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ギター音の特徴について [楽器音響]

図1に理科年表から引用した各楽器の音域図を示す。
ギターの音域周波数は,チェロとほぼ重なり,中音域からやや低いほうだ。楽譜を,実音で書けば,ヘ音記号を使わないといけないのだが,記譜上は1オクターブ上げてト音記号で記譜しているのは承知の通りである。「ギター曲と楽曲形式(8)」でバッハのリュート組曲第1番を取り上げ,2段譜のものを示したが,実音で書くとあれが正しい。ト音記号で書く場合はオクターブ下を意味する,記号の下に8の数字がいるのだ。その為,ピアノやバイオリンその他の楽器に比べ,音の絶対値とあいまって,聞こえにくく,音量の小さい楽器とみなされる。しかしそれが逆に,癇に触らない,聞きやすいという魅力にもなっている。人の声の高さともほぼ一致し,バスからソプラノまでの音域をほぼカバーする。
FrequencyRangeOfInstruments2.jpg
図1 理科年表より引用した,各楽器の音域図

フォークギターも音程は同じであるが,含まれるハーモニクス(高調波)のおかげで,クラシックギターよりもさらに,シャリシャリ,キラキラとした高い印象の音質となる。それがスチール弦ギターの魅力なのだろう。以前フォスファー弦と呼ばれるスチール弦の音色を調べたことがあるが,明らかに2kHz程度の高調波がブロンズ弦との音色の違いに作用していた。なんと低音弦の20倍音にも相当するものだ。いずれのギターでも実際の音程ほどには低くは感じない。実際の記譜よりも1オクターブ低いわけだが,そう違和感はない。なぜか?それに,バッハなどのバロック・リュート曲や鍵盤曲,アルベニスやグラナドスなどのピアノ曲をギターに編曲する際,音域の都合上オクターブを上げ下げすることも多い。しかし,そう違和感を感じない理由の一つに,ギター音の高調波の多さがあげられる。実際,やや固めの音に相当する弦長の1/8地点を弾くと,基本波よりも2倍音の方が大きく鳴っている。オクターブ上の音の方が強く鳴っているのである。むしろ記譜の音の方が強く出ているのである。なお弦の1/2地点の弾弦では,高調波が少なくなり,やわらかい低い感じの音になる。更に言えば,何かの都合でオクターブ下げて弾いても,ブリッジ寄りの硬い音を出すなりすれば,そう違和感は無いことになる。図1は音程(基本波)の周波数範囲を示しているが,高調波(ハーモニクス)を考慮すれば,物理的な周波数範囲はもっと高いほうに伸びていることになるだろう。

図2に,ナイロン弦の中央部分を弾いた際の音のスペクトラムの時間変化,および 図3に,ナイロン弦の弦長の1/8部分を弾いた際の同様の図を示す。2回アポヤンドで3弦Gを弾弦している(弦の共鳴はミュートしている)。横軸周波数,縦軸音圧,左上から右下に向かう軸が時間である。一番左のピークが音程を決める基本波で,第10倍音までを表示している。後者では基本波と同程度の大きさで出た2倍音の余韻が強く,むしろこちらが支配的になることが分かる。弾く位置を変えるとカメレオンのように音色が変わり,オクターブの音程感まで変わることが,最も鈍い3弦のデータでもはっきりとわかる。この辺が,ギター音のマジックなのだろう。

測定機材等は以下の通り。
Guitar: '63 Manuel Velazquez, String: Augustine/Regal
Microphone: Brüel&Kjær Condenser Microphone Type4133
Amplifier: Brüel&Kjær Measuring Amplifier Type2610
Sound Unit: Creative Sound BLASTER Extigy
Edit and Analyze Software: Digital Mephisto! Ver.0.5.8β

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図2 ナイロン弦の中央部分を弾いた際の音のスペクトラムの時間変化。基本波が強い。

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図3 ナイロン弦の1/8部分を弾いた際の音のスペクトラムの時間変化。2倍音が支配的になる。

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