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レコードの音の良さの秘密? [雑感]

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かつてアナログ・レコードの方が音が良いとか,真空管アンプの音が良いとか言うと,
「技術の進歩を否定するノスタルジア」と言ったような風情の批判もありました。

確かに,ノイズが無いとか歪み率が低いと言った点からいえば,デジタル万能と見て良いわけです。そういう時代になって久しいわけです。

しかし,人間の感覚というのも,そう単純なものではないようです。
同じクラシック・ギターという楽器のサイズも材質も構造もほぼ同じの楽器でも随分と音が変わるというのも,「全高調波歪み率が何%」と言った指標とはまた別の尺度のものだと思います。極論すれば,弦の音を如何に歪ませるかというのがギターの胴の役割なわけです。

歪みを嫌うならば,クリーントーンのエレキギター音の方が弦の音のHiFi(最近あまり使わないですが)音だということになります。もちろん,やるジャンルの音楽的要求もあるのでしょうが,たいがいエフェクターなどにより文字通りディストーション(歪み)が掛けられます。

誤解をまねくといけませんから,ここで言っている歪みとは,広義の歪みとしておきましょう。
全高調波歪み率なるものは,あらゆる波形の基本波からのズレを定量化したものですので,まあミソもクソも一緒にしたものだということです。

高忠実度再生の観点からすれば,原音を如何に歪ませないかということですから,そのズレに当たる歪み率はそれなりの意味を持ち,再生装置は楽器とは考え方が違うとは言えます。しかし,アナログレコードの方が音が良いとか,真空管アンプの方が音が良いというのが人間の感覚であれば,物理的に同じ音を出す器具として,楽器の音と再生装置の音とを峻別できるものではないはずです。「歪み」というと悪いイメージですが,聴きやすくするとか音を美しくする側面もあます。むしろ楽器に関しては,如何に「美しく歪ませるか」それだけな訳です。

全高調波歪み率というのは,基本波に対して,高調波分がどれだけかという事で,

全高調波歪み率 =   全高調波の実効値の和 
 基本波の実効値 
 

で表されます。ちなみに分子は第二次高調波以降の高調波の実効値の2乗和の平方根です。ルートやΣ記号を見ただけで拒否反応を示す方もいますので具体的な数式は示しませんが,きちんとした指標です。元の波形からの歪み方の度合いをきっちりと表します。例えば矩形波や鋸波,三角波などの数式で表される波形でしたらフーリエ級数とパーセバルの公式なるものを用いて厳密に計算が出来ます。

矩形波は四角い波形で,初期のファミコンの音などはこれでした。もし純音からこの形に音が歪んだとすれば,その歪み率は上の計算をやると48.3%となります。一方,鋸波というものも同様に計算すると,64.5%になります。もちろん純音のままならば歪み率は0%です。歪み率何十%などという極端な例ですが,この3者の音を聴き比べて見ると,人にもよるでしょうが,必ずしも歪み率の最大の鋸波は悪くなく,矩形波の方が人工的でイヤな音という印象です。歪み率は0の純音は聴力検査の音で無味乾燥な音です。

アンプなどでは普通はこの数字は0点何%とか,0点0何%とかですし,デジタルアンプなら原理的には量子化誤差だけですから,殆ど0と言ってもいい様なものでしょう。高品位化するには「ハイレゾ」にするしかないわけです。

しかしながら,仮にこの数字が大きくても,高調波として偶数次波が多いか奇数次波が多いかによっても聞こえる印象は全く異なりますので,必ずしもこの数字が少ないから良いと言うものでもなく,その数値よりも,含まれる高調波の偶奇のほうが大事なわけです。

歪み率などで測る高忠実度の観点から言えば現在のデジタル機器はほぼ理想状態でしょう。アンプなどの電気ものは特性が良くて当たり前で,劣化の要因は機械ものの音響振動部分ですので,マイクロホンやアナログレコードのプレーヤ部,スピーカなどが音質劣化の主要な場所でしょうから,デジタル化によって記録再生部分の劣化はほぼ無くなった筈でした。アナログレコードがCDのデジタル記録に,更には半導体化によって機械的部分は全て排除されたわけです。

