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手工楽器について [楽器音響]

先日の記事で合板の意味を書いていましたら,だんだん楽器そのものの話になってしまいました。

合板が使われている楽器というのは主に量産の普及楽器です(ラミネート材を用いている高級楽器もあります)ので,ここでは先の記事の⑤の範疇,すなわち手工楽器について書いてみたいと思います。

ただ,この手工楽器というのも,定義があいまいで,動力機械を全く使わない人もいれば,合理的に用いる方も多いようです。

「個人名が付く量産楽器で無いもの。」
これも曖昧です。量産と言っても,機械生産では無いですから,月産何本からが量産で,何本までがそうでないかなどとは線引きできません。強いて言えば,分業式に作るのではなく,一人の製作家が一貫して作ることでしょうか。そうすれば,そう大量には作れません。

手作り楽器のラベルに署名が入る事が多いです。
ただ,品質的には殆ど変わらないのに,署名のあるものと無いものがある場合があります。
ラベルでないところにサインを入れる製作者もいます。

手のこを引くのと,電動のこを使うのとどちらの方が良いでしょうか?
手作り至上主義ならば,手のこの方を良しとするでしょうが,接合部がぴたりと来る様に組み立てるのであれば,テーブルソーの精度は必要でしょう。通常はテーブルソーと手のこの使いわけでしょうか。

殆どオカルトになりますが,木材に電動機械の音を聴かせるよりも,手加工の方が木材にはやさしそうです。それから,機械加工だと,どうしても規格サイズになりますが,手加工だと悪く言えば誤差が発生しますが,もともとムラのある木材という素材を使っていますから,寸法だけ精度を上げてもしようがないという面はあります。ブレーシング一本でも,木のくせを読みながら。こつこつと作り上げるのがすぐれた手工製作家の仕事でしょう。

構造と相まって製作家の個性を作り上げるのが,組み立てでしょう。
幾ら精密に構造をコピーしても,製作家のクセは出るようです。誰某風のハウザー(or ハウザー風の誰某作),とか誰某風のブーシェ(or ブーシェ風の誰某作)とか。

同じ構造,同じ材を用いても組み立て方,接着のやり方等々が少しづつ異なるからでしょうか。
例えば表裏板の接着の固定には,スペイン系の伝統的なやり方はコリアロープで巻きますが,クランプを使う方も多いと思います。

部分部分きっちり精密に行くか,全体としてのバランスで見るか。
ネジを使った機械の組立ですら,組み立て技術にかなりの優劣が出ると言います。
半導体製造などに用いられる真空装置も余り精密に作ってはダメだと言います。巨大な大気圧が掛かるので,多少の変形を見越した鷹揚な設計で,バランス良く組み上げないといけないと。

ギターだって,薄い板で組み立てた箱に弦のかなりのテンションが掛かります。
おまけに木材というムラのある素材を用います。木材の加工とそのはぎ合わせ,楽器としての組み立て技術がものをいうというのは想像に難くありません。

ただ,バラバラにするくらいの大修理をしても,元の楽器の個性はしっかり出るという事実からすれば,やはり,まずは設計構造がそれなりに大きな意味はあるということなのでしょう。

ベラスケスに言わせると,楽器のコピーは可能とのことです。ブラインドテストしても見分けられないものを作るのは可能だと。むろん彼の楽器はハウザーのコピーなわけですが,デッドコピーを避けてオリジナリティを出すために敢えて一部を変えているとの事でした。

かつてのラミレス工房などはある意味量産体制だったでしょうが,何分その製作者がパウリーノ・ベルナベだったりとか,マリアーノ・ペレスだったりもしたわけですので,ラミレスIII世監修超一流品という位置付けだったと思われます。

小さな工房の作品も多いわけです。
コツコツ手作りでしょう。そう言う方はせいぜい月産1本くらいのもののようです。これで生計を立てるとなると,おのずと楽器の価格も決まります。

