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音律とギター(1) [音楽理論]

ピタゴラス,純正律,ミーントーン,その他古典音律について書いてきた。では,これらの音律をギターに適用したらどうなるのか?というのが,ここからの話である。

以前ホ短調純正のものを示したが,順番としては長調からの方がよいので。ここではホ長調の純正律としよう。
1弦と6弦がホ音なので,これを元に音階を組み立てると,まずチューニングはどうなるのだろうか?

ホ長調ではまずIの和音のEG#B(ドイツ式ならばEGisHとなるところだが今後とも英音名で統一)を純正,すなわち4:5:6にしないといけない。あとVの和音,IVの和音が純正になるように各音階音の高さを決める。

その前にホ長調の主音E音そのものの基準を決めないといけない。A=440Hzを基準にするが,A音が含まれるのはIVの和音のAC#Eなので,E音=440Hz×3/2=660Hzとなり,これの2オクターブ下として,まず6弦開放のE音を82.5Hzとする。この基準が決まれば,前に挙げた音階の周波数の比率を掛けて,順次,フレッティング・開放弦の音の高さを決めていけばよい。ここではローポジションに対応する音を算出しておく。

ホ長調チューニング

E:330Hz  F:352Hz   F#:370.85Hz  G:390Hz  G#:412.5Hz            
B:247.5Hz  C:264Hz  C#:275Hz  D:293.3333Hz  D#:309.375Hz   
G:195Hz   G#:206.25Hz  A:220Hz  A#:231Hz     
D:146.6667Hz D#:154.6875Hz  E:165Hz  F:176Hz  F#:185.625Hz
A:110Hz  A#:115.5Hz  B:123.75  C:132Hz  C#:137.5Hz
E: 82.5Hz  F:88Hz  F#:92.8125Hz  G:97.5Hz G#:103.125Hz   


さて,ここで各弦の一番左側にある周波数が開放弦を表すので,この周波数でチューニングし,この周波数が出るようにフレットを刻めばホ長調を純正律で弾くことができる。但し,フレットは真っ直ぐには打てない。真っ直ぐになるのは12フレットのみ,7フレットも割合凸凹は少ない。このフレッティングを示す前に,以前示したホ短調チューニングと比較しておく。(カッコ内には平均率との差を示す)

ホ短調チューニング

E:330Hz (+1.96セント)
B:247.5Hz (+3.91セント)
G:198Hz (+17.60セント)
D:146.6667Hz (-1.96セント)
A:110Hz (0セント)
E: 82.5Hz (+1.96セント)

短調の考え方は,主和音の3度を短3度にとる。純正律の短3度は,長3度が振動数比4:5なのに対し,5:6にとる。完全5度が2:3でなければならないから,コードの振動数比は5:6:7.5すなわち,10:12:15である。この比率は長調の4:5:6に比較してあまり美しくないとの指摘もあるが,まあここでは置いておいて,この比率で算出したのが上の比率である。もちろん適宜転回して求める。

3弦G音が198Hzである。これは,ホ長調チューニングよりも3Hz高い。平均律が195.998Hzであるので,これよりホ長調では約1Hz(8.84セント)下げ,ホ短調では約2Hz(17.6セント)上げないといけない。もちろん,これは純正長短を志向したものであり,平均律のままでよいと言う考え方もある。平均律だと純正長短よりも長三度がより長く,短三度がより短くなる。すなわち,平均律の方が長短がより強調されるというのである。どちらの考え方をとるにしても,音階の元になるチューニングは絶対的に固定したものではなく,自由度があると言うことが重要である。

通常の楽器ではフレットがほぼ平均律なので厳密ではないが,チューニングをホ長調・ホ短調それぞれに最適化するならば,転調の際3弦のチューニングを変える必要がある。たとえば,「禁じられた遊び」を弾く際,最初は上げ気味にチューニングしておき,長調になったら下げないといけない(もちろんダ・カーポしたらもどす)。この曲でこれをやる人を余り見たことが無いが,名人がやる曲の途中でのチューニングは,ステージ上での弦の狂いの修正だけではないということが,音律面から原理的に分かると思う。

ここで見たように,ギターで最も良く合うホ長調とホ短調においても最適なチューニングが音律的に違う。また既に述べているが,実際面でも3弦は太く音程が悪く問題の多い弦とされる。しかし,響きの悪さが,本来の音律の問題なのか弦自体の音程の問題なのか,ごっちゃにされている面もあると思う。
 
以上,一例を上げたが,「調によって最適なチューニングが違う」というのはこういうことを言うのである。また,時代はもちろん,各人の考え方,感覚によっても変わるものであるということが重要である。

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