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音量の不安 [演奏技術]

自分の演奏の音量がしっかり出ているのかどうかは,基本的なことですが,案外自分では分からないものです。
大きくても通らない音,小さくても良く通る音と言うのがあります。もちろん,音が明瞭に聞こえるためには,バックグラウンドの静かさがまず重要です。音の大きさと言うのは至って相対的なものですから,静かな環境で,小さなきれいな音を出せば,聞き手が耳をそばだてますから,良く聞こえるということもあるでしょう。強調する音は大きく弾くと言うのが普通ですが,それ以外にも音質を変えるとか,わざと小さく美しい音で弾くなんていう高等テクニックもあるようです。

聞こえやすさは,音の高さにもよります。ギターの音は音程的にはチェロ並みに低いですから,他楽器と合わせた場合,聞こえにくいというのもあります。モダン・チェロでは,エンドピンを床に突き立てることで,楽器の安定と音量増加を成し遂げました。音の大小,高さだけでなくまた,聞こえてくる方向が違えば,他の音にかき消されずに,聞こえるということもあります。

いずれにせよ,クラシックギターは他の楽器一般に比べ,音が繊細です。プロの演奏でも,コンサートの始まりは音が小さく感じられます。静寂さ,聞き手の耳のそばだて,聞こえる方向,などなど。それに以前触れた遠達性という観点もあるのでした。単に音量と言っても,環境や演奏者と聞き手との相対的な要素などなかなか難しい要素も含むようです。ただ,あまりに絶対的音量以外の要素が強調されすぎても,分かりにくくなるので,独奏に限ってごく単純化した議論をします。


まず,「自分の出した音は,聴衆の立場では聞けない」という大前提があります。

音量が出ていないのではないか?という恐怖心で,強く弾こうとして手が縮こまり,更に音量が落ちたり,空振りミスが連発したり。こういうことも上がり・緊張の一つの原因となるというのは以前述べた通りです。

録音してみても,独奏では絶対的な音の基準がない限り分かりません。二重奏しても,相手の音ばかり聞こえてくるので,自分の音が小さいのかな?と思って,お互い負けじとがんばり合っていたりします。

ましてや,本番では環境が異なります。精神状態もさることながら,同じ会場でリハーサルしたって,本番で聴衆が入ると,ざわつきやひといきれ,物理的な響きも異なります(じっさい残響時間も変わります)。

では,どうしたらいいのでしょうか?

弦になるべく大きな変形を与える。これだけだと思います。近年の若手の演奏者の音量が総じて大きいのは,弦に大きな変形を与える技術が身についているからです。一旦音を出したら,あとどう聞こえるのかは神のみぞ知るところ。自分の出した音が,聴衆の立場としては聞けないというのは,どんな巨匠であっても同じことです。きっとこんな風に響いているはずだという,イメージをもつしかなさそうです。

それから,自分の録音を聞いてみる際も,イヤフォンやヘッドフォンで聴く方も多いと思います(私もそうです)が,スピーカーで鳴らしてみるというのも,実際の臨場感が伝わってくるので,イメージが湧きやすいように思います。プレイヤーへのモニター用なのか,サイドに穴の開いている楽器がありますが,具合はどうなのか,試したことが無いので分かりませんが,これに限らず,自信を持って安定した音量が出せると言う,楽器の要素も大事なことだろうと思います。
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glennmie

ギターのようにデリケートな楽器はいろいろなことに神経質になるのでしょうね。
普段自分が弾いている環境と異なる場での演奏となると、あれもこれも気になって心配ばかりしてしまいます。
きりがなくなりますよね。
最終的には自分が楽しく演奏できればそれでいいかなと思っています。
劣悪な環境でおんぼろの楽器で演奏された素晴らしいLiveを聴いたりすると、
考えさせられますね~^^
音楽はそんなヤワなもんじゃないんだぞ、とか。
by glennmie (2014-05-27 09:16) 

Hagi

自分の演奏が聴けないというのは本当に不安ですね。
(聞かぬが花、という話もありますが。笑)
特に「p」や「pp」の小さな音が恐怖で出せません。
音量の小さいギターでは、小さな音をどれだけ効果的に使えるかが
大切な要素だと思うのですが、気が小さくて・・・・。
「弦になるべく大きな変形」の話ですが、某レッスンを聴講していたとき、
某先生は、大きな音を出すときは(撥弦時に)いつも当たる弦の位置より、より遠くへ指を当てなさい。と言っていました。
そうすると、指(爪)の軌跡はより弧が大きくなって、弦の変形が大きく
なるのだろうと思いました。

※某先生のタッチは(主流だと思いますが)、横断歩道を斜めに横切る
感じです。大きな音は横断歩道から外れたところから斜めに渡りなさい。
って感じでしょうか。
by Hagi (2014-05-27 09:42) 

夢笛myu

ギターの弱音に関して、フォルテ(強)とピアノ(弱)の配置関係というか、フォルテがあってピアノがあるという相対関係、要はメリハリなのだと思っています。
例として、終止の手前ドミナント和音をフォルテで強く弾いて、その後に続く解決したトニック和音は極端に、それこそ聴こえない位に弱く弾く、というのは良く使う手です。仮に聴こえていなくても、頭の中で?トニックを聴いてしまいます。(と私は感じています)。
by 夢笛myu (2014-05-27 11:30) 

