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楽器用木材の特性(1) [楽器音響]

以前紹介した,Journal of Guitar Acousticsの1981年3月号(No.2)に,"On Musical Instrument Wood"と題したDaniel Haines氏のペーパーがある。多くの楽器用木材の基本特性を測定しており,その後現在に至る,新楽器開発の指針にもなっていると思われるので,この内容を私見交えながら数回に分けて紹介する。

本ペーパーは,各種の楽器用木材87サンプルの,ヴァイオリンやギター,ピアノへの適用を考慮した,各種の物理特性を測定している。樹種としては,各種スプルースを42サンプル,サイド・バックに使うメープルやローズなどのハードウッドを23サンプル,その他22サンプルである。各種スプルースとして,Japanese Spruceというものもあり,興味をひく。

特に振動特性として重要と思われるのは,密度,ヤング率,減衰係数であるが,各種木材はそれらの数値が異なり,また音響はそれらの数値が複合要因となるため,単純な比較がしにくい。そこで,氏はラウドネス指数Lと言うものを用いている。その定義は,

 L = RR / (δδ)

である。ここで,R=C/ρとして輻射比(Radiation Ratio)と呼ぶ。ここで,Cは音速[m/s],ρは密度[kg/m3],δは低周波での対数減衰(測定容易としているが具体的方法は明記されていない)という。Rやδに付く∥,⊥の記号はそれぞれ,木目に平行方向,垂直方向を表す。この指数Lは,大まかに言って響きの強さ・鳴りやすさを表すようだ。

この指数Lを用いて各種スプルースを評価すると,最も大きな値は1960年産のEngelmann Spruceの49000である。ついでノルウェー産のEuropean Spruceの47000,キルン・ドライのSitka Spruceの43000,1920年産のRed Spruceの41000などがつづく。同じ種類の材でも,4000とか言うものもある。同じ樹種と年代でも,重くてヤング率の低い個体のようである。楽器にしてもおそらく鳴りの悪い楽器となるだろう。製作界では常識事項なのだろうが,産地や品種の差より,木地の選択の方が遥かに重要ということだろう。

サイドやバックに使う,メープルやローズも同様にこの指数Lが算出されている。総じて,メープルが低く,インディアンやブラジリアン・ローズが高い。メープルは多くの種類があり,サンプル数が16でL=4200~12000。インディアンが4サンプルで木目の角度の違いなどがあり,L=7000~23000。残念ながら,ブラジリアンは1サンプルのみでL=18000。平均値ではブラジリアンが勝るが,インディアンのほうにも数値の高いものがある。この辺が,「質のよいローズはハカランダに勝る」というデータなのだろう。(つづく)
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