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ヴィブラートに関して [演奏技術]

過去記事を引用した「ギターの再開と現状」シリーズは終了しました。
ここでは改めて,脱力も含めかつての技術の問題点を思い出しました。

ヴィブラートです。
ヴァイオリンなどの弓奏弦楽器では必須の技術でしょう。ギターでも使います。音の艶が増し魅力的です。場合によっては,減衰するのみの音の伸びを増やす効果もあります。

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ギターの現代奏法ではあまり極端な使い方はしない様です。

ひとむかし前の奏法ですと,メロディや特に強調したい音に激しく掛ける人が多かった様に思います。音を出す前から掛けている様な状態でした。


76年のNHK教育「ギターをひこう」芳志戸幹雄さんの時の後期に生徒役で登場されたかなり上手な女性でした。レッスンの最初に弾かれた時*,目立ったのが大きなヴィブラートでした。独学開始3年目の当方は,その演奏ぶりを感心してただただ凝視していましたが,講師の芳志戸幹雄さんは,演奏を聞き終わるなり開口一番「そのヴィブラートは止めましょう」と仰いました**。

ショックだったのを覚えています。むしろショックだったので覚えているのでしょう。芳志戸さんは現代の奏法を先取りしていたのではないかとも思います***。理由は,ヴィブラートを掛けると余分な力みが入るからというもので,全く現在も成り立つ考え方です。音が良くかっこいいので,シロートはやりたがります。生徒の女性はかなりの技術でしたので,当時の私のレベルからすればそれで良いと思いました。ちゃんとした先生についていてその様に指導されていたのかも知れません。生徒の方は少々戸惑いながらも,ほぼヴィブラートを取り去りました。演奏がいっぺんにスッキリしました。その後の番組のレッスンでもほぼヴィブラートを封印していたと思います。

そのせいか,ヴィブラートは必ずしも良くないというイメージが頭のどこかにあったのでしょうか。むしろ独学時代は掛けても控えめのものでしたが,再開後習い出して,力を込めて細かく激しく動かす「ギターのヴィブラート」なるものを習いこれで10年程度は弾いていましたが,無駄な力が入ったひとつの要因でもあったと思います。現在は止めました。


ギターではないですが,Ceciliaさんの記事のヴァイオリンでもそれを感じました。しばらくブログをお休みしていた以降,今年再開されましたが,そこで披露された演奏は素晴らしいものでした。やはりヴィブラートをほぼ封印しているとの事でした。一旦ヴィブラートを止めるのは上達のキーのようです。

十分脱力できて左手が軽くなってから,必要に応じ音程を保った上で少し掛けるくらいが良い様です。

後注:

*指摘を受けたのが,R.S.デ・ラ・マーサのペテネーラだったかヴィラ=ロボスの練習曲11番だったかは記憶が曖昧です(両方演奏されたはずです)。
**楽器演奏で「脱力」という言葉が出てきたのは割と最近です。少なくとも四十数年前には全くありませんが,その事に気づいて的確な指導をしていたというのは驚きです。
***前期テキストのコラムで左手に関する記述に,氏の考え方が垣間見られます。この記事の後期テキストの最後には,なんと『力を抜く』ということ」という記述が見えます。
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oga.

ヴィブラートはどちらかというと苦手でした。元々器用でないのか、かけると他のことがおろそかになってしまう。それが力が入ってしまうということなんかな? 伸ばす音で変化を付けたい時は使ってましたが。

昔は早弾きと装飾音はテクニックの見せ所なんて風潮があって、せっせとみんな練習してました。私は付いて行けませんでしたが。
by oga. (2021-12-21 23:46) 

Enrique

oga.さん,
特に細かいヴィブラートは余計な力が入るひとつの原因だと思います。
昔の若者は運動の如くテクニックを練習しました。やたら速く弾くのがかっこいいとか思ったのでしょう。そういう側面も必要かもしれませんが,音楽の基礎や読譜力の方が大事だと思いますね。それは技術自体格段に上がった現在でも共通だと思います。
by Enrique (2021-12-22 05:18) 

U3

ウエスタンギターで循環コードもまともに弾けない私には何が何やら・・・(@^▽^@)
by U3 (2021-12-22 08:20) 

REIKO

そういえば「ひとむかし前の」なんでしょうが、「禁じられた遊び」で、旋律に聞こえよがしの?ヴィブラートがかかっている演奏が何となく記憶にあります。
最近はクラギではあまりやらなくなったのですね。
ピアノはヴィブラートがかけられないので、ヴィブラートが効果的に使われている演奏を聴くと、「いいな~、やってみたいなあ」と思うのですが。
ただあくまでココぞ!という所で効果的にであって、ところかまわずウワウワウワ…が癖になっているのは困りますね。

by REIKO (2021-12-22 15:04) 

oga.

