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ハーモニクスの出し方 [演奏技術]

ハプティクスなる言葉の記事を書いていて,そういえば,「ハーモニクス」があったではないかと思い立ちました。
もしこれが学問名称であれば,「調和学」とでもなるのでしょうが,そういう学問はたぶん(まだ)ありません。直接的な訳語は「高調波」です。漢字の「調」にharmonyを見ます。普通は,基本波より高く出ますから,harmonicsは「高調波」という訳語になったのでしょう。

楽器演奏で使う語はむろん倍音(overtones)です。音響振動の詳細が不明の時代には,「天使の声」とかと言われていたのだそうです。倍音の事を芥川は「音楽の基礎」の中で面白い例えをしていました。「太陽が輝いていると星は見えないが,日が沈むと星は見えてくる」と。ハーモニクス奏法というのは太陽たる基本波の音を消して,星の光である倍音の方を見るわけです。

ギターなどの楽器の奏法として,ハーモニクスは登場しますが,そのような原理的名称ではなくて,楽器名称を借りてフラジオレット奏法ともいうこともあります。ただこの用語はギターでは使われず,音の伸びるフルートなどの管楽器やヴァイオリンなどの弦楽器で使われる様です。もともと管楽器であるフラジオレットの音色からのネーミングだからでしょう。

ギターのハーモニクスの原理は他の楽器と同じですが,弦が多いので少し複雑です。開放弦だけで,第6次高調波(6倍音)まで使うとしても,6×6=36箇所あります。

むろん,最もよく使われるのは,12フレットでオクターブ上を出すハーモニクスですが,7フレットで出す12度(オクターブ+5度)のハーモニクスや,5フレットで出す2オクターブも結構使います。

12フレット以外のハーモニクスでは節が複数個ありますから節の個数だけ弦に触れる箇所があります。但し,節の位置が共通の次数の異なるハーモニクスの場合は,低次のハーモニクスが優先しますから,高次のハーモニクスを出したい場合は,そのハーモニクスだけのユニーク(唯一)な点を使わないといけません。7フレットは19フレットと同じです。しかし,例えば12フレット上ではオクターブ上のハーモニクスが鳴ります。むろんこの中に2オクターブ上のハーモニックも含まれているわけですが,聴こえるのは新たに基本波となった1オクターブ上の音です。

4フレットのハーモニクスでは,これは9フレットのハーモニクスと同じ音で,2オクターブと長3度上の音です。例えば①弦や⑥弦なら,開放弦のE音に対して,G#音になります。いずれにせよ5倍音ですから,節が4箇所あります。左から,4フレット付近,9フレット付近,16フレット付近,フレットの無いサウンドホール端付近です。特にこの音は平均律フレットとかなりはずれていますので,フレットの真上ではよく鳴りません。

文で書いても分かりにくいので,図に示します。図1は,弦の固有振動の節と腹の位置を示して,ギターのフレット位置と対比させたものです。むろん,触れる位置は出したいハーモニクスのユニークな節の位置です。
ハーモニクス3.png
図1.1本の弦の固有振動の腹と節の位置を第9次まで図示したもの。ギターのフレット位置も示す。


図1からわかるのは,触れる位置は平均律フレットとけっこうずれていることです。例えば,4Fハーモニクス(5倍音)は3F寄り,3Fハーモニクス(6倍音)は4F寄りです。また,触れる位置は大事ですが,弾く位置に関しては,少なくとも節以外でなければなりません。節位置を弾くと音が出ません。従って,いくつかの自然ハーモニクスを続けて弾く場合は,ブリッジ寄り数センチの位置を弾いていれば大丈夫ということがわかります。(これはやってみればわかる事ですが。)

図2(譜例)は,出るハーモニクスの音程です。記譜の都合と見やすさのために,黒音符はギターの記譜法でオクターブ上で書いていますが,ハーモニクスのダイヤ玉音符は出る実音で書いています。7倍音は音階音よりもかなり低い(音符の平均律音程よりも約31セント下)のでカッコ付きです。

Harmonics - Noteflight Community.png
図2.ギターの各弦の自然ハーモニクスの音程。


図2から,基音と2倍音は8度,2倍音と3倍音は5度,3倍音と4倍音は4度(5度の転回),4倍音と5倍音は長3度,5倍音と6倍音は短3度(長6度の転回)などがわかります。基本的な音程関係は算術的な倍音関係で確認することができます。

標準調弦の6弦ギターの開放弦のハーモニクスには,CやFのナチュラル音は(使えない7倍音以外には)はありません。従って,この音が出てくる音階は開放弦のハーモニクスでは弾けないことがわかります。

以上は,開放弦での話でした。これらは自然ハーモニクスと言っています。
押さえた場合は,押さえた弦長からの分割になります。この奏法ならば,すべての音が弾けます。これを人工ハーモニクスと言っています。幸いなことに,人工ハーモニクスの場合はほとんどがオクターブですから,押さえた弦長の半分の位置,すなわち左手の押さえたフレット+12のフレット位置をiなどで触れながら他の指で弾くということになります。この場合は押さえた左手ではなくて,右手のiなどの位置を確認しながら弾くことになります。

むろん,人工ハーモニクスにオクターブ以外が無いわけではありません。むろん単音で弾くには人工ハーモニクスのオクターブで全ての音はいけますが,和音などを出そうとした際,人工ハーモニクスで3倍音を使わないと無理とか稀にあった記憶はあります。その場合は左手の押さえたフレット+7のフレット位置を触れながら弾くことになります。しかし,人工ハーモニクスで3倍音以上を使うのは音が微妙に小さい上に触れる位置が面倒になるので滅多に使われないでしょう。
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Cecilia

ヴァイオリンでフラジオレットを経験しています。高校のオケで何かの曲で使いました。独学でいろいろ演奏する中でも何となく使ってきました。
ギターのハーモニクスも何かのテキストを見てやったような気がしますが覚えていません。
どちらも何となくやってきたレベルですので、今後は理論を学びながら演奏したいと思います。
by Cecilia (2021-02-13 07:38) 

Enrique

Ceciliaさん,
ヴァイオリンのフラジオレットもギターのハーモニクスも原理は同じものですが,ギターの平均律フレットでは自然倍音とズレてきます。案外それを楽譜と対応づけて明記してあるものが見当たらないので,自分で描いてみました
by Enrique (2021-02-13 09:14) 

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