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息子に楽典を教える(6) [音楽理論]


高校生の息子に教え出した楽典のつづきで,6回目です。


音階の成り立ちと,和音(コード)について述べてきた。音符の読み方等は,本も紹介したので,個別な不明点は確認してほしい。コードについては大体主要なものは網羅したので,さらに特殊なものについては,出てきたところで個別に対応しても十分だと思う。後は実際の楽曲でどのように使われているか見ていくのが重要だと思う。コードのリクツは知らなくても演奏は出来るが,知っていると演奏が変わるし,あんまり得意じゃないけどコード進行を知っていると暗譜にも有利だ。ポピュラーじゃあんまり関係ないかな~。

それで,はたと気づいたのが,ナポリの六度という独特なコード(進行)について触れてなかったことだ。こんなコードだ。Amのキー(コード)の次にこんな和音が来る。例のインチキ式で書くと,この場合,

ナポリの六度 = D + F + B♭ = B♭/ D

このコードじたいは何も特別なものではない。マイナーコードから半音上昇したメジャーコード(の第一転回形)になるところが独特だ。だから,コードと言うよりも独特なコード進行とでもいうものだと思う。そのせいかポピュラーでは特別な呼び名は無いようだ。

これは古くから隠し味的に使われている。有名なのは,ベートーベンのピアノソナタ「月光」の第一楽章冒頭,第3小節目のコードだ。
Sonata_in_C-_minor_Opus_27_No_2-1.png

この曲のキーはC#mで,1小節目C#m,2小節目C#m/Bと来て,3小節目の1,2拍がAとして,3,4拍目がD/F#となって,次の段のG#7, C#/G#…につながる。このD/F#をC#mキーにおけるナポリの6度という。いきなりD/F#にするのでなくて,Aでつないでいる。

注意しなければならないのは,この6度という言い方は,コードのシックスとは全く考え方が違う。ここの6度というのは,第1転回形のことを言っている上に,おまけにナポリ楽派が好んで使ったからという不思議なネーミングだ。コードの響きじたいの不思議さもさることながら,ネーミングも不思議。ではナポリの6度は何のコードの第1転回形かというと,マイナーコードの半音高いメジャーコードの第1転回形という,実に紛らわしいネーミングだ。

しかし,瞑目する様な何とも言えない効果を上げているコード(進行)だといえる。ショパンでも使われているようだし,クラシックギターの名曲,タレガの「アラビア風奇想曲」にも使われている。

前半のDmのキーのテーマを繰り返すのだが,1回目と2回目とで持って行き方が異なる。
1回目は,
Capricho_Arabe1.png

全く普通のコード進行で|Dm-A-A7|Dm-A| Dmのテーマとなっているが,

2回目は,
Capricho_Arabe2.png

|Dm-Dm/B♭-E♭-A| Dm-Dm/B♭-E♭-A| Dmのテーマと,1小節目と2小節目の3拍目が,ナポリの6度となっていると見られる。典型例からしたら転回形で使うべきで,E♭/B♭とすべきところだが,楽器の奏法的特徴も考慮しないといけない。ナポリの2度という言い方もあが,そのネーミングだとここの部分は典型例になるかもしれない。

ナポリの六度というのは,クラシックでの呼び方で,ポピュラーのコードでは特別な名前は無いようだ。そもそも,この和音は,特定の和音を指すのではなくて,マイナーキーにおいてサブドミナントの代わりに半音高いメジャーコードが使われるところが特徴だ。

実際の曲ではいきなり面倒な話をした。これは忘れてもOK。
次回はもう少しやさしい話を(つづく)。
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コメント 6

cube

はじめまして。丁度このテーマのことで調べていました! 自分はまだまだ素人ですが、月光を解析し始めて3小節目で、?これはノンダイアトニックだなぁ、でもなんでこうなったのだろうと調べてました。ナポリのことは無知ですので調べたいと思います!
by cube (2014-04-22 09:17) 

Enrique

cubeさん,初めまして。
実は音階から発生するダイアトニックコードというものをやってから,「それにハマらない特殊な例があるよ」という持って行き方が正しかったのでしょうが,息子の反応があまり良くないので,そろそろ切り上げようと思っていて,「そういえば」と思いついたものを有名曲で指摘しました。
ナポリの6(あるいは2)というのはかなり古く,スカルラッティあたりから盛んに使われたせいで,ナポリ楽派の6(第一転回)というネーミングになったようですが,音の高さを言っていないその名前は非論理的なものだと思います。
クラシック曲をコードで完全に記述しきれるかどうかはちょっと疑問ですが,典型的には,マイナーの主調から半音上げのメジャー和音の第一転回形がそれにあたるのだそうです。
by Enrique (2014-04-22 12:05) 

cube

なるほどー、参考になります!
音楽は奥が深いですね。
ほかの記事もよませてもらいますー。
by cube (2014-04-22 17:51) 

Enrique

cubeさん,ありがとうごうございます。
ほかの記事でもご参考になれば幸いです。

by Enrique (2014-04-22 18:01) 

CUBE

すいません一つ単純なことを聞いてもいいでしょうか。 ピアノで右手でドミソの和音を弾いて左手の低音でソを弾くと違和感あるのですが気のせいでしょうか。変な質問ですみません笑
by CUBE (2014-04-25 02:29) 

Enrique

CUBEさん,コメントありがとうございます。
転回和音になりますので,少し不安定な感じがするのではないでしょうか?構成音が同じでも,ベース音が変わると響きは変わります。コードネームでは,CからC/Gに変わります。
実際の楽曲では転回和音はかなり使われていると思います。

by Enrique (2014-04-25 07:14) 

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