早弾きはスーパーギタートリオとかの影響もありました。当時のギター仲間では、バッハとかの純然たるクラシックにのめり込む者とか、フュージョンやジャズに走る者(スカイの影響か?)とかいろいろでした。私は上手ではありませんが、黙々とクラシックを弾いてたタイプです。フラメンコのメンバーと、ノリノリでパーカッションを叩いたこともありましたが。

最近セゴビアを聴くと、その早弾きと装飾音の多彩さには驚かされます。緩急極めたうねるような演奏に、昔感じた古臭さは吹っ飛んで逆に最先端の演奏に感じてしまいます。

「禁じられた遊び」にヴィブラートをかけるってどんな感じなんだろう...ちょっと想像できないというか、聴いてみたいです。
by oga. (2021-12-22 22:24) 

Enrique

U3さん,
コード弾きではまずヴィブラートは掛けないのではないでしょうか。通常メロディに掛けます。弓奏の弦楽器,一部を除く管楽器,声楽ではよく使われる音の振るわせです。

by Enrique (2021-12-23 04:33) 

Enrique

REIKOさん,
その通りですね。特に5小節目高音のE音とかキュインキュインしていました。
情感がこもり,むろん聴いている人には良いんでしょうが,あくまで演奏技術の学習面ではよろしくないということです。
まったく諸刃の剣で,演奏表現面では強力な面もありますが,手癖の様に掛けると脱力面の弊害以外にも,演奏が嫌らしくなりますね。
by Enrique (2021-12-23 04:43) 

Enrique

oga.さん,
古臭いものが却って新しく感じることもありますね。
若い演奏家達はきちんと弾くものだから,たしかにセゴビアの演奏は自由奔放な演奏にも聞こえますね。

>「禁じられた遊び」にヴィブラートをかけるってどんな感じ
ちょっと意外ですね。
むかしあれを弾いた人はろくに弾けなくても,必死にヴィブラートをかけたと思います。特に6小節目まではメロディ以外全部開放弦ですからメロディに激しくヴィブラートをかけて悦にいっている人が沢山いたと思ったのですが,そういう不健全(笑)なことはなさらなかったということですね。

by Enrique (2021-12-23 04:52) 

oga.

>6小節目まではメロディ以外全部開放弦ですから
なるほど、言われてみれば左手が手持ちぶさたでヴィブラートになっちゃう曲かも。でもあの曲のメロディってリズムが恐ろしく単調で最後まで伸ばす音もなく、私みたいにヴィブラート苦手な人がヴィブラートかけても左手が動いているだけでヴィブラートに聴こえないような気が(笑)。

「禁じられた遊び」は開放弦が多いため左手で味付けができなくて気に入らなくて、全部押さえて弾く運指があるって聞いたこともあります。でもそれだと、難易度ばっかり上がってEnriqueさんの過去ブログにあった、難易度は高いけど受けの良くない曲になっちゃいそうです。

イエペスがヒットさせた直後は「禁じられた遊び」はギター弾きの憧れの曲だったようですが、私の時代は既にクラシックギターの「ねこ踏んじゃった」状態になっちゃって、誰も手を出さなかったような気がします。それでも弾くなら、サラバンデやアメリアの遺言といった映画の曲をメドレーで弾かないと、何かかっこつかないような気がしてしまいます。

by oga. (2021-12-24 00:03) 

Enrique

oga.さん,
ヴィブラートにも種類がありまして,ゆっくり掛けるもの,細かく掛けるもの,上下に掛けるチョーキングヴィブラートなどです。音を良く聴く方ならば自分は掛けていたつもりは無くても掛かっていたと仰います。禁遊の場合はキンキンに細かいヴィブラートを冒頭音を弾く前からかけている様な演奏がありました。良くない典型例だったと思います。
たしかに,やっている時は,猫跨ぎ状態で,それを持ち出すのは恥ずかしい様な状態でした。とはいえ後半長調部分をきっちり弾ける人も案外少なかったのですが。このブログで取り上げ出したのも割と最近です。
しかしながら一般の人からは,一流プロに対しても「『禁じられた遊び』を弾いてくれ。」という要望が多いのですね。「ちょっとカンベン」してくれという感じでしょうか。あとブーレにコストの練習曲もありましたが,全曲弾いた人はいるのでしょうかね。
当方は,ヴィラ=ロボスの前奏曲1番,アストリアス,アルハンブラあたりもそれに近いとは思いますが。
by Enrique (2021-12-24 05:22) 

U3

ええ、ビブラートそのものは存じております。
by U3 (2021-12-24 06:57) 

Enrique

U3さん,そうですね。それ以降の話に関してはわかりにくいでしょうね。
by Enrique (2021-12-24 07:56) 

oga.

さっき「クリスマスに聴く曲」のYoutubeで演奏を見てたら、確かにギター演奏する時にヴィブラートって当たり前にかけてたなって記憶が蘇ってきた。しかも呼吸するかのごとく無意識なので覚えてもなかった。うーむ...

「前奏曲第1番」「アストゥリアス」「アランブラ~」...これらは序盤からとっつきにくいから、個人的には猫踏状態にはならなかったと思います。長く演奏している方には、ちょっとカンベンになるのはわかりますが。

by oga. (2021-12-25 01:38) 

Cecilia

興味深い内容、と思ったら私の記事のご紹介が!
驚きました。ありがとうございます。
意識してのヴィブラート練習は難しいです。今までがテキトーだったので。またヴィブラートのかけ方もいろいろあるようで奥深いなあと思っています。

by Cecilia (2021-12-26 08:47) 

Enrique

Ceciliaさん,
ヴィブラートに関しては,自然に掛かる程度が良いのだろうと思います。古楽では掛けないと言われますが,例えば平尾雅子さんのビオラダガンバを観察していると,結構掛けています。むろんロマン派的な大きなものではなく抑制的ですが。たぶんCeciliaさんのヴァイオリンも意識的に掛けなくても音の伸びを意識するところで僅かに自然に掛かっているのではないでしょうか。
そのあたり鍵盤の人は敏感で,全く掛けたつもりは無いのに,掛かっていると言います。特にヴァイオリン等はフレットがないので生身の手で押さえている以上全く入らないということはないと思います。
なぜかギターでは「ちりめんヴィブラート」を教えられましたが,弊害のみなのでやめました。

by Enrique (2021-12-26 22:34) 

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