SSブログ

アナロジーと過剰一般化 [雑感]

先日来の記事を書いて来て,色々な誤解の原因がこのようなものだと考えました。

EnriqueAutographSmall.png
一つ目は,当方が当初想定した「チェロのエンドピン効果がピアノでもあるはず」というもの。これは「アナロジー」の落とし穴だと思いました。アナロジーとはある分野での状況が他の分野でも似た様に成り立つ事であり,思考や理解の大きな武器になります。しかしながら,モノや環境・条件が違えば当然異なっていることもあります。アナロジーという思考道具を使うにしても,相違点に十分注意を払わないと間違いを冒しかねないと言う事です。


一時期流行?した「過剰一般化」というのも似たところがあります。分野のある特定のサンプルがそうだから,分野全体がそうだとしてしまう誤りです。私がかつて取得した,とある資格の論文試験では「家庭の主婦でもわかる様に書きなさい」とか言われたものですが,今なら完全にアウトでしょう。家庭の主婦をしている物理学者だっているだろうし,仕事はバリバリできたって,科学技術方面さっぱりなオトウサンだって少なくありません。過剰一般化も甚だしいと全体主義になり暴力的ですらあります。

ギターの誤解」は,他楽器に比べて楽器そのものや使われる音楽分野や奏法のバリエーションが多く,分野ごとに理解していればまだしも,分野があるという理解すら無ければ,色んな誤解を招きます。


「釣りの誤解」として渓流で投げ釣りをやっていたオジサンの例を書きました。しかしあのオジサンを笑えません。海のキスも川のイワナも「魚」であり,「釣り」である事は共通です。「一般化」の対象として何の不都合もありません。「過剰」部分で起こる不都合が問題なわけです。あの堂々たる釣り姿からして,オジサン投げ釣りの名人だったのかもしれません。海でキスなどがぼろぼろ釣れれば,渓流でも魚さえいれば簡単に釣れる筈と思い込んでしまっても不思議ではありません。過剰部分に気付いていないわけですから。


当ブログでは初期の頃,クラシックギターに関してよくある一般人の誤解を,他分野での誤解を引き合いに出して指摘していましたが,その事自体が理解されたかどうか自信ありません。例えば蕎麦はもともとは蕎麦粉を使ったものだったわけですが,中華そばがメジャーになると,従来の蕎麦は日本そばと言わなければ通じなくなったとか,魚の鯛に至っては本来の鯛の種類ではない何十種類ものナントカ鯛がいるとか,あと蝶の誤解についても書きました。

一般人はひらひらと舞うのをチョウだと思っていると。むろんそれでさしたる問題は起こらないですが,観察力で常人離れしているはずの日本画の巨匠たちでも,若冲は架空のチョウを描き,観察が細かく正確な応挙との違いを見せつけています

だいたい「ひらひら舞う」のはモンシロなどのシロチョウ類くらいで,飛び方も種類によりかなり違います。極端な例を挙げれば,オオムラサキはグライダーの様に滑空しスズメすら追い払います。一方,小さいセセリチョウなどは,これを蝶と思う人じたいが少ないのではないでしょうか。英語でもこれはbutterflyではなくて,skipperです。

「白い小さな蝶がモンシロチョウで黄色いやつがモンキチョウ。」くらいが一般人の把握でしょう。黒い大きなのがクロアゲハ,黄色っぽいのがキアゲハ。上々です。白い小さな蝶でもモンシロ以外にスジグロもいるとかツマキもいるとか,そんな事はどうでもいい事です。殆どの人がキチョウのことをモンキチョウだと思っていても何も不都合ありません。それどころか,蝶と蛾の区別すら怪しいのが実態ですが,日本語ではまだ一応区別をしますが,フランス語では両者の区別すらないと。


アナロジーの使用には注意すべき,得意分野と一見類似の他分野にはみだりに手を出さない,十把一絡げに捉えて間違った判断を下す過剰一般化には気を付ける,など。むろん,知らない分野の事は,陥りやすい誤謬に気をつけながら想像力で補うしかありません。

ただし,この様な指摘じたいが「過剰一般化」にならない様気をつけないといけません。
nice!(21)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

nice! 21

コメント 4

アヨアン・イゴカー

「一を聞いて十を知る」というのは素晴らしいことですが、実際には「一を知って、十分かったような気になっている」ことが多いと思います。私は自分時この傾向があることが分かっており、常々苦々しく思っています。
阿呆の矢はすぐ尽きるといいますが、「過剰一般化」は本当に心していないと、つい自分の無知を晒すはめになります^^;
by アヨアン・イゴカー (2022-02-02 14:52) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,
仰ることよく分かります。
自分が多少人よりも詳しい分野で人様の反応は分かっても,立場が変わると自分も同じようなものかと,後から羞恥の念に駆られることがあります。余り気にしすぎないのが良いとは思いますが,自戒の念を込めております。
by Enrique (2022-02-03 16:58) 

Ujiki.oO --> 毛細血管と水素吸引

なかなか鋭い話題ですね。
私の様に「おしゃべりの中心に居たい」と努力する嫌われ者は、唯我独尊を宗教にしてしまって、本質を見抜けないままに、周囲から嫌われ続けます。それはそれで死ぬまで治りませんので、見捨てられるサイドの人間でしかありません。 ただ、「黙してしまう程の消極的人間関係」よりは、人間として、少しだけましかも知れません。(笑)
 同じ人類である「幼い子供」に聞いてみるのは良いかも知れないです。「そいつは、どこに居た?」と聞くだけにして、絵本なのか、アニメなのか、友達なのか・・・・・ 子供が認識する知識のよりどころを知るのは、事象の真偽を定めると言うこととは遠く離れて、その行為そのものが有意義だと思います。 「どうして歴史を湾曲させるのか?」 「どうして戦争を起こすのか?」 きっと大切な判断を導く脳細胞の偏向回路は、非常に残念ですが、自分を含めて、100人が100人、間違った思考回路を持っているのかも知れません。 ならば「諦めるのか?」と聞かれれば、「勉強せよ!」としか、言えません。

 そうそう、1月は「落胆の日々」でしたので、挨拶が遅れてしまいました。 「今年も宜しくお願い致します」 2021年を含めて、6台の高額高級 Gaming PC を発注し、それぞれのメーカーが了解したので、都度、返品し続けました。クレジットカードへの赤伝処理は完結しました。 今は、愛悪のパソコンの時代です。 これを考えると、気力と言う生命力が無くなります。(大笑)
by Ujiki.oO --> 毛細血管と水素吸引 (2022-02-15 10:21) 

Enrique

Ujiki.oOさん,
こちらこそすっかりご無沙汰しており申し訳ありません。
ギターをやってない方で,即クラギの本質を見抜いたのはUjiki.oOさんだと思っています。
何事も虚心坦懐に基礎から考えるのが良いと思うのですが,どうしても過去の経験と見たもの見えるもので判断しがちです。嗜好で判断しがちです。むろんそれが正しければ良いのですが,あからさまに間違うこともあります。確かに正しい判断を下すには勉強するしかないのですけれども。
by Enrique (2022-02-16 07:20) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。