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ピアノの防音について [楽器音響]

都会地では,ピアノなどの楽器の演奏には苦労します。

当地では家が密接していないため,直接的な苦情は無いですが,少しでも音量を下げられないか?という欲望はあります。

そこで,エアコンプレッサーの振動騒音ではかなりの効果のあった,砂利敷きの効果を試してみました。

まず30cm角のインシュレータ・ボックスを木材で作ります。
中に砂利を入れて,フタをして,これをピアノの足の下に設置してみます。

砂利入りインシュレータ.jpeg
これを3個作ってピアノの足の下に敷きました。サイズは300mm角60mm高。
妻にベートーベンの易し目のソナタをなるべく同じ様に弾いてもらい,設置前後で隣の部屋で同条件で録音をしました。
設置前: 設置後:

「あれーっ!」全く効果がありません。
隣室で録音してみましたが,録音レベル上も,聴感上も,全くと言っていいほど変わりません。

エア・コンプレッサの振動音ではあれだけ効果があったのに。。。と。

何故でしょう?

まず,質量の違いがあります。
ピアノの足1本あたり約100kgfの重力を,自作のインシュレータで受けると,砂利面が受ける圧力P[Pa]は,この重力を235mm角の板の面積Sで割り算して,
\[P=\frac{mg}{S}=\frac{100\times{9.8}}{0.235^2}\fallingdotseq17700\text{ Pa}\] 18kPaほどです。

それに対して,エア・コンプレッサの時の砂利に掛かる圧力は,28kgfを50mm×450mmの6本の枕木で受けて, \[P=\frac{28\times{9.8}}{0.45\times{0.05}\times{6}}\fallingdotseq2000\text{ Pa}\] 約2kPaでした。しかも枕木状でずりずりと砂利を踏みしめる形も良かったのかもしれません。単純に圧力差だとしても9倍の違いは大きいのでしょう。ピアノのインシュレータに用いても,ピアノの重量で砂利をがっちりと踏み固めてしまって,砂利が動くことによる摩擦効果は全くと言っていいほど発揮できなかったようです。

それと,コンプレッサの振動の周波数は低く,基本波は60Hzでしょうから,恐らくその大振幅の振動を止めればそれに付随した高調波振動も一斉に下がるのに対して,ピアノの場合は,周波数が最低音こそ数10Hzですが,多くの音が数100Hz以上であり,しかも振幅が小さい事が指摘できます。音が建物の部材の振動としてというよりも,空気中の音として伝わっていれば,インシュレータの効果は薄いという事でしょう。極端な事を言えば,空中に浮かせても(振動工学の用語で言う「フリー・フリー状態」),大差無いことになります。

しかしながら,みすみす諦めるのも悔しい気分になってきました。空中に浮かせれば,少なくとも建物の部材を通して伝わる振動音は低減できるのではないか?と。チェロはエンドピンを立てる事で音量増加しています。ピアノの足がチェロのエンドピンと同じ働きならば,足をなくしてやれば,音は小さくなるはずです。

ピアノを実際に空中に浮かせる事は出来ないので,等価的に出来ないか考えます。エアダンパーです。空気バネは非線形性を持ちますので,振幅により周波数がずれるため共振し難いのだそうです。専用のエアダンパーは高いので,代用品を考えます。テニスボールです。これを砂利の代わりにインシュレータ・ボックス内に入れることにします。足1本あたり100kgfの重力を支えるためのテニスボールの個数としては,インシュレータ・ボックス内に入る10個としました。1個あたり10kgfなら持つでしょう。

効果の程は続報にて。
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たこやきおやじ

Enriqueさん

全くの私の勘ですが、テニスボールより野球の軟球の方がより効果がありそうな気がします。(^^;

by たこやきおやじ (2021-11-18 11:01) 

ロートレー

これは!楽しくなりました
本格的な防音対策が始まりましたね

お役に立てるか分かりませんが、以前「静穏発電機をつくる」で悪戦苦闘したことがあります。https://lawtray.blog.ss-blog.jp/archive/c2306176087-1
お暇なときに笑ってやってください^^
by ロートレー (2021-11-18 11:09) 

