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ピアノの防音について~その2~ [楽器音響]

床を伝わる分を減らそうという試みです。

前回の砂利作戦に関しては,思った効果はありませんでした。
ピアノの場合は質量がありすぎて,砂利を踏み固めてしまったものと考え,柔らかいもので浮かすという作戦に切り替えました。

早速コメントもいただきました。
ゴム系の方が良いのでは?という意味のご意見。ジェル系の粘性も考えましたが,ピアノの荷重に耐える粘性物質は,これはまた中々大変です。押しつぶしてしまえば,やはり砂利と同じ様な気もします。

エンジン発電機の静音化の記事の紹介もいただきました。

重い方が防振効果があるから,軽くしたらダメなのではないか?という意味のご意見。重い方が揺れにくいのは力学の基本ですが,振動系に効くのは揺れる場所の質量なので,支え部分の質量差は無視できる範囲ですし,結果からは砂利の質量としての効果そのものが無さそうなのです。

IMG_9006.jpeg
図1 10個入れる想定でしたが,ややバランスが悪いので12個入れました。
なるべく空気で浮かすフローティング構造を考え,テニスボールで浮かせてみることにしました。中古ボールが大量に安く手に入るというのが大きな理由です。テニスのうまい人は反発力が落ちて来た球は使えないのでしょう。ちなみに,ブリジストン製の専用のエアーダンパーはかなり高価ですしエアだけのものは許容荷重が1個\(10\text{kgf}\)程度。ピアノの荷重に耐えられそうなものは,つるまきバネとのハイブリッドダンパーです。これは小さな穴から空気を出入りさせているので,超低周波大振幅のものには効果がありそうですが,ピアノの音になる周波数では,空気の出入りによるダンピングが効くとは思えませんし,つるまきバネが入っているのでむしろそれで振動を伝えそうです。

浮かす防振の基礎理論は,振動源の質量\(m\text{[kg]}\)とそれを浮かしたバネ定数\(k\text{[N/m]}\)で構成される次式の共振周波数\(f_0\text{[Hz]}\)よりも高い周波数の振動にフィルタ効果が発生する事です。
\[f_0=\frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{k}{m}} \] テニスボールを入れたインシュレータの共振周波数はどのくらいでしょうか?質量はピアノの脚1本分の\(100\text{kg}\)として,厄介なのがバネ定数です。何分球は潰れながら変形するので,測定するにも厄介です。もっとも,そういう非線形性が実用上は有効らしいのですが。テニスボールの潰れによるバネ定数の測定は諦め,乗って揺すってみる事にしました。私の体重は\(100\text{kg}\)まではありませんがそうケタ違いでもありません。共振周波数は平方根で効くので,誤差は緩和されます。ぐにょぐにょしますが,共振周波数までは感じ取れませんので,大雑把な仮定で概算してみます。\(100\text{kgf}\)で\(10\text{mm}\)沈むと仮定しますと,平均のバネ定数\(k\text{[N/m]}\)は,
\[k=\frac{980}{0.01}=98000\fallingdotseq100000\text{N/m} \] ですので,\(m=100\text{kg}\)として,\(f_0\text{[Hz]}\)を求めますと,
\[f_0=\frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{k}{m}} = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{100000}{100}} = \frac{5\sqrt{10}}{\pi}\fallingdotseq5\text{Hz}\] まあ当たらずとは言え遠からずでしょう。

これよりも発生する周波数が高ければ,十分防振効果を発揮すると。テニスボール入りのインシュレータの共振周波数が\(5\text{Hz}\)程度 だとすれば,音になる振動は\(20\text{Hz}\)以上ですから,十分効果はあるはずです。仮にテニスボールのバネ定数をものすごく大きく見積もって,\(100\text{kg}\)で\(1\text{mm}\)しか沈まないとしても,kは10倍で共振周波数はルートに入るので,3倍強しか上がりません。ボールこんなに固いはずはないので,このインシュレータの共振周波数はどう転んでも最低音の周波数よりは低いとみて良さそうです。


