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アルペジオ風和音について [雑感]

ここでいうアルペジオ風和音とは,特に楽譜には書いてないが,バラして弾く事の話題です。

和音をバラすには,pで流す方法と,pimaないしはpppimaなどでバラす方法があります。

和音をバラすのと塊で弾くのとでは,和音のニュアンスが大きく異なりますが,さらにpで流す方法と,pimaないしはpppimaなどのアルペジオ風の和音とでも細かなニュアンスは変わります。

鍵盤に例えれば,音をひとつづつ弾くのとグリッサンドをやるくらいに異なります。

有名なアランフェスのコンチェルト第2楽章冒頭は,ロドリーゴの初稿では,単なる6つの団子が書いてあるだけで,ポロロロローンと流す指示は無かったようです。R. S. デラマーサの校閲(実奏)を経て,和音の流しに加え細かな和音の変化が書き加えられて,如何にもギターから生まれたかのような名曲に仕上がったようです(現代ギター2013年3月号,手塚健旨氏の記事「ギター名曲の”謎” ⑫〜アランホェス協奏曲 セゴビアはなぜこの曲を弾かなかったのか?〜」)。
アランフェス2.png
譜例 アランフェス協奏曲第2楽章冒頭のギターの和音。ロドリーゴの原稿(A)とR. S. デラマーサが校閲して広く親しまれているもの(B)。
グールドは,モーツァルトのピアノソナタで和音をアルペジオ風にして弾いているところがあります。批判も多いところだろうと思いますが,モーツァルトの時代のチェンバロの様な楽器と現代の楽器とでは和音のニュアンスが全く異なるのですから,むしろ奏法で楽器の違いを緩和しているとも言えると思います。標準的な説は知りませんが。

かなり極端な例を挙げましたが,和音をバラして弾くというのは,自由な装飾あるいはヴィブラートと同程度な奏者のセンスに任せられた演奏上でのバリエーションかもしれません。ここぞという場所で自然に出てくるのは良いにしても,あちこちでネチネチとやられたら気持ち悪くなります。ただその辺は個人の感性にもよります。グールドのモーツァルト演奏の賛否が別れるのもその辺の理由もあるのでしょうか。

むしろ,チェンバロの演奏が参考になるかもしれません。単音の強弱が付かないその楽器では和音の音の数やそのバラし方などでニュアンスをつけています。もちろんリュートの演奏にもバラしはつきものです。

バラしはなにが目的か?と言えば,一種の強調だということを頭に置いておけば,そう乱用にはならなさそうです。
音の強調には,強く弾く(逆に弱く弾く場合もあるかもしれません)などのいわゆるデュナーミク,テヌートやスタカートなどのアーティキュレーション,ritなどのアゴーギク,ヴィブラートを掛けるなどの奏法的強調の他に,和音が出せる楽器ならば和音をバラす手もあるわけです。

和音の各音をはっきり出したい場合,特にメロディの強調ということもあるかもしれません。セゴビアは和音をバラした上にメロディ以外を消音するという技をよく使いました。
セゴビアほどではなくても,ギターではソルの曲などでも和音のバラしは割と平気でやっています。当方がギターを始めて,和音のバラしを初めて意識したのは(46年も前の事ですが)荘村清志さんがTVで,ソルのホ短調の練習曲Op35-18を弾くのを聞いた時でした(ご本人もお忘れでしょう)。中間部Amになったところの和音をばらして弾いたのでした。和音て同時に弾くものとばかり思っていた当方には(そういう弾き方もあるのだと)衝撃を受け夢中でその弾き方を覚えたものです。確かにそうすると,冒頭部からのEmの和音の切々とした雰囲気からまるで別の世界に行ったように雰囲気が変わります。

和音のバラしというのも,特にギター(やリュートやチェンバロ)では当たり前の事になっていて,あまり意識もしなくなっていますが,アランフェスの例ほどではないにしても,案外曲のニュアンスを決定するので,仇や疎かには出来ないと思うのでした。
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REIKO

ギターに関しては「聴き専」の自分の印象では、ギターもチェンバロやリュートと同様、楽譜の和音に何ら指示がなくても、演奏者のシュミや感性で適宜ジャラジャラとバラしをやるもの…と何となく思っていました。
そもそも初稿「A」で、指は5本しかないのだから6音を同時に鳴らすのは元々無理ですよね?(裏技とかあるんでしょうか?)
5音の和音もありますが、ここだけ同時に弾き、他はバラすというのも変なので、バラさないと弾けない箇所に倣って全部バラす…どうせバラすなら5音の箇所も6音にして色つけちゃお♪…で「B」になったんでしょうねえ。

なお日本では、和音のバラしやそれを指示する波線も、16分音符や32分音符の連続で書かれる分散和音も、どちらも「アルペジオ」というので困りますよね。
(今回の記事のように、最初に断り書きを入れる必要が生じてしまいます)
少なくとも米国のピアノ教育では、和音のバラシは「rolled chord」で、arpeggioとは明確に区別しています。
他の英語圏やピアノ以外の楽器ではどうなのか未確認ですが、この言い方、日本でも広がらないかなあと思っています。
by REIKO (2020-09-16 13:59) 

Enrique

早速REIKOさんからコメントいただき,ありがとうございます。

和音のバラシに関してはおっしゃる通りで,いわゆる分散和音としてのアルペジオ(この言い方も曖昧でしょうか?)とカタマリの和音をバラすRolled Codeの区別がまず必要ですね。ただそれもグリッサンド記号を縦に使って表されますが,これとてギターではp指で流すか,pimaで時間差攻撃するか,あるいはラスゲアードにするかの選択肢があります。
指示の無いものをバラす際は,控えめにやりますが,そのスピードもまちまちです。

もっと言えば,拍の問題があります。和音を流すと弾き始めと終わりで時間差がありますから,弾き始めを拍に入れるのか,弾き終わりを入れるのか,あるいは真ん中辺かの課題があります。

ゆっくりな曲ならばOKですが,速めの曲でぽろろろーんとやって拍に入り損ねたのでは音楽になりませんので,何か対策が必要です。そこはフラメンコ奏法でもあるラスゲアードを使えばリズムの切れは良くなります。

補足ですが,6音をほぼ同時に弾く方法はあります。
①②③はamiで同時に弾くのですが,p指で⑥⑤④を1本の弦を弾くかの様に弾くとほぼ6音同時に弾けます。むろん小指chも使えば,p指は⑥⑤2本のみになりますので,更に楽ですが,あまりその様に弾いているのを聞いた事がありません。やはりギターはボロロローンとやったほうが簡単な上に演奏効果も上がるということなのでしょう。
by Enrique (2020-09-16 23:16) 

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