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お話と演奏との比較において [演奏技術]


人前で弾くとあがって上手く弾けない。
この事は永遠の課題のように言われます。

多くは心理面の問題ととらえ,その分析や対策が行われますが,なかなか有効な処方箋や特効薬がありません。そういう場合は,対症療法ということになるのでしょうが,根治療法は無いものでしょうか?
妻と話をしていて,面白い事に気づきました。
演奏ではあがらないが,人前で話すのはあがると言います。それも,2,3人と話すときはゼンゼン大丈夫だが,数人以上の場で,面白いお話をしないとイケナイと思うとハゲしくあがるとのことです。彼女の新たな弱点を知りました(笑)。

逆に,一対一だとあがって上手く話せない人が,多人数の前だと平気とか,おしゃべりは苦手だが歌は良く歌えるとか,楽器を持ったら饒舌になる人とか,色んなタイプの人がいます。

お話の例一つとっても,あがりの発症状況は,かなり細かくシチュエーションごとに異なるということです。ですから,人前で話すのは全然平気だが,演奏はあがるというのは至極当然なことでしょうし,その逆もあり得ます。どちらもあがる,あるいはどちらもあがらないと言う人もいるかもしれません。

「話す」ことと「演奏」とでも全く症状が異なって当然でしょうし,単に人前であがる・あがらないというのは,行うパフォーマンス行為の種類,およびそれらのおかれた条件下により全く別モノだといえるでしょう。

しかし,お話においてあがる条件上がらない条件があるのと同様,演奏行為においてもその条件はあるはずです。私にとっては演奏に関しての,特に,あがらないの事例はそう多くないですから,まず,お話の方でシミュレーションしてみようと思います。別な行為とは言え,「あがり」にいたるプロセスには共通点があるかもしれませんので。


お話の場合,人によっても異なると思いますが,家族や良く知った人2,3人とならば,まずあがるという事は無いでしょう。しかし,ちょっとした集会などで,意見を求められた。あるいは手を挙げてしゃべる。ちょっとどぎまぎします。多数の前であっても,「原稿を読む」。これは,あまりあがりません(人によってはそれもダメと言う方もいるかもしれませんが)。会の種類,自分の立場,等々によって異なってくることでしょう。

へんな例えで悪いですが,自動車免許証の更新講習を先日受けてきましたが,あそこの教官,お話が大変上手です。教官は毎日全く知らない人たちを相手にする訳ですが,全くあがったそぶりはなく,上手に分かりやすくお話をします。

また,講演慣れした方々は,毎回違う様々な会場で,様々な聴衆を相手にしているはずですが,大概興味深くお話をされます。学校の先生,お坊さん,教会の司祭,等々皆さんお話のプロです。

いずれの方々についても言えることは,聴衆が毎日変わっても,場所が変わっても,話す内容はかなり同じだということです。免許更新の際の講習会の教官は,おそらく,毎日毎日,下手をすると午前と午後も同じようなお話をされているはずで,当然上手なはずです。それに,ちょっとぐらい言い間違ったって,クビになる心配もありません(実体知りませんが)。

悪い事例を考えてみます。
あまり得意でない結婚式のスピーチを頼まれた。なかなか話のネタが見つからないので,事前に考えておこうと思って,原稿を書いてみた。あまり面白い話ではないが,大体頭に入れた。しかし,忘れたり,つまったりするのが心配なので,原稿を持って出席した。当日,番が回って来て,やっぱりつまった,原稿を見ようと思ったら,ああ,メガネ忘れた,思いのほか暗くてよく見えない。冷や汗。まさに負のスパイラルです。

あがりまくっている人に対して,聴衆の方はどうかと言うと,無礼講ならば,「どうした!大丈夫だぞ!」くらい言えるかもしれませんが,そうでない席ならば,聴衆も緊張します。ぴりぴり緊張の場となります。聴衆との相互作用も大変大きなものです。冷や汗でも何とか終わったたら,それはそれでむしろスリルがあって面白かったという場合もあるかもしれません。

万事上手くスムーズに言っている場合は,何もあれこれ考える必要もないのですが,そうでない場合はあーでもないこーでもないと考えます。面接試験であったり,会社の上司との査定面談であったり,ストレスフルなお話のやりとりも多いことでしょう。その他,色んなシチュエーションがあることでしょう。

当然様々な要素がある訳ですが,未知の点が1つくらいあっても(全くすべて既知なことなど決してないわけですが),そのことはは過去の経験から十分対応できる,あるいはそのことに注力出来る,あるいはその方が面白い,くらいならば良いでしょう。逆に,未知な部分が多すぎるにも拘わらず失敗によって失うものが大きい(当然「恥」も含め)状態だと大いにあがるようです。

同時には注力しきれない未知の点が2つ以上,すなわち「これ」と特定できない漠然とした不安がある状態がダメなのだろうと思います。

お話における不安要素を書き出してみます。
・話のスジはしっかりしているか(上手く話がつながるだろうか)
・表情はいきいきしているだろうか
・声は聞き取りやすいだろうか
・話を理解してくれるだろうか
・時間とマッチするだろうか
・聴衆はどんな人たちか(年齢,性別,仕事,その他)
・口が回らなくなって恥をかかないだろうか

他にもあるかもしれませんし,もっと細かく分析できるかもしれません。これらが,クリアされていれば,きっとよいお話ができるものと思います。そして,一つくらい未知な要素があっても,他が良ければ大丈夫そうです。

ただ,これらは,完全に独立事象と言うわけでもなさそうです。話のスジがしっかりしていれば,当然理解されやすいでしょうし,時間や聴衆に合わせることも容易です。よく理解されれば,聴衆の納得感が伝わり,講演者の表情もいきいきしてくるかもしれません。そうなれば,恥をかかないかなんていうネガティブな気分も無くなるでしょう。



