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Sor Op.35のつづき(1) [演奏]

フェルナンド・ソル(1778-1839)のOp.35のエチュード(エグゼルシス)について引き続き書きます。
さきの記事でOp.35の1~5までをミーントーンの仮フレットをつけた楽器で弾いてみました。第9番も弾いてみました

仮フレットではありますが,ミーントーン・フレットを1弦19フレットまで追加したので,楽器の制約は無くなりました。
といって全曲弾いてみるというのも大変ですので,ぼちぼち弾いて,眺めてみて気がついたところを,指摘してみたいと思います。以前弾いたものでも,あらためて弾くと大変ですね。

まず,全体の調性を見てみましょう。
第1番 ハ長調
第2番 ハ長調
第3番 イ短調 *
第4番 ト長調 *
第5番 ト長調
第6番 二長調
第7番 ホ短調
第8番 ホ長調 *
第9番 イ長調 *
第10番 ヘ長調 *
第11番 ニ短調 *
第12番 ヘ長調 *
第13番 ハ長調 ****
第14番 イ短調 **
第15番 イ長調 *
第16番 ニ短調 ****
第17番 二長調 ***
第18番 ホ短調 *
第19番 ハ長調 **
第20番 イ長調 *
第21番 イ長調 **
第22番 ロ短調(月光)***
第23番 ホ長調 *
第24番 ホ短調

集計すると,
ヘ長調:2
ニ短調:2
ハ長調:4
イ短調:2
ト長調:2
ホ短調:3
二長調:2
ロ短調:1
イ長調:4
ホ長調:2

鍵盤で言ったら白鍵系の調が多いですが,これは独奏ギターの機能上当然でしょうか。またミーントーンの使用前提としてもムリの無いものでしょう。なお,アスタリスクは,セゴビア,イエペス,カルバレーロ,西野,阿部の各版に取り上げられた回数を示しています。初級の西野以外は,ほぼ後半からピックアップされているようです。前半から拾っているのは,初級向けの西野版のみで。他の版では後半を重点的に拾っています。なお,第12番までが上巻,それ以降が下巻として出版されたようです。

良く取り上げられる曲とそうでない曲にムラがあるようです。第13番ハ長調,第16番ニ短調などは最もポピュラーで,次いで,第17番ニ長調,第22番ロ短調(月光)などが有名なところです。いずれもセゴビア編にも取り上げられており,ああアレかと目に(耳に)浮かぶ人も多いと思います。
第13番をミーントーンフレットで弾いてみました。
ぴったりはまる曲です。

現在メカニック重視の観点からはソルの練習曲は余り役立たないとさえ言われますが,どんなやさしい曲でも,単なる技術練習に陥らない,ソルらしい美意識に貫かれた曲集だと思います。

調性に関しては,第12番までは長調がずっと多く,第13番以降の後半は長調と短調がおよそ半々です。曲の配列は当然学習者の上達に配慮したものになっていますが,同時に,この練習曲集を一つの作品とみなした際,終了間際の第22番に,ロ短調を持ってきています。この曲は,現在「月光」の愛称で広く親しまれています。曲集を「起承転結」でとらえた場合の「転」のあたりにこれを持ってきています。やはりこれををミーントーンフレットで弾いてみました。

もともとミーントーンでは,短調は苦手です。短三度の純正はありませんが,違和感ないどころか,全く自然です。エチュード集の終りの方に,ちょっとこういう変わった響きもありますよ。という感じで配置しています。ミーントーンですと,「月光」というよりも「涙」っぽい感じがします。先日の平均律の演奏と比較してみてください。

