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手工楽器について~塗装について~ [楽器音響]

手工楽器の話を書いていましたら,塗装の話になって来ました。

ヴァイオリンはオイルニスを使う事が多い様ですが,ギターは直接肌に触れるので,向かないようです。


高級家具のフィニッシュにも用いられるフレンチ・ポリッシュ

昔から高級ギターのニスは,シェラックニスと相場は決まっていました。ある種のカイガラムシの分ぴ物から精製した樹脂で,食べても構わないようで,実際チョコレートなどに使われているそうです。この樹脂をアルコールに解いて,タンポ摺りをします。これを100回・200回と繰り返すようです。これをフレンチ・ポリッシュとい言います。深みのあるしっとりとした艶に仕上がります。

名のある高級なギターはフレンチ・ポリッシュが多いです。
ヨーロッパではこれを専門にするフレンチ・ポリッシャーという専門の職人もいるようです。
楽器職人が楽器の組み立てと,仕上げのフレンチ・ポリッシュを一人でやるというのも大変なものです。

現代の銘工アルカンヘル・フェルナンデスは,塗装は外注に出すそうですが,それも一つの見識でしょう。

エルナンデス・イ・アグアドという合作の銘器がありますが,これなどはマヌエル・エルナンデスが木工、ビクトリアーノ・アグアドが塗装を主に担当して共同製作した楽器なのだそうです。

最近の例では,もう離れていますがラミレス工房出身のマリアーノ・テサーノスとテオドロ・ペレスの合作ギターが一時期人気でしたが,あれなどもそういう役割分担だったのかもしれません。

もちろん,ベラスケスの様に目止めもせずに,ひたすら木目にシェラックをすり込んでいくギター製作家もいるようです。

ラッカー塗装というのは少し注意が必要です。ラッカーというのは,主にシンナー系で解くので,油性塗料という事が出来ましょう。上で触れたシェラックニスもラッカーに含める場合もあるようですが,シェラックニスはアルコールで解くので,必ずしも油性とも言えません。
日本の漆もラッカーの一種とされますが,こちらはシンナー系で解くのでは無く水性です。しかし,これは水性ペイントの様に水の乾燥で固まらせるのでは無くて,化学重合反応を用います。漆を塗ったあと高温高湿の室に入れるのは重合反応を促進させるためで,むしろ水分と温度が必要ということです。
漆に良く似た性質を持った日本発の塗料カシューがあります。シンナーで溶きますが,漆に似て固まるのにある程度の温度がいる様で,寒いところで塗っても何時までも固まりません。日本の松岡や河野に使われました。

やはり塗装は大変ですので,ギターの製法に様々な革新を行ったラミレスIII世はギターの塗装についに合成のユリア樹脂を用いました。

シェラックを使う伝統的職人からしたら,驚天動地の事だったでしょうが,耐候性など塗装本来の意味からすれば,それもありなのでしょう。しかし,やはり音色に関わる表面板には軟らかいフレンチ・ポリッシュを用い,側面や裏面にはユリア樹脂を施すという合わせ技をとる職人もいるようです。特に日本の梅雨などの高温多湿にはフレンチ・ポリッシュは合わないようです。高級楽器を使う際の悩みの種でもあります。ラミレスは構造的にもそうですが,塗装の面でも非常に丈夫な楽器である事は確かのようです。表面板と裏面・側面板,塗装までを書いたのですが,ひきつづきギターのその他の部分について書きます(つづく)。
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たこやきおやじ

Enriqueさん

シェラックは昔SPレコードにも使われていましたが、制振作用か何か音響的な特徴があるのでしょうか。
by たこやきおやじ (2019-02-24 14:29) 

Enrique

たこやきおやじさん,
まず,塗装が表面板の振動に良くない影響を与えると考えますと,塗膜が薄い軟らかい塗料の方が良いと考えられます。実際スペイン製の楽器などで分厚いウレタン塗装で鳴りの悪い楽器を見たことがあります。
特にシェラックが良いと言うよりも振動面でそれほど悪くないという事では無いのでしょうか。
SPレコードの時代は他に良い素材が無かったからではないかと思われますが,むしろ振動を抑える役目を持っていればレコード盤としては良い素材でしょう。盤はがっちりしていないといけませんので。
by Enrique (2019-02-25 18:02) 

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