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音律を考える(8)(まとめにかえて) [音律]

音律って難しそうでしたが,基本を押えて5度圏を使えば,既存の音律を使ったり,自分のオリジナルな音律を作る事も割と簡単にできることがわかりました。純正律ももちろん5度圏で表せますが,ちょっと異質な感じでした。

音律は音楽をやるための道具ですから,実際に音を出さないと意味がありません。DTMだと,作った音律を試すことも割と楽に出来るようです。電子楽器でもプリセットされている音律を試すのはもちろんのこと,自分でセットできるものもあるようです。問題は生楽器です。これからの研究課題です。

さて,音律に関して色々書きたいこともありますが,きりがなさそうです。よく言えば奥が深いのですが,悪く言えば何でしょうか?原理は単純でも,それが音楽芸術論や考古学的に検討されると,大変むずかしそうなものになってしまいます。もっと大きな点は営業活動とのかかわりでしょうか。その点営業無関係のしろうとは気楽です。

純正律のところでみた様に,ギターは有フレット楽器ですが,やろうと思えばオクターブに15のフレットを置くことも可能ですが,鍵盤楽器では分割鍵盤でもつけないと出来ませんので,各種ウェルテンペラメントの需要は主に鍵盤楽器であったのでしょう。しかし,楽器製造者と調律者や理論家が分業していた鍵盤楽器と違って,今でもそうですがギターは職人が一人で作っています。オクターブに12フレットより多くつけたという話はあまり聞きませんし,平均律を勘で刻んでいて,むしろ少しずれてそちらの方が和音が良く響いて良かった,なんて話も聞きました。

バロックギターやリュートでは,巻きフレットが使われました。ずらしたり,斜めにすることで,ある程度は音律調整も出来たのですが,曲げることはできません。フレット楽器の世界では比較的早く平均律が広がったというのはその辺の事情でしょう。しかもそれは,ギターではメタルフレットの出現で決定的になってしまったのでしょう。ぎざぎざうねうねのメタルフレットを埋めることは,のこぎりでは出来ません。現在kotenさんらの活動でうねうねフレットギターが試作されています。ルーターという電動工具が使えるようになったのが大きいですね。ギター向きのウェルテンペラメント音律を用い,うまく加工出来れば,平均律(均等律)よりいいに決まっています。

今回一連の記事を書いてみて,特に純正律に興味を持ちました。鍵盤に12鍵以上をつけることは大変でも,ギターなら出来ます。細かいフレットがオクターブに3箇所づつ出てしましいますが。平均律フレットでも多少のイントネーションが効きますが,この押えで和音の調整というのもこれは純正な響きにどう近づけるかということだと思います。

最後は審美眼の問題です。理屈でいくらいいと思っても,やってみないとわかりません。しかし,基本原理は原理としてあります。人間の耳は精密なところといい加減なところが混在するもののようですから,それのみに頼っても,どこへ行くかわかりません。特に私のように耳が鋭くない人間には。

例えは色々あると思います。語学で言ったら,ネイティブスピーカーと2次的学習者との違いでしょうか。生まれつき習得した人には,文法事項なんて邪魔なだけです。しかし,後天的に語学学習した人間には,文法こそがコンパスです。

別の例えで言えば音のパレットと例えられるかも知れません。一つの音にどのくらいの色合いの差があるのでしょうか?
最後に,今まで見てきた各種音律のF#音(Fis)を,C=1として比較してみます。5度圏ではCから一番遠い音ですが,#系では必須の音ですね。
F#音.png
注)ここのヴェルクマイスターIIIは前記事でも記したとおり,第3技法のことで,よく使われる通称のIIIとは異なります。

一つの音を代表的な音律だけでとらえても,このくらいのヴァリエーションがあるということですね。一つの見方として,この音の高さが600セントに近いほど,平均律に近い音律のように見えます。

予備調査はこのくらいにして,何らかのアイデアで,音律の実践を考えます(おわり)。

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夢笛myu

音律に関する一連の労作ごくろうさまでした。
音律=プリセットされた音高と考えると、これは鍵盤楽器やフレット楽器に特有の問題だと思います。フレットレスの弦楽器、管楽器、声楽にとっては、こういう制約はないわけで、音楽(楽曲)の要求するところに従ってその都度、最適な音高をとっていると思われます(初心者は別として)。解決した和音では、純正律で、滑らかな音階ではピタゴラス的に、と言う風に。
フレットの音律をどうするかについては、ギターと言う楽器の特性も関係してくるでしょうね。弦その物の音程の狂いも多いし(財力と時間が有れば狂った弦は即取り替えたいが、現実的には難しい)、左指の押さえ込みやチョーキングでもある程度の音程補正はできる、余韻が比較的短いこと、等々。
by 夢笛myu (2011-01-31 12:05) 

Enrique

夢笛myuさんコメントありがとうございます。
音律に関して,分かっている人には「何をいまさら」の内容なんですが自分で良く分かっていない部分をおさらいしてみました。何分音楽的な考察,具体例,適用例はこれからで,そちらが重要な訳です,何事も基礎が大事と考えました。
音律の議論は殆どが鍵盤楽器でなされてきたものだと思います。
おっしゃるように,音程が自由にとれる楽器や歌では旋律の美しさと和音の響きを両立させていると思います。それが出来ない鍵盤楽器では様々なウェルテンペラメントが現れたのでしょう。
ギターに向いた鍵盤楽器用音律で行くのも一つの方向でしょうし,弦楽器的な側面の考慮も必要かと思います。チョーキングでコンマ程度の音は上げられますし,ヴィブラートもかかります。分割されたコンマ程度は押さえ方で調整は可能ですが,下げる方はキビシいですし,システマティックな対応はむづかしいですね。
by Enrique (2011-02-01 09:19) 

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