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音律を考える(4)(ミーントーンのエンハーモニック音) [音律]

音律に関する話の基礎事項をうだうだ書いています。少しは実用的な話になるかに見えて,全く実用にならない話を続けます。なお,当方実際に音を出して確かめるという最も重要な行動をまだおこしていませんので,いわば机上の空論です。

前回はピタゴラス音律を拡張した際に現れるエンハーモニック音(半音よりずっと狭い音程間の音)について書きました。今回はそのミーントーン版です。ちなみに,ピタゴラス音律は一つだけですが,ミーントーンには修正ミーントーンと呼ばれるものがいくつも存在するらしいのですが,ここでは,私がわかる,元祖「アロンのミーントーン」について考えます。

3の倍数系統の5度の堆積で音階を作ったピタゴラス律でしたが,2の倍数系統のオクターブと,原理的にぴったり行くのはムリでした。ピタゴラス・コンマ(p.c.)というずれを抱え込んでしまいました。

このp.c.を余り使わない5度間(G#-E♭)間に隠そうとした訳ですが,当然,隠しおおせるものではありません。しかし,隠したはずの短い5度を挟む長3度が却って美しくなるというケガの功名が起こるのですね。実はこの辺の事情と,ミーントーン音律発生の歴史的な経緯は全然知りませんが,多分,求める音楽が,ドローンとした響きよりもビシーッとした響き(全くアイマイ表現ですみません)を求め出したということでしょうか。

実は,ピタゴラス律では5度純正,すなわち3倍系統で積み重ねられるため,オクターブの2倍系統とわたりがつかずp.c.を抱え込んだのでしたが,純正長3度の響きの比率は5/4で,今度は5倍の系統です。ピタゴラス律は3倍の系統ですから,やはり素数同士で,お互い同士それぞれの倍数で表わすことができません。

C音のスタートだと,G, D, A, Eと来て長3度音が出ます。すなわち3/2の掛け算を4回,すなわち3/2の4乗がピタゴラス律での長3度関係です。この値は81/64になりますが,これは純正長3度の比率5/4よりも大きく,21.5セントほど高くなっています。これをシントニックコンマ(s.c.)と言いますが,これが幸か不幸かp.c.=23.5セントとかなり近かったため,狭くごまかしたはずの5度を挟む長3度はピタゴラス律の欠点である広い長3度を解消したというわけですね。

これに味をしめたのかどうか,ミーントーンでは,そのようなラッキーチャンスに頼らず積極的にそれを逆手にとり,4回重ねて長3度純正になるように5度を狭めます。すなわち,

ミーントーン5度^4=5

としたのですね(両辺の1/4を払っています)。これよりミーントーン5度は,5の4乗根です。ルートの計算を含みますが,長3度純正という,単純明確な意思表示をした音律ですね。これによって,ミーントーン5度は5.4セントほど狭くなります(この辺もkotenさんのブログの比較的初期に詳しいです)が,シントニック・コンマが完全に解消されており,狭い5度の欠点を補って余りあると,絶賛されたわけですね。

しかしながら,5.4セントほど狭いミーントーン5度それそのものは,むしろ狭い(と感じてしまう純正)長3度を緩衝したりと色々メリットもあるようですが,この狭い5度の蓄積は全くバカになりません。結局このミーントーン5度で5度サークルを回すと,ミーントーン5度^12=(5/4)^3=125/64がいわばミーントーンのオクターブとなってしまい,何と41.1セントもオクターブが狭いということになってしまいます。西洋音律ではオクターブは絶対ですから,どこかに全く使い物にならない35.7セント広い(=41.1-5.4)見かけの5度:狼のように吼えるウルフを挟むことになります。「オクターブの広さ」と言う言い方を使えば,前回のピタゴラス律では,3の系統で作った近似的なオクターブは正しいオクターブよりも,p.c.分広いと言ってもいいのでしょう。

また,前置き(導入)が長くなってしまいましたが,これを前提に話を進めましょう。
ピタゴラス音律では,シャープ系(右回り)では音が高くなり,♭系(左回り)では低くなりました。p.c.をどこに配置するにせよ,右回りと左回りでは一致しませんでした。ミーントーンでは全く逆で,ウルフをどこに配置するにせよ,シャープ系(右回り)では音が低くなり,♭系(左回り)では高くなります。このこともやはり,kotenさんの記事に詳しく書かれています

とすると,もう何も書くことがないのですが,しつこくもう少し数字などをかまってみたいと思います。

ピタゴラス律と同じように,Cから右回りでスタートしてB#を作ってみます。これは狭いミートーン5度の堆積で作られますから,

B# = C - 41.1セント

となります。ちなみに,-41.1セントの計算は,

1200×Log2(125/128) です。

B#の高さはCよりも半音の半分近くも低いものの,比率的には125/128とわりあいきれいな関係です。

これをさらに繰り返していくと,どうなるでしょうか?
ピタゴラス律でやった,(3/2)の堆積を今度は,5の4乗根でやればいいのですね。
ミーントーンでは4回の5度回転ごとに,5/4(オクターブ内におさめるため4で割り算します)が出てくるので,比率自体はきれいな数字になりますね。

やってみますと,
B#は比率で言えば(オクターブ内では),125/64でしたが,次にきりが良くなるのは,

4回の5度回転したところ(時計で4時間後)で,D##音の比率は 625/512 

さらに4回5度回転したところで,F###の比率は 3125/2048

などとなって行きます。ミーントーンでは4回の5度回転で純正長3度(5/4)がでてきます。基本的には,5の倍数系列ですから,やはり,オクターブの系列2の倍数とは決して折り合うことが無く,やはり無限個のエンハーモニック音が出てしまいます。

