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オイラーの公式が分からなかった [科学と技術一般]

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数学者オイラーには膨大な業績がありますが,数学に不案内な当方でも知っている最も有名かつ有用なものに,今日「オイラーの公式」と言われる等式があります。

若い頃こんな公式を習いましたが,その意味が皆目わかりませんでした。

多分最初に見たのは,数学ではなくて,電気工学の交流回路理論でだったと記憶します。
数学で虚数単位は\(i\)ですが,電気工学では電流\(i\)と混同するので,\(j\)と書きます。自然対数の底(\(e\)は,電圧と混同するので\(\varepsilon\)と書きます。また位相角\(\theta\)は角周波数\(\omega\)と時間\(t\)の積ですから結局,
\[\varepsilon^{j\omega{t}} = \cos{\omega{t}}+{j \sin \omega{t}}\] と教わりましたが,最初は皆目分かりませんでした。これはオイラーの公式に他なりません。むろんこれは飾りでは無く回路解析にばんばん使うわけです。交流回路理論ではまず\(j\omega\)が出てきて,電流・電圧(とインピーダンス)を複素平面上のベクトル図で表し,この複素指数形式が使えれば,交流理論は佳境に入るわけです。

特に,電流・電圧の掛け算である電力の計算には便利です。交流回路理論では,変動する交流の電圧や電流を直流の場合と大差なくするために複素表現するわけですが,上の関係式を使えば,電流や電圧を絶対値と偏角という指数関数表現出来るので,掛け算や割り算が容易になります。三角関数そのままでの掛算・割算は容易ではありませんが,指数表現であれば絶対値を掛算・割算して,偏角(位相角)は指数法則に従って足算・引算すればよいだけなので楽です。

数学では, \[e^{i\theta} = \cos{\theta}+{i \sin \theta}\] と習いますが,むろん上の対応で全く同じものです。一つの指数関数\(e^{i\theta} \)と\(\cos\)と\(\sin\)の2つの三角関数が結びつく???と。

後に,ノーベル賞学者の朝永振一郎が旧制高校時代習った時この式の意味が分からなかったと,氏の書籍で読みました。指数関数という単調なものと,三角関数という周期関数が結びつくというのが分からなかったと。何と正直な話でしょう。ずっとこの式の意味を考えていたが,ある時悟ったと。「この式は定義式であった」と。この記述を読んで,この手の訳の分からないもので完全に自信を失っていた当時の当方にも勇気が出て来ました。

電気工学の交流理論では,この関係式が使いこなせるかどうかがポイントと言ってもいいくらい有用かつ強力な式です。「定義式」と言ってしまえばそれまでですが,具体的にどうなっているか納得するためには,マクローリン展開で見ておくのが順当でした。

マクローリン展開とは,微分の定義式を逆に眺めたようなもので,微分を使って元の関数を級数展開で表そうと言うものです。

左辺\(e^{i\theta}\)のマクローリン展開(ここでは難しそうに見える\(\sum\)記号を使った一般項表現は書きません)は,
\[e^{i\theta}=1 + i{\theta} - \frac{\theta^2}{2!}-i \frac{\theta^3}{3!} + \frac{\theta^4}{4!}+i \frac{\theta^5}{5!} - \cdots \] 余弦項のマクローリン展開は,
\[\cos{\theta}=1 - \frac{\theta^2}{2!} + \frac{\theta^4}{4!} - \cdots \] 正弦項のマクローリン展開は,
\[i \sin{\theta}=i{\theta} -i \frac{\theta^3}{3!} +i \frac{\theta^5}{5!} - \cdots \] となって,見事にひとまとめにしたほうがシンプルになっています。
左辺の指数表現のほうはマクローリン展開の整数項すべてを含み,右辺の余弦項は偶数項,正弦項は奇数項で分担しています。ごちゃごちゃしたものが,ひとつの指数関数\(e^{i\theta}\)で表すことが出来るのです。神秘的とも言えるくらい精妙です。指数関数は,虚数単位\(i\)を抱いた瞬間に単調関数ではなく複素周期関数に変貌するのでした。横軸実部・縦軸虚部で表す複素平面の極座標表現とも言えるものです。

朝永振一郎と同時にノーベル物理学賞を受賞したファインマンは,この公式を「人類の至宝」と讃えたそうです。
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