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良薬口に苦し [雑感]

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「良薬口に苦くして病に利あり。忠言耳に逆らいて行いに利あり。」

大昔古文で教わった箴言です。論語に出てくる有名なものです。むろん「良薬口に苦し」は比喩であり,意味としては,「忠言耳に逆らいて行いに利あり。」のほうです。以前取り上げた「十人十色」の解釈でも,「十人いれば十人とも性格が異なる」というのでは,間違いと言うことになります。もしそんな解釈がまかり通れば,「猫に小判」とか「猿も木から落ちる」とかは,猫へのあり得ない行為とか猿のあるかも知れない事象に矮小化されて意味が無くなってしまいます。当然の事ながら,その例示を用いて人の世の行動原理に広げているわけです。

アドヴァイスを受けても,全く聞こえていないという事があります。それを自分の行動原理に展開できないのです。自分の若いころの反省を思い起こしても,経験者に物事を聞いておきながら,どうも自分の感覚とは合わないなと無視して,自分の感覚に合う意見を探していた事がありました。後で,「あーあの人の回答が正しかったのだ。」と一人で恥ずかしがったりしました。むろん後で気が付いて,遠回りしてでも正しい方へ行ければよいのですが,たぶん気が付かないことも多数やっています。時々経験するのが「何処に書いてあるのだ?」という文献主義。むろんきちんとした記録は,伝え聞いた話よりはずっと正確でしょう。しかしこれに嵌っていると,文献の範囲内の情報にのみ縛られ,新しい情報や独自研究は無視されることになります。酷い場合は目の前の現実よりも文献に書いてある事を正しいと思う(信じる?)ことすら起こります。もっと言えば,(改善前の)古い情報は今となっては害であることも少なくありません。あと,大家が言ったとか?という権威主義。むろん文献主義にも権威主義は含まれます。人の意見を参考にするにしても,自分のアタマで考えてと納得してアクションをとる事が必要です。むろん,これが強すぎると冒頭で述べた様なことも起こりえます。逆に当たり前の事でも,大家が言ったと言うと有難たがります。



このブログは,ギターに関するものですで,それに関した過去の恥ずかしい話をします。自分の思い込みが悪い場合もあれば,時代や環境からしてどうしようもないこともあります。

・タレガのような演奏姿勢が理想だと思っていた(かなり最近までそうです)。
左ひざにくぼみを乗せ,上腕で楽器を押さえ込む。

だいぶ少なくなったかもしれませんが,現在でも古いメソードで習った方は,このような姿勢をとっている方がいると思います。むろんそれで弾けないことはありません。昔はみんなそう弾いていたわけですから。例えば,フラメンコの人は楽器を右ひざに乗せ水平に近い状態で巧みに演奏しています。むしろフラメンコ奏法ではそちらの方が良いのでしょう。演奏姿勢は,結果としてその形になるのであって,むろん形は参考にはなりますが,人それぞれ体格などが違うのですから,名人の姿をまねても各人は最適な状態にはなりえません。ヴァイオリンでもチェロでも楽器を如何に楽に安定して構え,左手を自由にするかが最重要課題です。形ではなく,楽器を保持する原理が重要です。左膝で楽器のくぼみを支え,右膝でちょうど楽器のお尻を支えます。胸骨に楽器の右肩が来ます。この3点で楽器のバランスが完全に取れることが重要です。腕を離してピタッと静止する一点を求めます。現在は,これが楽器の構えの基本ですが,最初はなかなか静止しません。現在の講師についたとき,最初はこれが出来るまで演奏はおあずけでした。その際,滑り止めは便利ですが,それを前提にしてはいけません。滑り止めを使うと十分にバランスが取れなくても止まりますので,かえって最適な位置を見つけられなくなります。完全にバランスが取れることに慣れてから使用すべきです。独学の方や,かつて習った方でも現在は習ってない方はチェックする必要があります。

・電子チューナ使用(今も使っていません)
これは特に忠告を受けたわけではないですが,音を聴いて合わせたいものです。単に好き嫌いの問題で,当方は好きではありません。これは,「良薬口に苦し」というか,ひっくり返して,「毒は甘し」ではないかと思います。まあ使う・使わないのは自由です。「プロが使っている」から,「安いから」と言われても,当然プロは効率考えてやっているでしょうから,そんなところを真似たってプロの様に弾けるものではありません。

・気持ちで弾く
いくら気持ちが強くても,技術が伴わなければどうしようもできません。気持ちだけで良い演奏になるわけがありません。30代・40代の親御さんが,子供の運動会で走ってすってんころりん。気持ちだけは前に行っているのですが,足がついて行かずもつれてアウト。むろん楽器の演奏は,筋力を使う運動ではありませんが,きちんとコントロールしないといけない面では,走ったり投げたりと同様それ以上に,音楽の基本に忠実な訓練が必要でしょう。