ところが。。。
真空管のアンプなどですと,歪み率何%なんていう数字が平気で出ます。それでも真空管の音が良いと言う事で,私も含め使い続ける人たちがいます。わざわざ劣化の少ないところに劣化要因を持ち込んでいる様なものです。もっとはっきりとした例が,アナログレコードです。音の振動をレコードの音溝に刻んで,それを針でトレースして再生すると言う,現在の技術からすれば極めて原始的なものです。劣化要因が大ありですので,それの愛好者は,単なるもの好きの非合理主義者と見られてもムリもありません。しかも,掛けるプロセスが楽しいとか,パチパチ言うノイズに痺れるとかなると,かなりコアなマニアと言わざるを得ません。

しかし,最近レコードの音の良さが年配者ばかりでなく,若い人たちにも認知され始め,その理由を探ってデジタル再生にも生かそうという試み(製品)が現れているようです。それをやるのが,ソニーでCDプレーヤを開発した技術者の方です。

このページでの紹介によれば,レコードの音が良い秘密は,以下の3つだそうです。

・トーンアームの低域共振
レコード盤を掛けた時の,いわば音にならない10Hz程度の超低音の雑音です。
これがスピーカーのコーンをふらふら動かすのです。確かに昔レコードを掛けていた時,ウーファーのコーンがふわふわと動いていたのを思い出します。これが音質に好ましい影響を及ぼすのだとのことです。理由は,これが無いと,スピーカのコーン紙は静止摩擦に捕まって全く動かないため細かな音が出ないのだそうです。高級なスピーカーほどそう言った細かい音が出る様に初動感度を高めているのだそうです。いわば機械的なバイアスによって普通のスピーカーでも高級スピーカー並みの音質になるのだそうです。ヘッドホンでも効果があるのだそうです。
うーん。目から鱗です。

・レコード盤を掛けた時に発生するスクラッチノイズ
周波数が上がるにつれ下がるノイズとしていますが,たぶん1/fノイズの様な成分なのでしょう。このノイズも,上の低域振動と同様,今度はスコーカやツイータの初動感度を改善するのだそうです。いい塩梅のノイズが少しあると,中高音が聞き取りやすくなるのだそうです。

・スピーカーから出る機械的振動のレコード再生へのフィードバック
これに至っては,完全に有害だと思われていたものです。いわばオーディオ装置が楽器の様になって,リスニングルームもろともに音楽を作り出しているのだとのことです。

いやはや,嘗ては有害だと思われていたものがほぼ全て,音質の向上に役立っていたと。デジタル化や機械的部分の排除による電気特性の改善はむしろ,あらかた聴感上の音質を悪くする事に寄与していたと,まあ笑ってしまうような話です。その様な事が分かったので,そこで,音響的理由で音が良くなっていたそれらのノイズやらフィードバックを,デジタルで再現しようというわけです。「バイナルプロセッサー」なるもので,ウォークマンに搭載するのだそうです。これまた今日的発想ですが,最後のものなどは,楽器の製作者が表面板や力木を少しづつ削って整音しているのと似たようなことをコンピュータソフト上でやっているようなものでしょうか。
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たこやきおやじ

Enriqueさん

真空管アンプ等オーディオにもお詳しいようですね。恐れ入ります。(^^;
私としては、周波数特性、ひずみ率、ダイナミックレンジ等現在も使われているパラメータだけでは「音質」の本質は表せないと思っています。真空管アンプでは出力トランスの「影響」が一番大きいのではと今は勝手に考えています。(^^;
レコードに関しては、自分でCDレベルの16bit/44.1kHzでデジタル化したものと元のレコードの音を比べるとデジタル化した音源のほうが明らかに劣っています。24bit/192kHzだとかなりレコードの音に近ずきます。理論的にはレコードの特性を超えてデジタル化されているはずです。ですから、完全にレコードの音が再現できなければいけないはずです。デジタルの理論や回路にも何か足りないものがあるように思います。
昔、無線と実験誌にアンプ製作記事を書いている佐久間俊氏が「失われた音を求めて」と書かれていました。オーディオには、現在でもまだまだ失われた音があるように思います。
(^^;
by たこやきおやじ (2018-11-17 09:48) 