ちょっと曲を分析してみるといいのでしょうが,そこまで手が回りません。

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夢笛myu

聞かせていただきました。
35-13ハ長調は特に美しいですね。ミーントーンチェンバロを聴いた時に感じる「ジーン」という感じの快い刺激を伴った響きがします。
それだけに、現代的なギターの音色が多少合わない気もします。
(「慣れ」の問題かもしれませんが・・・)
やはりこの和音の響きは、19世紀ギターやリュートのようなガット弦の音色がふさわしいのでは、と思ってしまいます。
とりあえずは、1~3弦のみアクィーラ社のナイルガット弦に替えてみるののひとつの方法かも知れません。ちなみに私のギターはモダン楽器ですが、ここ数年はずっとこの弦を張っています(高価なのに音程はずれが多いのが欠点)
by 夢笛myu (2011-02-28 12:45) 

koten

第13番ハ長調は、一説では「古典派鍵盤曲のソナチネを意識して作られた曲」とも言われているみたいですね。楽譜面は本当に「そのもの」ですものね(アルベルティバス+メロディー)。
ちなみに私、この曲がミーントーン・ギターで弾ける(&ぴったりハマル)ことは数年前から「告知」していましたよ(笑)。下記投稿は練習曲「Op60」の13番ですが、撮影で撮った楽譜は所謂「セゴビアの2番」なんです。
http://www.youmusic.jp/modules/x_movie/x_movie_view.php?lid=2539
楽譜中の「ESTUDIO2」の右上に赤字で「ミーントーン可」みたいに書いてあるの読めますでしょうか。

演奏の響きにつき、私の感想としては、モダンギターでも十分合致していると感じますね。ガット弦にするとより良いのかもしれませんが、それよりも、「よりローテンション」の弦にした方が「古楽っぽい」感じが出るのではないか、とも思われますね。

あと、ミーントーンで「短調は苦手」とありますが、単に「短三度が純正ではない(約5.5セントずれている)」というだけで、「苦手」ってことはないのではないかと思います。だって平均律の短三度なんて、(5.5セントどころか)純正から「16セント」もずれているんですよ。長3度のずれ(14セント)よりも更に2セントも悪化するんです平均律だと。1/6分割法(ヴァロッティやヤング)の「長」三度は6セントのずれですが、ミーントーンの「短」三度はそれよりも純正に近いずれなのです。

近況ですが、製作家の大西達朗さんがHPを改訂中で、いよいよ本格的に古典音律フレットをHP中に載せる(&私のブログをリンク集に加えていただける)ことになる予定です。いよいよ盛り上がってきましたね。

by koten (2011-02-28 15:48) 

Enrique

夢笛myuさん,コメントありがとうございます。
「ジーン」という感じ,そうですね,弾いていてそんな感じがしました。
少し鳴りの鈍い楽器だったのが,響きが乾燥して音色も少し変わって聞こえます。現代楽器のお値段の差とは次元が異なるようです。
確かに現代楽器は平均律で如何に響かすかがポリシーであり,ミーントーンでは響きすぎて異様かもしれません。とりあえずは音程の正確さを目標にしていますが,少し余裕が出てきたら,おすすめの弦も検討してみます。
by Enrique (2011-02-28 19:06) 

Enrique

kotenさん,こちらにもnice&コメントありがとうございます。
Op35-13は後半冒頭を飾るハ長調曲で,ミーントーン最適曲というはまあ再確認ということで。。。3フレットまでの曲議論の時も話題になりましたね。
平均律フレットで弾いても,心ある人は,押弦をブリッジ側に引っ張って伴奏のミを下げることはしますね。しかしフレットが正しいと全く小細工なしで弾くことが出来ます。
Op35-13はハ長調ソナチネの一楽章の簡略版の雰囲気です。鍵盤のドソミソドソミソよりも,この練習曲のドソミソミソミソはギターらしい軽快感が出ますね。ずいぶん昔から弾いている(汗)のですが,今回はゆっくり目に弾いたのと,通常普通スラーを入れる事が多い半音階の経過句をフツーに弾いてみました。
響きに関しては,ピリオド楽器が歴史考証面では正しいのでしょうが,「ピリオド楽器で平均律使うよりモダン楽器で古典音律」を念頭に置いていますね。ソルの曲はギターという楽器よりも,鍵盤や弦楽四重奏を念頭に置いているので,存外音が伸びた方がソルの理想に近かったりして。。。などと勝手に妄想しています。ギターの曲ですが,ギターで弾かずともソルの曲はヨイのです。「ソルは19世紀ギターで弾くに限る」とか言われますが,ヤハリ楽器そのものよりも音律でしょう。
「短調苦手」は必要以上にネガティブな記述だったかも知れませんね(反省)。ハ長調が余りにもハマりなので,その光と影のような積りです。それと最初かなり響きが違うので,違和感がありましたが,慣れなのかチューニングの安定なのか,全く自然に聞こえてきましたね。
by Enrique (2011-02-28 19:51) 