さて,ここで,「お話」の「演奏」との対比を行いたいと思います。
お話における不安要素に対応する,演奏上の不安要素を書いてみます。

・曲の構成をきっちり掴んで,よく暗譜しているか(どこからでも弾けるだろうか)
・表情はいきいきしているだろうか
・自分の出している音の響きのイメージがわかるか
・曲を理解してくれるだろうか
・時間とマッチするだろうか
・聴衆はどんな人たちか(年齢,性別,仕事,その他)
・手が動かなくなって弾けなくならないだろうか

演奏における不安要素は,お話の場合とも対応付くと思います。
時間に関しては,仲間内の発表会はいざ知らず,コンクールなどの場合,超過で失格と言うこともありますから,重要です。ミスったり記憶落ちで弾きなおすと危険です。なるべく未知の部分はつぶして,漠然とした不安を防がないといけません。

もちろん,つぶしきれないところがありますが,そこは,未知の状態を楽しむことも必要でしょう。自分の過去の例から言えば,一つ目,三つ目,七つ目が危なかったと思います。三つも不安要素を抱えるのでは危ないわけです。

一つ目の暗譜の甘さ。ふっと真っ白になるのが一番危険です。この件に関しては何度も書いてきましたが,私にとってずっと課題です。これはこれできちんと分析して対策すべきです。三つ目,これも大きいです。どのくらいの音で弾いたらいいかわからない。もちろんしっかりとした音で弾くのが基本ですが,特にマイクロホンなどを使うとこの不安は増幅されます。七つ目は,技術面です。演奏法は手に(体に)ムリが無いでしょうか?若いころは多少ムリも効くのでしょうが。

以上の議論で見てきたように,お話と演奏とでは,あがり具合としては別の結果になることもありますが,それに至る不安要因には結構共通点があるように思います。そして,要因に共通点があるにもかかわらず,結果が異なる事があるのは,それらの不安要因の解決のされ方が異なるからだと思います。

演奏に関しての重点ポイントは,最後に挙げた,緊張しにくいリラックスした演奏技術の取得だと考えています。
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アヨアン・イゴカー

>緊張しにくいリラックスした演奏技術の取得
暗闇で演奏できるようになれば、上がらないような気がします。そうすれば目を瞑って演奏すれば、上がる原因となる聴衆が見えませんから。如何でしょう?
尤も、私は楽譜を見ないで演奏することができないので駄目ですが。
by アヨアン・イゴカー (2014-02-17 01:15) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
「緊張しにくい演奏技術」に関しては,また書く予定です。
目をつむると演奏に集中できるのはあると思います。演奏に集中して聴衆を忘れてしまえば良いのかも知れませんが,見えないのはまたそれで漠とした不安がある様にも思います。人によっては効果的かも知れませんが,実は今のところ私にはあまり効果がありません。おそらく他の要素が改善されれば,効果が出て来るのかもしれませんが,ギターの場合指板を見ないと,はずしやすいという技術的不安もあるように思います。
by Enrique (2014-02-17 07:33) 

Hagi

本当に難しい課題ですね。そして面白いアプローチですね。
「あがり」で望んでいる演奏の3割ほどしか弾けないときは、情けなくなり落ち込みます。不安で手が震えてミスる。ミスって不安が増す負のスパイラル。自分は収まるのに数分かかります。(もう曲も終わりです:笑い)
ただ、よくよく反省してみると、自分が思っているほど自分はちゃんと準備していないことに気づきます。あくまで私の場合ですが。
普段の練習に比べて、椅子の高さも違う、おしゃれして服装も違う、顔つきだって男前だろう。きっとギターの位置や角度もズレてる。まして練習では弾くことに100%集中していたものが、半分以上の意識を聴衆に持っていかれてる。こんなに普段と違うのに練習どおりに弾けなかったと嘆くのは虫が良すぎると思うこの頃です。・・・消極的な考えかも知れませんが、プライベート・ベストな演奏をしようなどという妄想は捨てようと思います。(とても残念ですが) それに替えて、最低限キープしたい演奏レベルを設定しようと思っています。もし、そのレベルさえ自信がないなら、もっと易しい曲に変更しなくてはいけないのだと自分に言ってます。(真に納得していない自分もおりますが:笑い)

by Hagi (2014-02-17 23:18) 

Enrique

Hagiさん,コメントありがとうございます。
なかなか自分の事は分からないものです。なるべく自分を客観視し,「不安項目チェックリスト」を作り,それをチェックすればいいのでしょうが,現実には,「漠然とした不安」を感じ,それを打ち消すための「闇雲な練習」というパターンに陥ってしまっています。
>自分が思っているほど自分はちゃんと準備していない
私もその反省は共通です。その事前準備として,なるべくストレス下でも楽に弾ける弾き方を模索しているところです。どんな曲でもある程度難しいところはありますから,全く楽勝レベルとなると弾く曲が激減してしまいます。メンタル面のコントロールは難しいですから,むしろはっきりとコントロールできる技術面を押さえ,あがりにくい技術,あがっちゃっても弾ける技術の取得が肝要かなと思っています。
by Enrique (2014-02-18 12:44) 

Hagi

「あがりにくい技術,あがっちゃっても弾ける技術の取得が肝要・・・」
私もそのように思います。
それが不安を減らすことにもつながるでしょうし。
by Hagi (2014-02-18 13:34) 

Enrique

Hagiさん,再コメントありがとうございます。
この件に関しては,引き続き書きますので,またご覧下さい。
構え・弾き方のリラックス,脱力,重力の利用,リズム・音程の感じ取りなどがポイントかなと思っています。
by Enrique (2014-02-18 18:08) 

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