,新作楽器には古いストックや古い建物や家具などから採ったものなどが使われています。楽器に使うのは極く少量なので多めに見てもらいたいものです。
by Enrique (2023-04-24 19:03) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,
その方は存じあげませんでしたが,調べてみたところ,スチール弦ギターを多く作る方で,クラシック・ギターも良いものを作っていらっしゃる様です。この方の師匠の杉田健司さんは良く知っています。お弟子さんが何人かいらっしゃる様でしたが,そのお一人だったようです。
杉田健司さんは町田の茶位幸信工房出身ですから,この方は茶位さんの孫弟子ということになりますが,アメリカの方にも師事しており,クラシックの楽器はトーマス・ハンフリー直伝のレイズドフィンガーボードを得意としていらっしゃる様です。
by Enrique (2023-04-24 19:13) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。