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あがりと緊張しにくい弾き方について [演奏技術]


前回,あがりに関して,お話とギター演奏を対比して議論しました。
最後に技術面の課題を挙げ,手に(体に)ムリが無い演奏法を身につけることは,不安要素の一つを取り除く事になると書きました。さらには,ムリ無く明瞭な発音がなされれば,他の要素にも好影響を及ぼすと考えられます。

あがり対策というと,メンタル面とみなされ,むろんその対策は必要と思いますが,むしろはっきりとコントロール出来るのは技術面だということをこの頃感じています。「あがらずに・あがらずに」と思っても,コントロールできる対象が明確でなければ対処しようがありません。練習の絶対量は必要でしょうが,好ましくない弾き方で闇雲に練習していても,効果が薄いばかりか有害かもしれません。

その点,緊張しにくいリラックスした演奏技術を身につけて,その奏法で練習を積み,本番などのプレッシャー下で悪くなっていないかをチェックできれば,前回挙げた不安要素の一つを明示的に取り除くことが可能と思います。かりにメンタル面がコントロールできなくて,あがってしまっても,弾き損じし難い奏法に戻すことができると思います。

以下の本はヴァイオリン演奏に関するもので,あまり参考にならないと思っていたのですが,個別の技術的側面で異なるところはあっても,本質的なところではかなり共通点は多いのだろうと思うに至り,読み返しているところです。

「あがり」を克服する―ヴァイオリンを楽に弾きこなすために

「あがり」を克服する―ヴァイオリンを楽に弾きこなすために

  • 作者: カトー ハヴァシュ
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2002/04/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

この本では,心理的側面と同様に,技術的側面を細かく指摘しているところが印象的です。もちろん技術の中身はそれぞれの楽器について検討すべきですが,私を含め実は多くの人はあがりやすい弾きかたをしているのだということは,ギターについても全く当てはまると思いました。最低限の力で,自然に,重力で弾けてしまうのが一番いいはずです。

ヴァイオリン演奏では,プロの伸びやかな演奏を聴くと全く感じられないことですが,実は「楽器を落としてしまうのではないか」という,構えること自体に相当ストレスがあるようです。この点は,ピアノだと全く存在せず(バレンボイムが子供のころヴァイオリンを先にやったが,直ぐに楽器を落とす心配のないピアノに転向したという挿話がありました),ギターでも構えが悪いと共通します。楽器により技術の細部は異なっても,様々な技術的不安要素が存在します。この本にはロマのヴァイオリニストの話が出てきますが,彼らにはそのような技術的不安が全く感じられないのはなぜか?という疑問があります。これを読んで直感するのは,ギターの分野でのフラメンコギターです。やっている人は少ないですが,アマチュアでも堂々と弾きます。楽器が多少低いアクションで弾きやすいということもありますが,クラシックギターそのものを使う奏者もいます。しかし,その演奏は伸びやかで堂々としています。私はそのキーワードは拍節の意識と脱力だと思います。

前回の「お話」の話に議論で言えば,言葉が詰まってもすぐバックアップが出来るとか,そのためにキーワードをイメージしておくとか,ワーキングメモリを多めにとっておくとか,あるいは全く意識が要らない状態にするとか,「慣れ」というのは,かなり細かな各分野でそのような作業が出来るようになった状態を言うのだと思います。

だれしもあがる分野・あがらない分野がある以上,あがり症を単に精神的な弱さとかいうネガティブな烙印を押しても問題解決にはなりません。漠然とした不安を抱えたまま根性で練習を繰り返しても,必ずしも不安要素をつぶすことにはなりません。慣れが必ずしも誇れるものではないように,あがりも決して恥ではないのです。「恥」だと思うとそれを隠そうという心理になり,対策を難しくしてしまいます。むしろ,不安要素を細かく明確にとり出して,はっきりと対策しておくことが必要だと思います。

演奏技術の細部(構え,右手のはじき方,左手の脱力など)を淡々と調整して,自分があがらない分野の状態に持っていければ良いのだと思います。
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Hagi