近代工場の様な工房で整然と合理的な製作法の方もいます。ルビオやその工房出身のポールフィッシャーなどがそのタイプでしょう。ヤコピの工房の様子は分かりませんが,数千本作った人ですから,かなり合理的なのでしょう。こういう製作家は製作本数が多いですから,特に中古品の市場価格は比較的安くなります。

トーレスは何本あるのか知りませんが,ブーシェが154本だと言うのは有名です。これなどは極めて希少価値が利いてきます。

市場での希少価値はさることながら,少ない本数をゆっくり作ると言うところにどんな価値が置けるのでしょうか?十分寝かせた材を使うのは当然として,材は,大径木からスプリットしたもの。接着剤はニカワ。そうして,案外手間のかかる作業が塗装です。フレンチ・ポーリッシュといわれる手法で仕上げるのが,最も良いとされています。シェラック・ニスをタンポずりしながら仕上げる手法です。

少し長くなってしまったので,続報に回します。
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たこやきおやじ

Enriqueさん

ベラスケスのハウザーの話はどこかで見た記憶があります。私はハウザーは弾いたことがありませんが、私の持っているベラスケスとはかなり音質は異なる様な気がします。
by たこやきおやじ (2019-02-22 22:23) 

Enrique

たこやきおやじさん,
60年代までのベラスケスはほぼハウザーのコピーでした(一部変えているそうですが)。
私の63年製のベラスケスはピンクさんのお持ちのハウザーI世とそっくりでした。むしろハウザー家でもIII世になると,より洗練され現代風になっている感じがしました。
同一人物でも年代により作風が変わります。ベラスケスは80年ごろからハウザーのコピーを卒業?してボディの大型化などをしましたが,その後また戻しています。私は新しめのベラスケスは試していないのですが,たしかに変わったとは聞きますね。
by Enrique (2019-02-23 07:22) 

EAST

そもそも「手工楽器」という日本語は、楽器一般で使われているのでしょうか。(手工業という日本語はありすね。)私はギター以外の楽器はほぼ無知なのでわかりませんが、ギターは確かに「手工ギター」と言いますね。他の楽器についても同様に「手工バイオリン」とか「手工フルート」等といった範疇があるのでしょうか。楽器の市場が小さければ手工が当たり前で、そもそも、いちいち「手工」という必要もないのかもしれません。そのように考えると、もしかしたらギターの「手工品」というのが「工場量産品」と対をなす概念(?)で使われるようになったのではないでしょうか。ただし、段々とEnriqueさんご指摘のように規模や製造プロセスにおいてあいまいになってきて、線引きが難しいのではないでしょうか。
個人としての思いですが、「手工ギター」という言葉は「売り手」が積極的に使いだしたのではないでしょうか。話が全くそれてしまいますが、「ビンテージギター」と同じで、わかったような、わからないような言葉で、何となく価値が高そうな印象をあたえませんか。具体的な根拠もない「仮説」で、あくまでも個人の勝手な思いにすぎませんので。
by EAST (2019-02-26 13:07) 

Enrique

EASTさん,
全くおっしゃる通りだと思います。
ただギターだけ特有というわけではなく,ヴァイオリンやフルートも近いものがあると思います。手工ヴァイオリンという言葉もどこかで聞いたことがあります。安いヴァイオリンは板を削り出しでなくプレスで作りますので,そういう楽器は少なくとも手工とは言わない様です。
フルの手作り品に対して工業的に作るものも多いと思います。現代のピアノなどは逆に手工など無理ですしね。ギターの場合工業的製作本数も多いので特に目だつのだと思います。
ビンテージも良くも悪くもですね。
古くて価値のある楽器なのかただ古ぼけただけの楽器なのか曖昧です。
名工の手工なら良いですが,シロートみたいな人の手工なら機械製作のほうが良いかもしれません。
by Enrique (2019-02-27 08:15) 

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