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ギターの記譜法について~二段譜はどうか~ [曲目]

ギターの楽譜は,一般的に,実音を1オクターブ上げて,ト音記号の一段譜で書かれます。ですから,例えば実音通りにかかれたヴァイオリンの譜面をそのまま弾くと,1オクターブ低く弾いていることになります。

音域的には低音高音に加線が増えますが何とか表されます。高音が続く場合は部分的にオクターブ下げて(実音通りに)記譜される事もあります。ギターでは和音を良く使いますし,2声3声を書き分けると,大分煩雑化します。多声部を弾くのはヴァイオリンならば無伴奏曲などの特殊な例でしょうが,ギターでは易しい曲でも独奏前提ですからそうなっています。おまけに,左右の指番号に弦番号などを書き込むと大変に煩雑なものになります。ギター譜にフレージング・スラーなどが書き込まれる例が殆どないのは,その辺にも原因があるのかも知れません。

二段で書く方が,音符の加線は少なくて読みやすく,声部の動きなどはずっと分りやすいと思います。実際,そのようにしている譜面もあります。以下はソルの幻想曲Op.7の例です。ソルは二段譜で実音で書きたかったようで,Op.7の初版はそのように書き,冒頭にその旨注意書きをしています。

sorf-op7-v1-avertissement.png


実際の楽譜はこのようになっています。
sorf-op7-v1-pg1.png


しかし,これ以降の版は不評で止めたようで,一段譜になっています。冒頭の高音はテナー記号(ハ音記号)で書いてあります(ど真ん中がド)ので,慣れが必要です。ト音記号のみに慣れているギター奏者にとっては,いきなり実音のハ音へ音記号含む二段譜では,確かに見にくいでしょう。おまけに,曲の調はギターでは滅多に出てこないハ短調。これは完全に鍵盤の楽譜です。しかし,逆に言えば,これを一段譜に詰め込んでいるのも無理がある訳ではありますが。

編曲ですが,エトベシュ編のバッハ/ゴールドベルク変奏曲は,かなりの変奏が通常のギター譜の二段で書かれています。ギターの音域に合わせるオクターブ移動はありますが,音の省略は殆ど無いですし,もともとの二段鍵盤の音の重なりをも再現していますので,二段譜で書かないとなかなか苦しいものがあります。ただし,譜面が読みやすいのと,ギターで弾きやすいかどうかとは全くのベツモノです。

第3変奏冒頭です。この辺は何とかいけるかと思いきや。。。
Var3冒頭.png


第12変奏末尾です。とてもたどり着けません。
Var12末尾.png


第30変奏末尾です。ここまでたどり着ける人は尊敬します。
Var30末尾.png


有名なところでは,アランフェスの第2楽章のカデンツァ部分です。
Cadenza.png
これなら,易しい2重奏を一人で弾くと思えばいいですね。

林光の「2つのギターのためのエチュード」は本来2重奏ですが,途中旋律が絡み合うところを何とかすれば独奏で結構いけます。
林光2G練習曲.png


独学時代,鍵盤譜をギター譜に書き出す事を時々しましたが,途中でメンドウになって来て投げ出す事も良くありました。ソルのOp.7初版のような実音の二段譜をそのまま弾けると,ずいぶんとレパートリーが増えるのだろうなとは思います。ただ,ギターでは移調しなければならない事も多いので,それも同時に出来ればなお良いです。しかし,二段譜が普及しないのは慣れの問題もありますが,鍵盤やハープとは異なりギターの普通の奏法では片手で音を作っているという技術面からも,一段譜のほうが見やすいのでしょうか。

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アヨアン・イゴカー

ギターでは低音弦の部分もト音記号で書かれるのですね。鍵盤楽器の観点から言えば、ヘ音記号で書かれた方が読みやすいような気がします。

by アヨアン・イゴカー (2012-08-18 23:22) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
>鍵盤楽器の観点から言えば、ヘ音記号で書かれた方が読みやすい
その通りだと思います。実際にベースなどはそれで書かれます。二段譜前提であればそれでいいのですが,弾きやすさからすれば,一段の方に軍配でしょうか。やはり技術面がついて回るのだと思います。一段が前提であれば,実音表記ならハ音記号,もしくは現在の記譜法のト音記号でオクターブ高く表記するのが妥当なんでしょう。
鍵盤ではヘ音記号の下の段はほぼ左手に対応しています。鍵盤でも三段で書かれるとメンドウですが,一段が足鍵盤に相当していれば大丈夫なのでは無いでしょうか?指揮者は何段も読むわけですが,自分で音を出しているわけではないですし。
by Enrique (2012-08-21 00:32) 

glennmie

ギターで弾かれるゴルトベルク、大好きです。
癒されるわ~、などと気楽に聴いていたのですが、実際は物凄いことだったのですね。
この譜面を見て唖然としました・・・
片手一本でこれだけの音をはじいていくわけですものね。
凄いです。
鍵盤楽器って、一番容易な楽器なんですね。
by glennmie (2012-08-23 01:57) 

Enrique

glennmieさん,nice&コメントありがとうございます。
ギターの音にも言及いただき光栄です。ギターの音は音量の絶対値も小さいのですが,実音が低いのもその理由の一つだと思います。耳に障らない音です。ギターの音は倍音が多いので記譜通りの音も出ています。ゴルトベルクをギター独奏で弾こうと思い立ったエトヴェシュさん,グールドの演奏(2回目の)がそのきっかけだったと言っています。
ラクーに弾ければ良いのですが,演奏そのものかなりたいへんです。二段で表される譜面を実質右指四本ではじいています。綱渡り的にアーティキュレーションで処理されているところもあります。
by Enrique (2012-08-23 12:48) 

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