Enrique

たこやきおやじ さん,アナログ信号からデジタル化すれば必ず落ちます。高ビット化すれば落ち方が軽減されるだけでしょう。原理的にそうです。仮に原音の特性を超えたサンプリングだとしても,結果の信号は原音と変換系とのたたみ込みになりますから,必ず落ちます。
デジタル化の考え方は,アナログ信号はダビングや伝送系での劣化があるので,それを防ごうということです。それは否定しません。デジタル化しないと,ネットで音を聴くなど実現しなかったですしね。デジタルは0と1ですから,エラーを起こさない限りは全く同じにコピーできます。ダビングの劣化がありません。ただ,その性質と人間の感性としての音の良さとは別ものだと思います。
例えばデジタルの楽器は全くのオモチャですし,オーディオも生の音をデジタルサンプリングした時点でそれは始まっています。
人間の感覚にはゆらぎがかなり重要な気がします。ハイレゾなるもの大量の情報量を使って,アナログのゆらぎまでを拾おうとしている様に思います。
アナログのレコードなどは機械系があるので必ずゆらぎを含んでいます。回転ムラなども昔は昔は音質劣化とされましたが,多少あるのが良いのではないかと思います。
楽器の音にはビブラートを掛けますし,テンポにもゆらぎがあります。電子音のつまらなさはそれの無い単調さでしょう。昔のテクノポップなるコンピュータ・ミュージックがあっという間に飽きられたのは,ゆらぎのなさによるウソくささによるのでしょう。
by Enrique (2018-11-17 20:39) 

Ohishi

Enriqueさん

初めまして、Ohishiと申します。
ソルの20のエチュード検索からこのブログにたどり着きました。
これまで閲覧だけでしたが、趣味がかなり重なるので思い切って書き込みました。
アンプは6AU5GT PP(URL)で10W以下、プリはFETハイブリッドでイコライザを組みレコードも聴けるようにしましたが、測定器がない為作りっぱなしの状態で現在はほとんど稼働していません。
目的は手持ちのレコードのCD化から、どんどん欲が出てきてこの始末。Audacityで加工してToastからCD化するのですが、こちらも手間が掛かりすぎて現在中座しています。
書斎とかオーディオルームなどは所詮無理ですので、管球アンプでクラシックに浸る等は出来ないので、何とか過去のライブラリを活用できないかと考えています。
ギターは定年後再開し、今年10月に約35年ぶりにステージに立ちました。演奏はソルの3番(Op.6-2)でしたが、緊張して6〜7割のできでした。(人前での演奏は緊張して失敗しては落ち込むといった繰り返しです。)
現在レッスンは20番(Op.29-5)で仕上がりまではまだしばらく掛かりそうです。ちなみに先生の口癖は『楽譜には何でも書き込むこと』ですが、当方はスコアリングソフト(kawai)で楽譜をプリントしてこちらに指摘を書き残すようにしてレッスンを受けている次第です。
ソルのエチュード全曲拝聴しました。よくここまで流暢に弾けるものだなと感心する一方で、当方も大いに触発されました。当方レッスンは進んでも、各曲の仕上がりは貧弱で、とても人前では披露出来ません。とはいえ、私もできれば自分の記録として録音にチャレンジしたいものです。
タンスマンの演奏の方も拝聴しました。こちらも興味ありますが、現在バリオスに傾倒しています。ワルツのNo.4をものにできないかと挑戦中です。
それは又、寄らせて頂きます。
by Ohishi (2018-11-18 08:20) 

Enrique

Ohishiさん,はじめまして。
お読みいただいていたようで,ありがとうございます。
私のは2A3のシングル真空管アンプです。プレーヤもありますが,イコライザーがないため,CDを真空管アンプで,レコードをトランジスタアンプで聴くという誠に不徹底なものです。いずれにしてもこの頃はあまり多くは聴かないですね。
時間があれば練習の方が楽しかったりします。
20年ほど前に学生時代にやっていたギターを再開しました。
再開時は,すぐセゴビア版のソル練習曲をやりましたが,半分くらいしかやりませんでした。
バリオスのワルツ第3番,第4番はS20の終了後であれば十分ターゲットでしょう。
私は数年前からカルカッシOp60からやり直し(こちらもまともにやっていませんでしたので)ました。
私の場合ですが,どうしても難しい曲にチャレンジすると力が入りすぎたり,ステージで異常に上がったりしますので,なるべくやさしい曲を使って,構えから右手,左手全てを直しましたが,まだ直りきっていないようです。昔弾いていた曲を弾くと,力むなどの悪い癖が曲と共に思い出されてしまいますので余り弾かない事にしています。
ただ,そうすると新曲の暗譜ができないので,視奏する事にしています。
by Enrique (2018-11-18 14:10) 

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