U3

 何故効果が無かったのか計算で出せちゃうところが凄いですね。
 ただ単位当たりの質量が大きければ大きいほど音は伝わりにくくなるという物理原則からすれば、空気層をピアノの脚に置いても、音量を減衰するには余り意味はない気もします。
 何故なら音は脚を伝わって来るよりも、ピアノハンマーが弦を叩く音が空気中を伝播する音がメインですから、ピアノが置かれた部屋の壁面床天井に遮音または防音処置を施した方が遙かに効果があると思います。その場合、満足できる効果を得るには途方もない費用が掛かるかもしれませんので、余りお勧めできませんが(^▽^)
 しかしEnriqueさんのDo it yourself精神は素晴らしい!
by U3 (2021-11-18 11:23) 

Enrique

たこやきおやじさん,
テニスボールの中古を買ってしまったので,これでやります。勘との事ですが,野球の軟球の方が効果がある根拠を知りたいですね。

チェロやオーディオのご経験からの意見を聞きたいところです。チェロのエンドピンの有無と,ピンの下に置くものの伝達効果はどうなんでしょう?

by Enrique (2021-11-18 13:26) 

Enrique

ロートレーさん,
過去記事拝見しました。
振動発生場所が特定されていれば,そこの対策が重点ですね。エンジンの場合,排気の衝撃音ですから,やはりマフラーが最も効果的なのでしょう。絶対値を減らすとなると,大きなところから攻めていくのが常道でしょうか。なかなか一筋縄ではいかないでしょうが。

高級車などでも,エンジンそのものの音は下げるにしても,最終的には室内に音が伝わらないように吸音,および最後の手段としてはアクティブ吸音でしょうか。楽器の場合は,効率よく音響が放射されるよう工夫されているわけですが,またそれを中途半端に減らそうと言うわけですからムシが良すぎますね。ヤマハなどの楽器練習室でも,結局は電子技術を使ったアクティブ吸音が一番お手軽の様ですね。

当方は今夏エアコンプレッサの静音化に成功したので,それに味をしめて,ピアノでも効果ないかな?と思ったわけですが,もしやるとすれば床の工事からという事になりましょうかね。
by Enrique (2021-11-18 13:27) 

Enrique

U3さん,質量が大きければ揺れにくいのは力学の基本です。ただし,インシュレータ部分の質量よりもピアノ本体の質量は遥かに大きく,もっと言えば,質量は床や建物などの伝達系全てという事になりますので,部分的なインシュレータの質量差は無視できます。今回の付加部分は振動系の主要部ではありません。質量で押さえ込もうとすれば,ピアノに大きな砂袋を担がせたり,壁に鉛板を張るという事になるでしょう。

質量以外の音響パラメータとして,剛性と減衰の差が重要です。これは何倍も大きく変化させられますので,大がかりな事をしなくても効果が期待できます。敷き砂利の効果は鉄道の線路や,広い意味での摩擦減衰は瀬戸大橋の揺れ止めなどに使われています。直接の計算は何もしていませんが,伝達特性の摩擦減衰の差の一つとして,踏みしめる圧力差ではないかなと思ったわけです。実際,エアコンプレッサーの時は大きな効果が出たのに,ピアノではダメな理由がです。

音は空気で伝わるのが大半なので,少ない部分に対策しても効果が薄いのは承知しています。ピアノの内部に吸音材などを押し込んでフタを閉めれば,大幅に音量は下がりますし,上で述べたように,ピアノや壁や床に大きな砂袋や鉛板を付ければ質量効果で音量は下げられるでしょう。

そういう大がかりな事をする気は全く無くて,チェロではエンドピンの発明で音量が大幅に増大したのは有名な話ですので,その逆をやろうと思ったわけです。エンドピンの役割は,音を床に伝えるというよりも,境界条件がしっかりして,楽器そのものの鳴りが良くなったのかもしれません。何れにせよ,浮かせてしまえば,楽器の鳴りは減ると,そう考えたわけです。

