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音律を考える(7)(各種音律と5度圏) [音律]

ピタゴラス律,ミーントーン,純正律と見てきました。実際的には今まで触れてきた各種古典音律の長所を生かしつつうまく短所を隠すという,各種ウェルテンペラメントが一番重要でしょう。しかしそこに至るには,その基礎が重要と考えたわけです。

理屈だけでは音楽は出来ないよ!という声も聞こえてきそうです。もちろんそうです。理屈と実践が両輪にならないといけません。理屈だけの音楽はありえません。しかし,今まで見てきたように音律の理屈は難しくありません(難しそうに見えちゃったかもしれませんが)。他の「音楽理論」の方がずっと難しいと思います。純正律を音楽理論的に説明されてもさっぱり分かりませんが,音律面では単純な数比のみです。純正律で実際の楽曲がどう響くのか?は今後の重要検討課題で,まずはアタマの中だけ考えているということを断っておきます(「先ずは実践あるのみ」というkotenさんから叱られているところですが)。特に純正律に対する批判には,この辺(の理屈だけだ!)が強いように見えます。確かに具体的にどう使うのか,実際面が重要なところだと思われます。

前置きが長くなってしまいました。


そのウェルテンペラメント音律ですが,実にこれがクサルほど種類があるのですね。kotenさんの記事に出てくるだけでも,ヴェルクマイスター,キルンベルガー,ケルナー,ジルバーマン,ヴァロッティ,ヤング,まだあったかもしれません。世の中には音律が無数のようにあるのですね。おまけに,それらにも更に第I,II,III何法とかついていたりします。しかも,それらが,小変更でなくて,かなり違っていたりするようです。最近でさえも,「バッハが使った音律を解明した!」とバッハ-レーマン音律なるものが注目されてもいます。イキナリこの密林に迷い込むと,難しそうで大変ですが,そのような音律の密林で迷わないためのコンパスに相当する便利なツールは,やはり5度圏でしょうか。

音律の議論に5度圏を使う際の注意点をまとめておきます。なお,これに関する最も簡潔な説明が,REIKOさんのブログ記事にあります。クープランの「神秘の防壁」を全音系をミーントーンに,半音系を主にピタゴラス的かつ♭系を広くしてサワリを楽しんでおられます。DTM演奏が聞けます[1][2]

・ピタゴラス・コンマ(p.c.)約24セントとシントニック・コンマ(s.c.)約22セントの理解[3],[4]
・5度間隔を調整してトータル(一周)でp.c.分狭くなるようにする(ピタゴラス律はこれを一箇所,平均律は12箇所均等)
・長3度間隔(5度回し4回でs.c.分狭い)がなるべく純正になるよう調整する(これを全部純正にしたミーントーンはウルフ5度間隔が発生する)
・ピタゴラス,ミーントーン,および純正律ではエンハーモニック音が異名異音になるが,ウェルテンペラメント系では異名同音(Enharmonic Equivalent)とする(オクターブに12の音前提で5度圏を閉じるため)

等を押えておけば,音律専科のkotenさんの記事も軽快に楽しむことが出来ると思います。

以下に各種音律の5度圏を並べてみます。なお,音律を考える際は各5度間隔が純正ならば,○とかpとか書きこむようですが,メンドウなので,純正間隔には何も書かないことにします。ウルフには波線を入れます。
まず何といっても最初はピタゴラス律です。
ピタゴラス5度圏.png

純正5度を重ねて行ってオクターブを上がりすぎてしまう音程がピタゴラスコンマp.c.(約24セント)でした。これをG#-E♭間に押し込んでいます。波線はウルフを示します。

次は,kotenさんはじめ熱狂的なファンがいるミーントーンです。ピタゴラス律と並んで,古典音律の代表的なものです。
ミーントーンEs5度圏.png
これは,長3度純正が旗印です。そのために5度をs.c.基準で狭めます。その代償として広過ぎて使えない5度(ウルフ)を発生します。図のものはEs型と呼ばれるものですが,ウルフの位置は必要に応じてずらすようです。しかし,この約+41セントのウルフすら使い様によっては面白く,平均律が広まるまでの永い期間の鍵盤楽曲を豊かにしてきた側面があるようです。

次は5度も長3度も純正にとる純正律です。前回取り上げた15音のオイラー純正律から,12音を拾い上げたのが以下のものです。拾い上げ方には3通りほどあるようですが,これはその一例です。
純正律5度圏12のコピー.png

エンハーモニック音を3つ落して12音便宜的にとり出しますので,ウルフが3か所に生じています。しかし,15音そのまま使えば全ての5度間隔が純正になるのでしたね。この例では,Dを高い方,F#を低い方(高い方はG♭ですね),B♭を高い方を拾っています。そのように音を拾った結果が,「重要な5度間隔にウルフを持つ使いにくい音律」という評価になるようです。しかし,これは鍵盤用の音律として12音拾った場合の話であって,純正律そのものの特性で無いことは前回見た通りです。