REIKO

13番は、ほんと古典派のピアノのソナチネみたいな曲なんですね!
ギターでドソミソとは!
これは平均律では音痴になるんですよね・・・(笑)
ソルの「月光」は、初めて知りました。
ミーントーンの短調は、(平均律と比べて)「長調との違い」がやや少ないというだけで、十分美しいと思います。
元々短三度は、純正かどうか耳に分かりにくいので、あまり問題にならないかと。
キルンベルガー音律の、ピタゴラス領域の短三度なんて、純正より22セント!も狭いですが、別に平気なので。
慣れると、この「狭さ」がタマらん!になりますです。(笑)

by REIKO (2011-03-01 01:01) 

Enrique

REIKOさん,こちらにもコメントありがとうございます。
耳の慣れはすごくありますね。
長調がぴったりはまるせいもあり,それとの相違感,というよりも多分平均律の短調との違和感で,最初変で仕方なかったですが,こっちのほうが自然になってきました。まったく日常的な領域ですね。

余談ですが,ギターはピアノよりもずっと弦が柔らかいので,インハーモニシティ(自然倍音の整数比とのずれ)が小さく,純正に鳴りやすい楽器です。この面からも「表情のあるクラヴサン」です。良い表情を付けるのがムズカシイですが。
by Enrique (2011-03-01 10:08) 

koten

Enriqueさん、今日のmixiの「マイミク限定日記」で面白い記事を載せておきましたので、宜しかったら(というか是非(笑))読みに来てください。宜しくお願いいたします。m(_ _)m
by koten (2011-03-02 21:37) 

Enrique

kotenさん,情報どうもありがとうございます。
滅多に見に行かないもので(汗)。コメント入れました。
by Enrique (2011-03-03 13:33) 

MY

Enrique様、

こちらの音源もご紹介くださり、
ありがとうございました。

練習曲35番、その13も22(月光)も名曲名演!!、
ほんとうにどちらもよかったです。

「月光」については三ギター弾き比べ録音よりも
こちらの方が何か少しフワフワしたやわらかい感じがしました。
(実際どれを聴いても名調子です)

それでミーントーンの調性とかが何度読んでも分からず、
頭が混乱しています。ひとつずつ勉強します。

それにしてもソルという作曲者は凄いですね。
こんなにも綺麗なメロディを、それも練習曲として
たくさん作っていることなど、知らなかったです。

この音源もお気に入り登録してすぐに聴けるようにしてます。
今回もありがとうございました。

by MY (2011-06-02 23:09) 

Enrique

MYさん,こちらにもコメント,ありがとうございます。

>フワフワしたやわらかい感じ
なるほど,そんな感じですね。

音律に関してはいろいろ理屈は言えるのですが,やはり実際聞いた感じが重要だと思います。

現在は1オクターブを12の半音に均等に割り振った「平均律」で演奏されることがほとんどです。しかしこの音律はすべての調が均等に扱える反面,どの調も純には響いてはいません。ミーントーンは使えない調もある反面長3度が純に響くのが特徴です。バロックや古典の時代は,平均律ではない音律で演奏されていました。ソルもおそらくミーントーンかそれを少し変形した音律を用いていました。楽器自体は現代のものを使っているので,違和感感じる人もいるかもしれませんが,ソルのイメージにより近い響きのはずです。

ソルは全くの初心者向けから上級者用まで,練習曲を120曲ほど作っています。それぞれのレベルで音楽的にも優れていると思います。音楽的な練習曲としてはショパンのものが有名ですが,楽器こそ違えソルは32歳年長でこれをやりました。史上最高のギタリスト作曲家と考えられます。練習曲集のほか,独創的なメヌエット集,変奏曲,2曲の大ソナタ等が名曲です。
by Enrique (2011-06-03 17:18) 

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