さて,「能書きは良いが実際の効果の程は?」という声が聞こえて来そうです。
実は妻が12月にある伴奏の仕事のための練習中で,「それが終わるまで実験はダメよ」と釘を刺されてしまいました。「安全な実験だよ」と言っても,万一楽器を故障させられでもしたらかなわんというワケです。

一刻も早く試したいのはヤマヤマなのですが。。。そういう事情で,ピアノで試すのはしばらくオアズケです。


ここでのほほんと時間を潰すのもイヤですので,別の方法で試すことにしました。コケてもタダでは起きないという精神で臨みます。

音の出るものを探しますと,スライド丸鋸がありました。これは結構低音から高音まで幅広い騒音が出ます。こいつの下にインシュレータをかませて,空回しの音がどうなるか?を試せばいいではないか?と。

早速やってみました。

IMG_9007.jpeg
図2 実験風景。
もともと,2階のピアノが1階に与える音は,ピアノの脚から伝わるのでは無いかというのが,発想の原点ですので,図2に示す様に,台の下に録音機を置きました。

これで3通りを試しました。まずは①何も無しですが,インシュレータの厚み分距離が変わって公正な比較になりませんので,インシュレータをひっくり返して,その上にさらに板を置いて丸鋸を載せました。
②は砂利入りのもの。
③が今回のテニスボール入りのものです。

録音したものを以下に置きます。

①台のみ:

②砂利入り:

③ボール入り:

うーん,ぱっと聞いた限りでうるささに大きな差はありません。
音量レベル的にも殆ど変わりません。
だめか?

しかしながら!!!
よくよく考えてみれば(考えなくても),おそらく殆どの音は空気伝達です。台を伝わった伝導はどのくらいのものでしょう?

注意深く聴くと,③は,①と②で聞こえていたブーンという唸り音が消えています。感覚的な事を言えば,音が軽くなっている印象です。スペクトルも見てみましたが,やはり低音側が減っています。

騒音対策としては殆どなっていませんが,低音の唸り音には確実に効果は出ているものと思います。おそらく音にならない様な台を伝わる低周波振動だけで比較すればはっきりするのでしょう。

ただ実際のピアノの場合も,空気伝達の音が大半です。空気中に出た音には効果はありませんので,床下で測定するなどすれば,かなり差が出るものと予想します。

後注:

数式の話は台を伝わる振動に関してで,実際にやっている実験は音を拾っていますので殆どが空気中を伝わる音です。台を伝わる振動だけを拾い出さないと直接的な対応はしません。その意味で,「差が分からない・数式の意味が分からない」というのはもっともな指摘です。ごく基本式と,対応の悪いずさんな実験なわけです。
感覚に頼ると自己満足になりますので,以下に上の録音に対応する周波数スペクトルを挙げておきます。
台のみ.png
図3 台のみの場合の騒音パワーの周波数スペクトル
砂利.png
図4 砂利入りの場合
ボール.png
図5 ボール入りの場合。低域が-7dB/oct.くらいで落ちています。
ボール入りインシュレータの場合では,300Hzくらいまでの低域が減っているのはご覧戴けますでしょうか。おそらくこの低い部分の違いはPCのスピーカでは聞き取れませんので,むしろ,「差がない=空気中を伝わった音は変化していない=実験条件はほぼ保たれている」とみて良さそうです。
防振台の理論では,-6dB/oct.ですから,図5に示す-7dB/oct.はかなり合っているといえます。
のこ盤の質量は共振周波数はピアノの脚一本分の100kgよりも約1桁小さいので,ボール入り防振台の共振周波数は3倍ほど上がっています。
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コメント 8

風神

正直申しまして、音の違いが判らないです。
数式もどういう事なのか、全く解りません。
でもご本人が違うと感じておられるのだから、考え方は間違ってはいないですね。うまくいくと良いですね。
by 風神 (2021-11-21 00:17) 