以下はウェルテンペラメント系です。大雑把な解釈では,ピタゴラスとミーントーンの折衷案と見ます。まず,キルンベルガーIIIです。これは白鍵系の5度を-s.c./4で縮めていますので,この音律はミーントーン系なのですね。第I法は純正律系と聞きます。
キルンベルガーIII5度圏.png
続いて,12平均律とヴァロッティ律を示します。12平均律とヴァロッティ律を比較しますと,前者はp.c.を全ての5度間隔にばら撒いたもの,後者は主に白鍵系の5度間隔を短くして黒鍵系は純正5度のままという感じです。その効用はさておき,前者を等分律,後者を不等分律と言うようです。
12平均律5度圏.pngヴァロッティ5度圏.png
次は,ヤングIIです。
ヤングII5度圏.png
これは上であげた不等分律,ヴァロッティを5度回しただけですね。どちらが先かは知りませんが。
次は,ヴェルクマイスターIIIです。
ヴェルクマイスターIII5度圏.png
良く名前聞きますし,「ヴェルクマイスターやキルンベルガー」とひとからげに言われることもあるので,大差ないくらいに思っていましたが,用いるコンマがp.c.なので,特に純正長3度をねらうのではなく,発想が違うのですね*。p.c.を分割してどこにどう配置するかという不等分律の一種ですね。昔は,バッハの「平均律」はこれだったのではないかとのことでしたが,割と最近話題になったのが,バッハのそのクラビール曲集表紙の唐草風のウズマキから解読されたという,バッハ-レーマン音律なるものは,以下のようなものなのだそうです。
バッハレーマン5度圏.png
ヴェルクマイスターIIIよりもさらに平均律に近いですね。(つづく)


*使うコンマがs.c.かp.c.かは両者わずか2セントの差で,分割したら大差ないのではないかと思っていましたが,前者は純正長三度を重視(ミーントーン的),後者は全体を-p.c.に収めることを重視(ピタゴラス,もしくは平均律的)するということですね。
後注:REIKOさんのコメントにあるように,ここで取り上げたヴェルクマイスターIIIは第3技法のことで,よく使われる方(通称III)は第1技法・第3番の事だそうです。よく使われる方は,キルンベルガーIIIのs.c.がp.c.と置き換わったもので,スキスマ分だけの違いになり,音律データ的には酷似します。

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REIKO

拙記事への言及、ありがとうございます。

>クサルほど種類があるのですね
そ~なんですよ、アロンのミーントーンと12平均律の「間」にある音律は、もう数限りない人達が数限りなく考案しています。
コレクション(笑)してたら、もうキリがなくなって、ノートが一冊埋まってしまいました。

ところで、現在「ヴェルクマイスターIII」という「通称」で呼ばれているのは、「ヴェルクマイスター第一技法・第三番」のことで、これとは別に「第三技法」という音律があるのです。
記事中の「III」の図は「第三技法」の方で、これは現在ほとんど使われていません。
「第一技法・第三番」はC-G-D-AとB-F#の4つの五度が-p.c./4となっています。
ピタゴラスコンマを4分割して、それをよく使われる(調号が少ない)調の長三度ができるだけきれいになるように配置したものです。
一方キルンベルガーIIIは、4分割したシントニック・コンマをCからEまでの間に収め、残りをスキスマとしたわけですね。
ヴェルク~は長三度の純正を放棄してますが、キルンベルガーの方はミーントーンの名残である純正長三度を、C-Eに残しています。(最後の砦?)
by REIKO (2011-01-30 15:10) 

koten

(横レスです(汗))

>記事中の「III」の図は「第三技法」の方で、
・・・あ、REIKOさんに先を越された、く、くやしぃ~(爆)。
 第1技法第3番で無いことは一目で分かった&「多分第3技法についての図だろうな」と思ったのですが、オイラー純正律の記事へのコメント作成にすっごい時間が掛かってしまい(笑)、第3技法の数値データを確認している暇&心の余裕がなかったですね(汗)。

 しかし良いですね、盛り上がってますね音律の話題。この最近の盛り上がり、mixiでもマイミクの方から賛辞が来ていて、私自身何か「第3の?青春」真っ直中の「熱血クラブ活動(笑)」をやっているような、そんな気分の今日この頃です。
by koten (2011-01-30 20:13) 

Enrique

REIKOさん,コメントありがとうございます。
マニアの方々のチェックにあってはひとたまりもないですね(笑)。クサルほどあるウェルテンペラメント音律に関しては,文献を所持しない私にとって最も苦手分野です。そうしますと,ヴェルクIIIに関しては,考え方的には純正3度を放棄していますが,データ的にはキルンIIIとすごく近いと見ていいのですね。何となく感じていたほうが正しかった(笑)ということですね。
by Enrique (2011-01-30 22:01) 

Enrique

kotenさん,コメントありがとうございます。
実のところ,私も純正律の記事が最も気合が入っていて,ウェルテンペラメント系は流していましたね(笑)。妻の書棚にあったチェンバロ調律の冊子からの受け売りでした。音律に関する情報はいくつかチェックしないとアブナイですね。
ヴェルクIIIは次の記事でも同じデータを使ってしまったので,修正が必要かもしれませんね。但し書きをしておこうかしら(アマリ使われていない第三技法のほうですと)。

by Enrique (2011-01-30 22:10) 

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