・「曲」だけ弾く
練習曲や技術練習をしない。理由はつまらないから。好みの「曲」といっても,超有名定番曲ばかり。イヤというほど耳で聴いた曲でしょうから,(好きな)プロの演奏が耳にこびりついています。まあそれに漸近してはいくのでしょうが,プロ並みの技術があるわけでは無いですから,往々にして悪いところばかりコピーされます。完コピするには元の演奏者の同等以上の技術が必要でしょう。むろん,そういう練習法でなく,聴いたことのない曲を沢山やれば読譜力も付きますし,練習曲をたくさんやれば新しい技術も身に着いて演奏力も上がるはずですが,それをやらず限られたレパートリーをチマチマ上手に弾くという陥穽に嵌ります。練習曲に関しては,ある時期集中的にやって,定番曲の演奏技術も含む広く楽器を弾く技術の基礎を身につけてしまわないといけないと思います。「オレの技術はそんなもんちゃうから練習曲集の最終曲だけやればやっつければええやろ」と仰って,最終曲だけやって制覇したという方もいますが,最終曲ばっちり弾ける方なら,それまでの曲は余裕で弾けるはずですから,やはり全曲やってみると良いと思うのですが,バカバカしいという方がいます。当方が今ついている講師の方によると,カルカッシOp60を楽しみながらクリアされた人と厭々散々で終わらせた人では,その後の進度が全く違うと仰います。具体的データは知りませんが,そういう事なのでしょう。まさしくカルカッシOp60は良薬なのでしょう。

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たびたび小僧

初めましてFC2ブログ「たびたび小僧」と申します、励みになるブログを読ませていただきました。弾きたい想いで「アルハンブラの思い出」を無謀にも挑戦している郷ひろみ世代です(^^♪ たまに訪問します。 
by たびたび小僧 (2021-04-07 15:32) 

Enrique

たびたび小僧さん,始めまして。
アルハンブラを弾きたいとおっしゃる方は多数いらっしゃいます。元はトレモロ練習曲です。左手をコードパターン的に押さえて右手は複雑そうですがワンパターンですので,「禁じられた遊び」をマスターした方ならば次の取り組み課題としては可能です。ゆっくり徹底的に覚え込んでしまえば,そう無理なものでもありません。ただ,その様に覚えて弾けても,弾ける曲はごく限られてしまいます。それでも構わないから「好きな曲さえ弾ければ良い。弾きたくもない曲が弾けても意味が無い」とおっしゃる方も少なからずいらっしいます。価値観の問題だと思いますが,基礎技術を積み上げて,合理的な練習方法でやればそう時間も掛からないですが,「この曲だけ弾ければ」とやっても却って遠回りだとは思います。
by Enrique (2021-04-07 22:58) 

たびたび小僧

ご教示(人''▽`)ありがとう☆ございます。冒険のつもりで、取り組みを始めてます、パクキュヒのトレモロ奏法に感動してからこの一本を飽きずにカルチャースクールで2年目です、Enriqueさんのおっしゃる通り焦らず合理的にやってます、FC2ブログ「たびたび小僧」では今年の元日に未完成ながらリピートなしでアップしてます。また、他の曲も練習やりますが、いつでも弾ける無形財産で考えてます(^^♪。
by たびたび小僧 (2021-04-08 09:18) 

Enrique

たびたび小僧さん,
ご承知の通りとは思いますが,当ブログのスタンスからすれば,おっしゃるのは余りお勧めの練習法ではありませんね。トレモロ奏法は特殊奏法の一つですが,出来れば一瞬で出来ますし,長年かかってもできない方もいます。全編トレモロの曲で有名曲は数曲に限られます。基礎からきっちり2年間やれば,2年後アルハンブラは1か月程度でマスターできます。2年間その曲だけ弾くというのは,効率的には良くないと思います。
パクさんとか,子供の頃から音楽鍛錬と基礎技術の積み重ねできれいなトレモロが出来るので,徹底的にそれだけやっても決して到達するものではありません。カルチャーセンターがどうとは申しませんが,パクさんの様な方に直接個人レッスンを受けられるのがベストだと思います。1年間続けられる方ならぜんぜん無理ではないと思います。
by Enrique (2021-04-08 12:58) 

Cecilia

”気持で弾く(=演奏する)”・・・声楽でありがちだと思います。
”曲”だけ弾く(=演奏する)・・・これも大人になって始めることが多い声楽でよくあります。私も有名歌手の演奏を良く聴いて表面的に真似して歌っていたと思います。レッスンでは「譜読みできている」と言われましたが、反省点の多い”譜読み”だったと思っています。


by Cecilia (2021-04-09 04:35) 

Enrique

Ceciliaさん,声楽でもそうですか。
物真似演奏は,どんなに上手でもしょせん物真似だと思いますね。
コロッケの物真似が面白いのは,本家のクセをデフォルメしているからですが,素人がやる物真似は単なる劣化コピーですので残念なことになります。
本格的な物真似をやるには,十分な技術とそれなりの研究が必要でしょうし,本家並み以上の実力が必要でしょう。中途半端な物真似をやめて,今上手でなくても真摯に自分で音楽を作れば訴求力はありますし,進歩も確実です。その事に本人が気付けるかどうかなのでしょうね。
by Enrique (2021-04-09 16:05) 

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