Enrique

glennmieさん,nice&コメント有難うございます。
音へのこだわり,楽器,演奏ホール,気にし出したらきりがないのですが,最も大事なことはひとつ。おっしゃる通りで,楽しめれば良いのでしょうね。苦悶の必死の形相では,聞いている人もたまりません。それでも続けるという,そういう要素も必要かもしれませんが。
ピアノの人は普段弾いている楽器と本番では楽器が変わるのは普通ですから,その点ギターは自分の楽器を持って行けるのはアリガタイことなのでしょうが,会場で響きが替わると楽器が変わったくらいのインパクトは十分ありますね。響きの違いは仕方が無いので,皮膚感覚というか,このくらいはじいていればそれなりの音が出ているんだと納得させるしかなさそうです。そして音楽の強さに助けてもらうしかなさそうです。
by Enrique (2014-05-27 19:06) 

Enrique

Hagiさん,コメント有難うございます。
音量への不安はHagiさんも感じておられるのですね。
めいっぱい最大音量出して,ホールに響き渡ったエコーを聞くのもカタルシスですが,ppでしーんとなる。これもえもいわれぬ,恐怖とエクスタシーの入り混じった感覚になります。そうそう経験は多くないですが。
全く平穏至極な状態では,張り詰めたppは出せないでしょうから,恐怖感と紙一重で良いのだろうと思います。恐怖の中にもそんな快感を求めているので,ヤめられないのだろうと思います。一種の中毒でしょうが,クスリや違法ドラッグは一切なしの健全合法なものです。異性の身体にみだりに触れますと刑務所行きですが,ダンスであれば合法的一切おとがめなしなのと似ていますでしょうか?
話が大幅にずれましたが,やはり大きな音を出すには弦の変形を大きくしないといけませんが,小さな音を出すにもしっかりしたタッチが必要だと思います。これはなかなかリクツでは難しいのですが,聞く方は小さい音には耳の感度を上げますので,音に対する要求が厳しくなるからかもしれません。
by Enrique (2014-05-27 19:09) 

Enrique

夢笛myuさん,コメント有難うございます。
ギターでは絶対的音量は少ないので,まずはしっかりとした音を出すというのが基本だろうと思います。
その上でメリハリ,おっしゃるように,ごく小さい音が出せれば,強音がさほどでなくても生きてきます。
そのためには,和声進行など音楽の骨格をわきまえることが重要なことなのですね。
by Enrique (2014-05-27 19:11) 

REIKO

特に意識せずに、一番普通かつ無理のない状態で弾いた時の音量を自分のデフォルト音量として、そこからどれだけ大きい方と小さい方に広げて、レンジを広く取れるかではないでしょうか。
大きい方も小さい方も、デフォルトより難しく神経を使うので、練習が要るということですね。
自然に脱力した上で腕の重みを利用して演奏するピアノでは、私のように小柄な女性だと、体格のいい男性の半分くらいしか腕の重さがありません。
片手四和音だとサッパリ楽器が鳴ってくれないです。
デカイ音を出そうと無理しても力が入るだけなので、自分に合った曲を選ぶようにしてました。
逆にガンガン弾くのは得意でも、弱音のデリケートな表現に向いてない人もいるのでしょうね。
プロはともかくアマチュアは、あんまり欲張り過ぎないのがコツではないかと思います。
by REIKO (2014-05-30 16:02) 

Enrique

REIKOさん,コメントありがとうございます。
>特に意識せずに、一番普通かつ無理のない状態で弾いた時の音量を自分のデフォルト音量
全くそのとおりだと思います。ただ,ギターの場合デフォルト音量が全く聞こえていないのではないかという恐怖にとらわれる事があります。デフォで聞こえてないのでは,fもpも無いのですね。
奏法の原理は違っても,脱力して力まないで発音するという点で,広い意味ではピアノと共通だと思いますが,ピアノの場合ppを弾くのは結構難しいと思うのですが,ギターの場合は,いくらでも小さい音は弾けてしまいます。しかしそれが,通る音かどうかはすごく難しいですね。ピアノでppを弾くのと同様,かなり溜め込んで弾かないとダメの様に思います。
まあ,アマチュアで欲張り過ぎても何なのですが,ギター界では,この10年くらいが新旧の奏法の端境期です。新奏法だとあまり力まずに音量出せるので,奏法を変えているところです。
by Enrique (2014-05-30 22:13) 

アヨアン・イゴカー

>劣悪な環境でおんぼろの楽器で演奏された素晴らしいLiveを聴いたりすると、
弘法は筆を選ばず
こんな風に弾けるといいと思いますが、なかなか難しいと感じます。
音量を一定に弾く技術(どの音もしっかりと聞き取れるように弾く)と言うのは、かなり難しい部類ではないかと思います。
by アヨアン・イゴカー (2014-05-31 20:40) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
まさしく「弘法の筆問題」ですが,上手い人はホールの状況で弾き方も変えるらしいですが,まあこちらは実験精神で臨むしか無さそうです。
by Enrique (2014-05-31 22:21) 

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