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ギターの誤解 [楽器音響]

「ギターとは誤解の多い楽器」とは良く言われることです。

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クラシックギター。
このタイプ一種類のみです。
まず,やたら種類が沢山あります。
クラシックギターならどの銘柄であっても素人が区別できないくらい同じもので一種類です。しかし,クラシックギター以外のギターでは実に様々な種類があります。アコースティックギターと言われる鉄弦の楽器では,楽器のボディサイズや形,色などにも様々なバリエーションがありますし,エレキギターの種類はもっとすごく,一体何種類あるのか部外者には見当も付きません。

クラギをやる人にしたら,「クラシックギター=ギター」だと思っているわけですが,アコギの人にしたら「アコースティックギター=ギター」ですし,エレキの人はエレキギターこそギターだという認識でしょう。


楽器店に並ぶ様々な「ギター」。ちなみにこの中にクラシックギターはありません。Attribution Some rights reserved by Larry Ziffle

現在のクラシックギターはアントニオ・デ・トーレスの楽器が原型になっていて,形状は殆ど変わりませんが,それ以前のいわゆる19世紀ギターには各国各様のタイプがあり,これらがアメリカに渡って,マーチンやギブソンと言ったブランドでアメリカ発祥の音楽ともコラボしてアコースティックギター類が誕生しました。更には電気楽器の最大の発明と言われるエレキギターを生んでいます。

むろん広い意味では全てギターなのですが,使用される音楽ジャンルも奏法も構えも全く異なります。こういう事は,あまり他の楽器では無い事なので,まずは種類の誤解を生むのでしょう。


アコースティック・ギター(昔はフォークギターと言いました)は,鉄弦でネックが細いのが共通の特徴です。コード弾き前提で歌の伴奏などに特化されていますので,指弾きでの独奏にはあまり向きません。ボディは大きいドレッドノートタイプ(昔はウェスタンギターとか言いました)から,クラシックギターと同程度のボディサイズのものまであるので,まずこの辺でクラシックギターとの混同が起きるのでしょう。

同じギターなら弾けるだろうというわけで,「アナタ,ギターを弾くそうだから何か弾いてくれ」と言われてフォークギターを渡されて困った記憶があります。「何だ,口ばかりで弾けないんだ。」と言われても,誤解を解くのも面倒なので,「弾けません,弾けません。」と逃げるしかありませんでした。

両方弾く人もたまにいますが,技術はかなり異なります。楽器がそれぞれの奏法に特化しているからです。極端に言えば,ヴァイオリンの人にウクレレを渡して「さあ弾け」と言っているようなものですが,さすがにそれならお笑いですが,ギターの場合は,元々の種類の違いにも気づいていない人が多いのでシャレになりません。

エレキギターとクラシックギターと混同する人は余りいないとは思いますが,当然これもかなり違います。エレキ楽器は電気増幅するのが前提ですから,弦の振動を減衰させないようボディはソリッドタイプでは分厚い板です,電磁ピックアップで弦振動を拾いますので,弦は鉄弦です。またジャズなどで良く使われるアーチトップの楽器の中にはボディに空洞があるタイプもあります。


しかも,(これも大きいのですが)広く普及しているのが,クラシックギター「以外」の楽器だという事です。実際,一般の楽器店に行っても,殆どクラシックギターは置いてありません。当然お店はビジネスですから,良く売れる楽器を置くわけですが。

世間一般のクラシックギター観は,沢山ある中のせいぜい「その他の(変わった)ギター」の一つくらいのものでしょう。


奏法の誤解もかなりなものです。
ギターとは「ジャン・ジャン」と掻き鳴らすものというイメージが世間一般には強い様です。掻き鳴らさない奏法を知っている奇特な人でもそれは「アルペジオ」だと。いずれにしろギターは和音を鳴らすものだという理解・意識が強い様です。

アコギではあまり楽譜は使わないようで,コード譜が主でしょうか。

アコギでは色んなコードを弾く伴奏と,単旋律のメロディを弾く場合とで楽器の機能を分けているのではないかと思います。エレキの奏法は良く知りませんがメロディを弾くタイプは楽譜は必要でしょう。

クラシックギターでは,ふつうに五線譜を使って,メロディも伴奏も一緒に,音は一つ一つ明瞭に出します。音をきっちり弾き分けられる様に指板幅は広く,もともと指弾きです。従ってピアノと同様独奏が可能な楽器です。和音はもともと得意ですので,スパニッシュなテイストの掻き鳴らしもたまにはやりますが,それはクラシックギターではラスゲアードという特殊奏法です。クラシックギターの奏法は,ピアノの両手分に近い事を一本の楽器でやるということです。メロディとバスと内声を同時に弾きますので,多声音楽が一本の楽器で演奏できます。バッハの曲に代表されるポリフォニーの曲も,難しいですが可能です。


具体的な曲やジャンルを示した方が良いのかもしれません。

クラシックギターで主にやる音楽:
クラシックギター用に作曲された古典以降のオリジナル曲
リュートやビウエラ,バロックギター用などに作曲された古楽
他のクラシック楽器からの編曲作品

