SSブログ

虫の発音機構について [雑感]

秋のムシは羽根を擦り合わせて(結果として振動させて:自励振動)音を出していると言われます。原理はヴァイオリンと同じなのでまあ納得ができます。

大きな音を出す代表的な虫はセミです。ファーブルは彼の昆虫記でクリッケとかいう当時パリで流行ったギーコギーコと鳴るオモチャと同じ仕掛けだと書きました。他の方は鼓膜を専用の筋肉で振動させると言います。もちろん音を大きくするのは弦楽器と同様,腹部の空洞共鳴を使っています。結果論的には同じ事を言っているのでしょうが,問題はその速度です。

一昨年考察したミンミンゼミでも,「ミーンミンミンミン」の「ミ」はミでなくて高いソくらいで800Hzくらいでした。これは1秒間に振動板を800回行き来させる事になります。

飛ぶ蚊の羽音は,あのいやーな1kHzくらいですから,昆虫でこの位の振動までは出せる様です。しかし,セミが飛ぶ蚊と同程度の筋肉の伸縮が出来るとはとても思えません。実際の羽音はアブやハチになるとブーンと大分低くなりますし,ハチよりもさらに大きなセミは羽ばたき自体は音にならないくらいの低さ(たぶん数10Hz以下)ですから,セミの筋肉(と神経系)が直接鳴き声の800Hzを駆動出来るとはとても思えません。

私たちヒトでも指をいくら速く動かしてもその振動は数Hz程度のものです。しかし声帯でやはり数100Hz程度の声を発することが出来るのも,筋肉が直接振動板を動かしているのではなくて,声帯や口腔鼻腔頭蓋などで構成されるいわば「生体の楽器」を演奏していることにほかなりません。実際の楽器のラッパを吹くにしても,唇の振動を直接コントロールしているわけではなくて,口の閉じ方や息の吹き込み方の結果として生じる唇の振動やさらにその結果として生じる音を聞きながら,入力パラメータを調節しているはずです。

神経バルスの伝達は導線中の電気信号とは異なり,電気化学的なのですこぶる遅いようです。この辺は我々も昆虫も大差無いようです。やはり筋肉と振動部分で構成される振動系の自励振動などを利用して,ゆっくりとした指令で物理的な細かい振動をマクロにコントロールしているようです。人の声などよりも遥かに単純な専用発音装置のようです。ファーブルがギーコギーコと鳴るオモチャに例えたのは流石なのだと思います。
nice!(4)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

nice! 4

コメント 2

アヨアン・イゴカー

スズメバチが威嚇のために顎を鳴らしたりしますが、如何にも恐ろしげです。コメツキムシの仲間は、パチッと言って背中を曲げます。こういう虫の出す音にもちゃんとした仕組みがありそうですね。その音を出す仕組みが、人間の音楽にヒントを与えてくれることもありそうな気がします。
by アヨアン・イゴカー (2012-08-18 23:10) 

Enrique

アヨアン・イゴカーさん,nice&コメントありがとうございます。
虫は単純ながら様々な音を出す種類がいます。コミュニケーション手段としても音はかなり重要な媒体だと言う事がわかります。単なる鳴き声とも音楽ともつかない音を発する,その目的にもその手段にも興味はつきません。音楽に使われる音も元は自然の音ですから,大いにヒントはありそうです。
ハードウェア面ですが,ヴァイオリンの銘器のニスに昆虫などの体に含まれるキチン質が含まれていたという話題が昔ありました。振動工学的にはニスの役割はほぼ無し,表面保護の役割のみですが,響きに悪かろうわけは無いと,ロマンは広がりますね。
by Enrique (2012-08-21 00:13) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。