Enrique

風神さん,
率直なご意見ありがとうございます。

当方も最初何の効果もないなと思いましたが,空気中を伝わる音が殆どな訳で,それには何の効果もありません。ですので,インシュレータ台を伝達する振動音だけを拾わないと効果は分からないわけです。空気中を伝わる音が殆どの比較で効果がないというのは早計だと判断したわけです。

PCのスピーカーでは全く音のちがいはわからないと思います。ヘッドホンか大きなスピーカーで聴いて「あそうか」くらいのものです。ヘッドホンかオーディオ装置を使える方にはチェックいただきたいと思います。

フィルタリングの話は,振動論のイロハで,防振台などの話です。ブリジストンの施工者用のページにも書かれていますので,わかっていただけるとは思ったのですが。

以前,ヘリで救援に当たる方から機内の騒音の相談を受けましたので,手元にあったソニーのノイズキャンセルイヤホンを試してもらいましました。99%騒音をカットするというものでしたが,実際に試すまでもなくその場で「こんなものでは何の役にも立たない」と言われました。一般の方の感覚はそんなものだなと悟った次第です。

音質に関してはマニアの方は良し悪し議論されますが,音量に関しては大幅に変わらないと分からないもののようです。自己満足にならない様記事にするときは注意します。
by Enrique (2021-11-21 06:01) 

U3

 おはようございます。
 まったく記事の主旨とは異なる感想で恐縮です。
 前の「砂利作戦」の時に気づくべきでしたが、「テニスボール作戦」のインシュレータ台数が3つということはグランドピアノなのですね。
 うちにあるアップライトピアノとは、音の持続性など聞こえ方がまるっきり違う気がします。
by U3 (2021-11-21 07:00) 

Enrique

U3さん,そうですね。
空気中に放射される音の出方は,直角方向に異なります。
アップライトは弦が縦に張られて前後に弦を叩き,垂直の響板から大多数の音が出ていきます。
グランドでは,弦が水平に張られて下から弦を叩き,水平の響板から大多数の音が出ていきますので,45度のフタで客席側に反射させます。
それらのメインの音にはほぼ関係もない床に伝わる振動に着目しています。
グランドは足が3本ですので,それぞれの足にかますインシュレータ3つを考えています。アップライトでは左右2つで良いのではないかと思います。
元の弦振動が前後のアップライトと,上下振動のグランドでは,音の放射方向が異なるのと,床への伝わり方も少し異なる気はします。あと通常アップライトの方が弦が短いので音の伸びも少なくなります。
by Enrique (2021-11-21 07:21) 

oga.

テニスボールのインシュレーターと丸鋸と数式とスペクトルに加えて、おうちにグランドピアノがあるって事に驚いてしまいました。ギターとピアノでデュエットを楽しんだりされるのでしょうか。
by oga. (2021-11-22 23:37) 

Enrique

yoga.さん,
変なもの所持してますでしょうか。高価なものは中古で間に合わせていますが道具がどんどん増えています。
ギターとピアノのデュオって案外少なくて,オリジナルだとウェーバーの小品とかありますが,易しいですが少々つまらない曲です。テデスコにもありますがかなり難しいです。あとは協奏曲のオケパートをピアノでやってもらうという手がありますが,「独奏大変」,「ピアノつまらない」でこれまたうまく行きません。最近妻がギターを始めたのでそちらに期待です。
by Enrique (2021-11-22 23:59) 

oga.

変なものどころか、大変感心しております。
確かにピアノとギターで弾ける曲って、ちょっと思いつかないですね。
うちの家内は過去にフルートを吹いていたので、ジョン・ウィリアムスの「カヴァティーナ」でもやらないかと誘ったのですが、フルートは2度と吹かないって言ってます(笑)。
by oga. (2021-11-23 20:54) 

Enrique

oga.さん,いつの間にか工具や電動,エンジンなどの道具が増えてしまいました。
カヴァティーナ良いですね。難点は独奏が難しいことですが,合奏でやれば最適な音楽だと思いますが。。。
by Enrique (2021-11-25 06:42) 

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