楽器としてクラシックギターを用いる音楽:
演歌,歌謡曲,ジャズ,フージョン,フラメンコなど

アコースティックギターやエレキギターで主にやる音楽とも分野が被るので,誤解も生まれるのかもしれません。他の楽器では,「クラシックピアノ」とか,「クラシックヴァイオリン」とは余り言わないのに,ギターの場合は「クラシックギター」としっかりと言わないと通じないというのも世の人の認識の差だろうと思います。ピアノというとクラシック音楽で,「ギター」というとポピュラー音楽という様なイメージが出来上がっているのでしょう。「へー,ギターでもクラシックができるんだ?」とその様な誤解が一般シロートのみならず音楽関係の専門家にまであるのは困ったものです。


もう一つ罪作りなネーミングが,「アコースティック・ギター」。本来のネーミングの意味からしたら,エレクトリック(エレキ)ではない「生ギター」の事を言うわけで,クラシックギターも当然含む総称なはずですが,何故か鉄弦の特定の楽器を指すということで,クラシックギターは蚊帳の外のようです。

クラシックギターを「母屋」というつもりもありませんが,なにやら「軒を貸して母屋を取られた」ような格好になっています。むろん楽器の普及のためにはポピュラリティも必要なわけですが,どーっとブームが来たり,そうで無くなったりの波が大きいという事は,親しむ人の人口は多いものの腰を落ち着けてじっくり取り組む人が案外少ないという事を表していると思われます。


クラシックギターを認識している人の誤解もあります。
「禁じられた遊び」が初級曲で,「アルハンブラ」がものすごい難曲だと。どちらも超有名なギター独奏曲ですが,特にアルハンブラは,伴奏を伴いながらメロディをトレモロで弾くというのが信じられない超絶技巧に映るようです。一方「禁じられた遊び」はアルペジオだから簡単?だと。後半の長調部分で比較すれば技術的に両者は大差ないと思います。


どんな分野でもシロートの誤解はつきものですが,楽器としてのギターの場合はそれが顕著のようです。また物事には例外と言うものがあり,一般人の誤解が必ずしも誤解とは言い切れないところもあるのが,またその解消を難しくしている面もあるのでしょう。
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REIKO

最近知った英国の音楽検定MTBには、Classical Guitarの他にContemporary Guitarというのがあり何だコレ?と思ったら、小さな女の子が大きなエレキギターをのけぞりながら弾いてる写真が出ていて、こちらがのけぞりました(笑)。
以前はPlectrum Guitarと言っていたのを改称したようです。
どちらも日本ではあまり聞かない言葉ですね。

他にはピアノやヴァイオリンを初めとして、吹奏楽でおなじみの各種管楽器やパーカッションまであるのに、なぜかAcoustic Guitarはありません。
コード弾きするだけだから、グレード別検定には向かないということなんでしょうか?
by REIKO (2022-01-23 00:59) 

Enrique

REIKOさん,
欧州では,Classical Guitarは伝統的に認知されていますので,まずそれが基本としても,Electric Guitarの隆盛は無視できないのでしょう。人口的にはずっと多いでしょうから。しかも,ギターの種類と奏法とが必ずしも一致しないところもあり,音楽検定でも取り扱いが難しそうです。確かにPlectrum Guitarならば,普通に言うElectric Guitarと電気でないAcoustic GuitarなどのSteel Stringの楽器をまとめられそうですが,必ずしもそれで縛れないところがギターの難しさだろうと思います。確かにContemporary GuitarならばClassical Guitar以外の楽器とできますが,どんな検定をやるか難しいところでしょう。
ヤマハのクラシックギター検定ではグレードによりコードによる即興演奏も課題の一つ(上のグレードではコードは与えられません)ですが,確かにコードによる伴奏演奏だけでは検定に乗らないでしょう。以前NHKで坂本龍一の「音楽の学校」という番組で色んな楽器が登場する中,エレキの少年も出ましたが,音楽能力が全く異なり(歪ませた音でメロディを弾くだけ。。。)出演者も対応に苦慮していました。Classical Guitarは「難しい楽器」と言われますが,Contemporary Guitarというのも(それ自体の取り扱いや奏法の定義など)別の意味で難しい楽器だと思います。
by Enrique (2022-01-23 04:03) 

風神

ギターをかじった者として、そんなに誤解があるとは知りませんでした。
by 風神 (2022-01-23 21:00) 

Enrique

風神さん,
誤解を誤解と言い切れない所も難しいところです。各ギター分野では誤解も何も無いですが,他音楽分野や楽器をやらない一般人の誤解にはすごいものがあります。
by Enrique (2022-01-24 11:11) 

oga.

なんか、私も経験したことがひととおり書いてあってにんまりしてしまいました。わかってもらえないジャンルだから、余計に愛着を持ってしまうのかもしれませんが。
by oga. (2022-01-27 21:27) 

Enrique

oga.さん,
当ブログの初期の頃は結構こういう話を書いていたのですが,また初心を思い出して書いています。本当に理解されないものです。クラギの人間からしたら,楽器を真横にしてピックでスチール弦をはじく方がよほど特殊な弾き方だと思うのですが,世間一般ではそれが「ふつうの」ギターの弾きかたなのでしょう。
自爪で弾くというのも一般人には信じられないらしく,その対処に長年苦慮しました。あまり気にしなくなったのはほんの最近です。

by Enrique (2022-01-28 14:47) 

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