「脱力」は一番大事なんでしょうね。私は上手く出来ませんが。
「拍節の意識」は音楽に体を預けるというような意味で、不安による弾弦の躊躇を軽減してくれるように思います。スポーツでは体を静止させるのは良くないと言われているようですので、ガムを噛んでる野球選手やレシーブ待ちのテニス選手などは足を動かし続けています。拍の意識は脳とその神経網を動かし続けて、体をリラックスさせるかも?です。
また、右手のプランティングも効果があるように思います。
通常のプランティングだけでなく、休んでいる親指を低音弦に載せてなどすると、右手の位置を安定させられるので。右手全体が空中にあるよりはずっと安心できそうです。
細かい工夫はいろいろあると思いますが、練習の時にミスの確立を減らす工夫をして取り入れる心がけが必要なのでしょうね。
by Hagi (2014-02-20 14:10) 

Enrique

Hagiさん,コメントありがとうございます。
リラックス=脱力だと思います。
個別な詳細は人によって異なるのだろうと思いますが,おっしゃるようにプランティングは重要だと思います。親指を置くことも右手の安定のためには不可欠だと思います。
楽器の安定,左手・右手の脱力と安定ですが,特に私は右手の安定性が良くないので,修正中です。
それから,楽器を弾く時だけでなく,普段でも肩に力が入っているlことが時々あるので,気が付いたら抜く様にしています。
力を抜くことと生き生きとした動きとの矛盾は解決しないといけないとは思っています。
by Enrique (2014-02-20 19:25) 

glennmie

あがらない方法論があるならどんなことをしてでも手に入れたいですが、どうもなさそうなので諦めています。
究極は、どんなにあがっていても平時と同様にふるまえればよいと思うのですが、うまくいきません。
頭ではわかっていても、あがっている状態ではコントロール不可になってしまうからです。
だからステージの上ではいつもパニックです。
以前、プロの方のお話を伺ったとき、絶対に音をはずさない運指を見つけることだとおっしゃっていました。今回の内容と似ているかもしれません。
自分の場合は、それもなかなかうまくいきません。(涙)
客席がチラとでも目に入ってしまうと、思っていることと違う行動がでてきてしまいます。
競馬馬が使っている遮眼帯・・・これをつけてみたらどうだろうか、と考えているところです。
by glennmie (2014-02-23 00:39) 

Enrique

glennmieさん,nice&コメントありがとうございます。
あがりは現象としては初心者から一流プロまでありますが,細かな要因はそれぞれ異なるため,「これで大丈夫」という特定の方法は無い様です。長い複雑な動作を大勢の前でやるわけですから,緊張しない方が不思議なくらいです。特にきびしく完成度を求める人なら尚の事だろうと思います。
メンタルのコントロールは難しいですから,極力技術を容易にすれば,メンタル面にも好影響を及ぼすものと思います。しかし,出番前になりますと,どんな易しい曲でも弾けない様な気分になって来ます。限りなく不安になって来ます。
あがりやすさやその要因は,楽器によっても違うのだろうと思います。当然独奏は一番大変です。しかもギターやチェロは客席に真正面向きます。ずっと目をつむったまま通した事もあります。目をつむると曲に集中出来ますが,それでもあがり切っていました(目をつむらないと,もっとひどかったのかもしれませんが)。
ピアノは横向きだから割と大丈夫かと思っていましたが,上の娘が子供の頃,連弾で簡単な曲をやりましたが,終了間際手が痺れて動かなくなりました。あがる様な状況ではなかったにもかかわらず,緊張で肩が縮こまって,血管を圧迫したのでした。その後,加齢で手が痺れることがあり,その原因が筋肉の硬化であったこと,最近になって緊張で肩が縮こまることに気がついた事で,20年近く前の症状がようやく理解出来たような状況です。個別の症状と原因を一つづつつぶして行くしかなさそうです。
by Enrique (2014-02-23 19:08) 

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