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「禁じられた遊び」の演奏あれこれ [演奏技術]

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ご交流頂いているアヨアン・イゴカーさんが,幾多の楽器と共にクラシックギターを弾いていらっしゃるとうかがって,何やら嬉しくなりました。

アヨアン・イゴカーさんは,総合芸術の一環として作曲をされ,様々な楽器にご興味をお持ちですが,ピアノやヴァイオリンやチェロ,フルートなどとともに,クラシックギターを取り上げられました。

すでにギター用の曲は何曲か作曲されていらっしゃいますが,今回演奏も手がけられたとの事。そこで練習されているのが,あの「禁じられた遊び」のメインテーマ,「愛のロマンス」だとの事です。この可憐な小品は古今の多くの人たちを魅了してきました。あのメロディは音楽の教科書にも載りました。ギターの開放弦にフィットしたホ短調で始まるシンプルで切々としたテーマは,最初の1・2小節で人のこころを掴んでしまいます。

初心の方が取り組む曲としては,かなり難しいと思います。特に後半ホ長調になる部分は演奏技術的には中級編でしょう。プロでもこの曲を弾くのは厄介だと言います。しかし,私も経験ありますが,弾きたいと言うモチベーションの強い曲は何とかなるものです。逆にあまり弾きたく無い曲は,技術練習だとしても,それなりにしかなりません。

ただ気持ちだけが先行しても何ですので,この曲の合理的な練習法を考えてみたいと思います。
初心の方と言っても,他の楽器の音楽経験などの違いもあり,最適な練習法というものは変わってくると思いますが,ここでは,いきなり弾きだすよりも有効かなという練習法について考えてみます。私がこの曲を弾くために取った練習法というよりは,他の曲の練習を通して得たノウハウをこの曲の練習に適用してみるというのが正確なところです。

まず,用いる楽譜の版です。世に出ている代表的なものとしては,イエペス版,フォルテア版,ルビーラ版などがあります。シンプルな曲ですから,そう大きな差はありませんが,最も大きな違いはアルペジオの順番です。

イエペス版による前半部分


ルビーラ版同上
文字通り映画「禁じられた遊び」で演奏されたイエペス版では,アルペジオが高い方から降りてきます(フォルテアがそうしたようです)。指で言うと,ami ami ami ーですが,ルビーラ版ではaim aim aim ーとなっています。イエペス版のアルペジオは,ハラハラと舞い落ちる様で映画の雰囲気とも合っており一般に流布している版はこちらでしょう。ホ短調の前半部分では,技術的難易度はどちらも変わりませんが,後半のホ長調部分では,オリジナルの言われるA.ルビーラ版が弾きやすくおすすめです。ギターの技術的難しさのポイントは,遷移部分だろうと思います。イエペス版のアルペジオは上から順番ですので,右手は弾きやすい様にも見えますが,ホ長調部では遷移部分の左手は急激に移動させなければならず,困難ポイントが発生しています。この件は過去の記事で触れました。


楽譜を見て弾きだす方,あるいは,すでに音は頭の中にあるので,指板上で音を探しながらでも弾けてしまう方もいらっしゃるでしょう。特に,冒頭6小節分はメロディ以外開放弦で弾けてしまうため,「え,こんなに簡単に弾けるの?」

昔,フォークギターやっている人も,エレキをやっている人もみんなここまで弾きました。
しかしそれ以降急に難しくなるので,そこで終わってしまいます。セーハ(バレー)という中級の技術課題が出てくるからです。第7小節・第8小節は①②③弦の小セーハなので何とかクリアしても,第9小節の大セーハでダウンです。しかも続く第10小節のメロディのD#音を4指の拡張で取らないといけません。ここが前半のホ短調部の山場(難所)でしょうか。

ただ,ホ長調となる後半部はセーハが多発しますので,初心の方は押さえ方が分かっても,全然音が出ないという事になってしまいます。音がマトモに出ないまま,練習を続けるというのも困難なものです。

ギターは音自体を出すのは比較的容易な楽器だと思います。開放弦をジャラーンとやって出ない事はありません。管楽器などでは,様々に弾きこなす演奏技術以前にまず音そのものを出すのが課題になります。私は経験ないので想像ですが,まずは音が出る様になったら,順次音楽的課題に取り組んで行けるのではないでしょうか。しかし,ギターの場合,開放弦を鳴らすことは容易でも,多声を押さえてコントロールして出すのはいっぺんに難しくなってしまいます。

普通,ギターの初心者向けの練習曲は,開放弦を使いつつローポジションで弾ける様になっています。それでも,一人でベースや内声を入れて独奏するというのは,管楽器や他の弦楽器と比較しても音楽的にはレベルが高いのではないでしょうか。ギターでは音楽的にレベルが高いことが一見容易にできてしまいますので,そこは入門の敷居の低さかもしれませんが,反面そこが落し穴なのかもしれません。「禁じられた遊び」をとっても,メロディにベース,アルペジオの伴奏を付けて手に持てる楽器で一人で弾けてしまうというのは画期的なことなのですが,容易なところと難しいところが混在しています。もちろん,どの楽器の曲でも曲の中に易しい箇所と難所とが混在するでしょうが,特にギターはそれが極端な気がします。

したがってこの楽器をスムーズに弾きこなすためには,困難な箇所をいかにスムーズにこなすかが要諦となると思います。総論述べていても何ですので,次回から具体的に見ていきたいと思います。
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アヨアン・イゴカー

『愛のロマンス』を取り上げてくださって有難うございます。
たしまみちを「クラシック・ギター」教則本の最後の方に出ていて、しかもこの教本の中で最も難しい曲であることにも気付かずに、練習し始めたりして、かなり恥ずかし気分でもあります。が、難しくても、あの美しい音を出してみたいという願望が、練習させてくれる動機にもなるので、ゆっくりと、気長に練習を続けて、いつか一音ずつ正確に音が出せるようになりたいと思っております。
後半のホ長調はまったく取り組めずに、前半のセーハ二つで、C5はなんとかなりそうな予感がありますが、特にC7では苦戦しています。後半はセーハが5つも出てきますので、先は恐ろしく長そうです。

解説記事、楽しみにしております。
by アヨアン・イゴカー (2017-05-15 23:09) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,私は独学で闇雲にこれを弾いてそれなりに弾けていたつもりですが,かなり反省点があります。
気持ち先行で弾くということもありだと思います。楽器を弾くモチベーションなどそれのみと言って良いでしょうから。ただ学生時代の様に無限に時間があるかの様な練習よりも,合理的な練習法でやった方が良いだろうな,という私自身の反省を込めて記事を書いています。その第一歩を書いて見ましたのでご覧ください。

by Enrique (2017-05-16 05:59) 

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