前回の53音のピタゴラス律ではないですが,ミーントーン5度の集積で最初のCに近似的に近づくところを探してみますと,
18オクターブ上がったところで,6セントほど行き過ぎます。すなわち,ミーントーンのA####音は,

A#### = C + 6.0 セント

となります。A####音は普通に考えれば,C#ですから,♯4つ分使って#3つ分の半音を上げたことになります。この関係は♭でも同様です。

今回の結論:
ミーントーン音律でも,エンハーモニック音は無限に出る。
ミーントーン音律のエンハーモニック音はピタゴラス音律とは逆に,対応する異名音よりも#は低くなり,♭は高くなる。
ピタゴラス音律の#は7つで8半音分の働きだが,ミーントーンの#は4つで3半音分にしかならない。これは♭でも同様。(つづく)

付記
本記事では,p.c.=23.5セント,s.c=21.5セント,ミーントーンウルフ=41.1セント などとしていますが,値が細かすぎて却って分りにくいのではないか?とのご指摘をkotenさんよりいただきました。

通常は,p.c.=24セント, s.c=22セントとします。確かにこれだと数字が割り切れて便利ですが,誤差の蓄積でミーントーンウルフ=42セントとなります。通常は音律の最小単位はp.c.-s.c(スキスマ)の2セントくらいと思われますので,影響はないのですが,やっていると気になって来ます。セント値でもきちんとした数字が出ていないことを言いたかったのですね。たしかに,実際に幾多の音律を議論する時には,小数まで使っているとメンドクサクてやっておれません。世の中の音の高さはセント単位ですので,却ってつじつまが合わなくなってきます。しかし,普段は整数に丸めた数字を使うにしても,私のような音律学習者はあらかじめ確認しておいてもいいと思いました。

p.c.やs.c.の正確な値(比率)は,分数で出ますし,それによって発生するずれもたいがい分数で出ます。しかしこれをセント値にするには,対数計算が要り,これは手計算できませんから,私は,記事を書きながら,Excelで確認しています。表を開いて適当な場所に「=1200*LOG(125/128,2)」と打ち込めば,ぱっと-41.05885841と出ます。これが一番便利だと思います。関数電卓でも計算できますが,通常は常用対数(10の対数)しかついていないので,底の変換(0.301029996を掛ける)がいります。電卓が出る前は計算尺でしたね。

セント値に直さず,p.c.やs.c.のままであつかうのがメンドウも誤差も無く一番いいと思います。記事がまだそこまで行っていないのですが,よく,p.c./6とかs.c./4とかのテンペラメントをしますね。合理的な考え方だと思いますが,あれはもうすでにp.c.やs.c.は2の対数をとっている(もちろんセント値と考えてもいい)という前提で行っていますね。それ式の計算を使えば,例えばミーントーンウルフは3×s.c.-p.c.とかですね。最初からセント値ありきではなく,必要に応じて数字を使うのが良いと思いました。
少し違いますが,円周率をπのままで扱うか,分りやすく3程度の数字を使うかということと似ていると思います。


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Cecilia

今回も勉強させていただきました。音楽は数学なのですね。
by Cecilia (2011-01-20 08:47) 

Enrique

Ceciliaさん,nice&コメントありがとうございます。
エンハーモニック音に関しては,kotenさんの記事でとどめを差し,音律に関しては,REIKOさんのところの「神秘のバリケード」演奏で簡潔に説明されていた内容で十分ですね。
自分の勉強のために書いているので,音楽やるのに不要の内容も多いかと思います。
音律に関しては,演奏者の立場としては,誰かが考えてくれればいいことなのですが,調律するとなるとある程度の知識と理解は必要と思います。それと,理系人間は自分で理解できないと気が済まないというのが困ったものですね。
by Enrique (2011-01-20 11:10) 

koten

>21.5セントほど高く・・これをシントニックコンマ(s.c.)
>p.c.=23.5セント
>5.4セントほど狭いミーントーン5度

ぐおおぉ、正確を期すべく小数点を使ってきましたか(汗)。
この手の話は正確に書こうとすればするほど理解(すなわち人に伝えるの)が難しくなりますよね、、、 Enriqueさん、わざと難しく書いているでしょ?(爆)

>-41.1セントの計算は,1200×Log2(125/128)
 小生、ナンチャッテ理系人間(?)ですので、対数が出てくると思考停止ですわ(泣) ・・・で、オチとしては、これが本当の「タイスの瞑想(対数の迷走)」曲ってやつでして(笑)。
by koten (2011-01-21 16:31) 

Enrique

kotenさん,nice&コメントありがとうございます。
すみません。実用的には全く問題ない訳ですが,少数点以下1位まで表示してみました。
p.c.=24, s.c.=22として計算すると,ミーントーンウルフ = -3×s.c.+ p.c.=-42 セントになっちゃて,約1セント損するかなと思ったもので(汗)。
確かに正確さと分りやすさは反比例しますね。今後気をつけます。平均律は対数を使うところもいけないのかも知れませんね。
by Enrique (2011-01-22 08:57) 

Enrique

ここでいっている,ミーントーンウルフ=-42セントというはマチガイで(符号も!),これはミーントーン5度集積でオクターブが狭い分です。ミーントーン5度よりも42セント広いということですね。純正5度からは,42-5.5=36.5セント広いというのが正解でした。REIKOさんの記事で気が付きました。正確にやると,35.7セントですね。思ったほどにはウルフはひどくない?!
本文の計算は大丈夫と思います。

by Enrique (2011-01-26 13:06) 

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