音量の絶対値を減らすわけでは無く,伝達分の減少を狙っています。ただし,音響パワーの大半が空気伝達で,脚からの伝達分そのものが僅少ということであればどうしようもないわけです。ピアノの重い重いフレームや箱は,弦の振動を軽い木材の響板に伝え効率的に振動させるためにがっちり動かない様に作られています。ピアノは,ハンマーが弦を叩く音が直接出るわけではなく,それ自体はかなり小さなもので,ピアノの箱で弦の振動の放射インピーダンスを空気に整合させて,大きな音にしています。ギターも原理は同じようなものですが,じっさい弦を張った電気ピアノもあります。ボディが音響の大半を果たします。

そもそも,脚の伝達というのは,第一次近似的には無いものです。それを在るものとして減らそうというわけですから,無謀な試みではあります。

by Enrique (2021-11-18 13:34) 

たこやきおやじ

Enriqueさん

軟球は単にテニスボールよりゴムが厚いので多少なりとも制振効果があるのではと思っただけです。
チェロのエンドピンの効果は、チェロの振動がエンドピンを通して床に伝わり、その反作用がチェロに戻って来て、特に低音がふくよかに良く鳴るようになります。エンドピン用のストッパーは色々な材質がありますが、少なくとも裏の滑り止めにゴムを張った物は音がぼやけると言われています。
私はオーディオも楽器も防音の心配は無かったので、音質、音色の観点からしか考えたことがありません。

by たこやきおやじ (2021-11-18 17:29) 

Enrique

たこやきおやじさん、
ピアノを浮かすという思考実験です。
当方はゴムよりも空気が良いと思った訳です。
チェロのエンドピンが有ると無いではどの様に違うのでしょうか?
古楽の方でガンバの様にエンドピンを使わない方もいますね。
バッハの無伴奏とかはエンドピンを使わない人もいたかと思いますが、
どう違うのでしょうか?
当方はチェロを持っていないので分かりません。
by Enrique (2021-11-18 19:13) 

Enrique

一般に言われている事ではなくて、
ご自身の実感として音がでかいか小さいかそれだけが知りたいですね。
by Enrique (2021-11-18 19:23) 

たこやきおやじ

Enriqueさん

私自身は10年前に1年ほどチェロを習っていただけの初心者なので、エンドピン無しの演奏はやった事がありません。またストッパーはゴム無しの物しか使ったことが無いので、比較はできません。恐縮ですがチェロの話はこの辺でご勘弁ください。

by たこやきおやじ (2021-11-18 21:06) 

Enrique

たこやきおやじさん、
了解しました。問い詰めた様で申し訳ありません。
by Enrique (2021-11-19 09:18) 

アヨアン・イゴカー

大変興味深い実験ですね。それも、論理的。
我が家のピアノも、少しでも音量を小さくしたいと思っていますので、
好い結果を期待しております^^;
by アヨアン・イゴカー (2021-11-19 09:28) 

U3

そうした事にトライするのは良いことだと思います。
実験する前に結果が分かる実験など、中学の時の実験くらいつまらないと思う。
Enriqueさんの弁で「無謀な試みではあります。」とありますが、それこそが大事だと思う。
いわば、Enriqueさんのしていることは、知的好奇心の追求の一環だからです。
by U3 (2021-11-19 11:55) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,
音自体を小さくするには,発生源の本体に小細工するのが先決だと思います。弦を下から叩くグランドではアップライトの様にハンマーと弦の間にフェルトを入れることはできないので,調律師さんがやるフェルトでの共鳴止めが有効だと思いますが,音が消えすぎても困りますのでその調整が必要でしょう。タッチを変えないためには吸音なども有効だと思います。
今のところ脚を伝わる音に特化しています。脚下に置くインシュレータはごく低域のボンボンと床を伝わる音のみですが。
by Enrique (2021-11-21 05:56) 

Enrique

U3さん,
無謀でも危険の無いものですからやり放題です。
むしろ,例の方の様に無謀との認識の無い危険性や人を傷つけたりする方が問題ではありますね。
無謀が無駄にならないアプローチは必要だと思います。また定量性が重要だと思います。
by Enrique (2021-11-21 05:58) 

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