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海苔漁師の「ラ・カンパネラ」から思うこと [雑感]

海苔漁師の徳永義昭さんという方が,7年がかりでリストの「ラ・カンパネラ」を演奏したというのがTVでも放映され,話題になっていました。

TV番組では,やはり奇跡のピアニストと呼ばれたフジコ・ヘミングの前で演奏するというのが目玉になっていました。

ギター関係では,ラ・カンパネラというと,カステルヌオーヴォ=テデスコの悪魔の奇想曲の終わりにそのテーマがちょろっと引用されるくらいですが,元の旋律はギターでもお馴染みのパガニーニのものですから,そう遠い話でもありません。

リストのピアノ曲の「ラ・カンパネラ」というと,難曲で知られます。
この曲は手のでかい男性の方が弾きやすいというのはありますが,何もピアノは手のでかさだけで弾くものではありませんので,なかなかな事ではあります。


「譜面も読めない初心者が弾いた!」
というのが,驚愕のフレーズになっている様です。
たしかにクラシックの演奏家で譜面を読めない人はほぼいないでしょうが,例外はあります。辻井伸行さんは,目が見えないですから譜面は読みようがありません。音だけが頼りです。

海苔漁師のこの方の場合,ピアノ経験が無いということ以外は健常なわけです。
それに楽譜が読めることというのは,楽器演奏において絶対でも無いことは事実です。
しかし,(特にクラシックの)楽器演奏というのは特殊技能だという刷り込みがあり,そこでは楽譜が読めるのは当たり前,ありえない事が起こったという事件性はあるわけです。子供時代から音楽訓練を受け音大に進み音楽の基礎や演奏技術を磨き,それなりにクラシック曲は弾きこなせる沢山の方がいます。きっとピアノ教師をされるこの方の奥様もそうでしょう。そういう方でさえ難しいのにと。

沢山の真面目に努力されても注目されない方々がいる反面,何かのきっかけで売り出す方がいます。
無論この方が演奏で売り出すとは考えにくいのですが,この方が憧れて努力の目標にもなった「奇跡のカンパネラ」で売り出したフジコさんも言ってみればそうなのでしょう。無論立派な経歴はありますが,そのブレークは彼女の数奇な運命と無関係ではありません。

フジコさんの事をただ話題に出しただけで,眼の前で罵倒されるのを聞いたことがあります。正統?なクラシック業界からはあまり認められていない様です[1]。あれだけのブレークは,まじめで正統なクラシック業界のみの人口ではあり得なかったことでしょう。確かにピアノをやった方ならば,フジコさんの演奏は首をかしげる所はあるでしょうが,彼女自身の「ぶっ壊れそうな鐘があったっていいじゃない,機械じゃないんだから」という言に集約されていると思います。

[1]例えば,こちらの記事。
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コメント 6

たこやきおやじ

Enriqueさん

この海苔漁師の方は、「為せば成る・・・」の見本の様な人ですね。とてもまねできるものではないですね。(^^;



by たこやきおやじ (2020-01-26 17:32) 

Enrique

たこやきおやじさん,
中々出来ないことですから話題になるのでしょうが,
この方が憧れたフジコさんにも興味が移ってしまいました。
by Enrique (2020-01-27 05:59) 

たこやきおやじ

Enriqueさん

フジコ・ヘミングは、以前テレビで少し演奏を聴いただけですが、素晴らしい感性を持った人だと思いました。演奏技術がもう少し「感性」に追いつけば、私の好きなピアニストの一人になったと思います。
(^^;
by たこやきおやじ (2020-01-27 11:24) 

Enrique

たこやきおやじさん,
ピアニストの技術が上がり過ぎて,それ以上無くなった反動のような気もしますね。
by Enrique (2020-01-27 11:58) 

REIKO

ツイッター(私のタイムラインは音楽をやっている人が多いのですが)でも随分と好意的に話題になっていたので、素人演奏なりに人を引きつける魅力があるのかな?と、私は良い方に解釈していたのですが、こちらで初めて演奏を聴き、だいぶガッカリしました…(苦笑)
「苦節7年」「楽譜も読めない初心者」「音楽経験のない中高年男性」のような付加情報がなければ、アマチュアの発表会演奏みたいなものだからです。
感動や称賛の対象が演奏そのものでなく、長期間の「頑張り」だとか「人間、いくつになってもやればできるんですね!」的なことに向いてしまってるのでしょう。
こういうのはネタにしやすいんですよね。
子供の時からコツコツとピアノを学んできた人が、30歳くらいでラ・カンパネラを発表会で弾いても、テレビ局は見向きもしないはずです。
こういう例ばかりマスコミで露出すると「楽器の練習とは特定の曲を長期間弾き続けること」「難曲を攻略すべく頑張ることに価値(勝ち?)がある」「何年やっても易しい曲しか弾けない自分は下手」等々…と思い込む人が出てきてしまいます(事実、たくさんいます)。
なんとかならないものでしょうかねえ…?
by REIKO (2020-01-27 16:22) 

Enrique

REIKOさん,
おっしゃること良く分かります。
動画を載せたのですが,よく聴いていませんでした。
演奏内容よりもエピソードの方が優先されてしまう事は色んな場面で遭遇します。そして,驚くほど演奏内容を聴いていなかったりします(今回の私がそうですが)。実際に聴いても「この人はすごい」というフィルターで聴いてしまうところがあります。
結構音楽好きな方が有名な人の演奏を聴く場合でも,「やっぱり~はすごい!」とか,まるで前評判や権威を確かめているかの様な感想を聞きます。
この人の場合でも,清塚信也さんやフジコさんにスゴイというお墨付きを貰っています。プロにしたら信じられないことだから褒めるしかないでしょう。
音楽の価値評価における問題点(音楽の実際の価値と一般の関心度とのギャップなど)がグロテスクに表れている例なのでしょう。
by Enrique (2020-01-28 09:48) 

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