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「音律と音階の科学」について(2) [音楽理論]

(1)でいきなり,ギターへの適用を書いてしまったが,ここからは音律の復習をしておく。

まず,音律の元祖のピタゴラス音階。構成の仕方は概略以下の通り。
オクターブ:完全8度(周波数2倍)と,完全5度(周波数3倍だが,オクターブ内におさめるため適宜2の倍数で割る)をベースにする。基音から5度圏を繰りかえし,適宜音階音を拾って行く。基音がCならば,1回でG,2回でD,3回でA,4回でE,などと上がって行く。ここで打ち切って5音のみの音階で構成したものを5音音階(ペンタトニック)といい,日本のヨナぬき音階などもこれにあたる,素朴な音階。しかし西洋科学の祖はここで手を緩めない。

さらに5度圏の回転を繰り返し,5回でB,6回F#(FでなくF#が先に出てくるのは面白いが,実はCを5度下げたのがFなので,上げ続けるほうでは最後に出てくるのである。下属音と言うゆえん。ちなみに,先に出てくるF#を採用するのをリディア旋法といい,ピタゴラスの時代にはポピュラーな音階だったらしい。),7回でC#,8回でG#,9回でD#などと埋まっていって,12回でB#,すなわちCで基音にたどり着いて,めでたしめでたし,となればよかったのだが,そうはならず少し行き過ぎる。2と3は互いに素なので,それぞれのべき乗を作っても等しくなることはあり得ないのだが,最初のニアミスが2の7乗=128と3/2の12乗129.746で起こる。

この行き過ぎ量を,ピタゴラスのコンマという。23.46セントの大きさ。これを無理やりオクターブに押し込むと,どこかに5度間隔の狭いところが出てきてしまう。上の手順でやったのでは,基音Cに対し5度圏の11回目(最後)に出てきたE#すなわちFが高くなりすぎてハ長調の音階や和音が使い物にならないので,通常はCから上げ続けるのではなく,Cの下へ3回,上に8回として,誤差をA♭(G#)とD#(E♭)の間の5度を短くすることとによって調整する。なお,この辺の調整はピタゴラスから約1000年後,鍵盤楽器を作る際になされたようだ。しかしこのごまかしは却って長3度の響きを改善するという,怪我の功名を得ることになる。本書では明示的には触れられないが,ピタゴラス音階の長3度が長いのをシントニックコンマと言うが,ピタゴラスコンマを無理やり1オクターブに押し込めることにより,その間隔を含むコードのシントニックコンマは改善している。

このようにして作成されたピタゴラス音階の振動数比を以下に示す。
なお,本書では取り上げられていない半音も追加しておく。

    C#   D#(E♭)      F#        G#     A#(B♭)
 2187/2048 32/27   729/512  6561/4096  16/9
C             D            E       F          G            A             B        C
1         9/8     81/64  4/3      3/2      27/16   243/128  2

もちろん,順番的にはまだなのだが現在の12平均律は,オクターブに12の音があるとするそれまでの音律の流れを基に,音階間隔を均等に割り振ったもの。いわば,ピタゴラスコンマをすべての音階間に拡散したものと言っても良いのかも知れない。

なお,5度の回転を12回で打ち切るのでなく,53回繰り返せば,近似はよくなる。すなわちピタゴラス流の53音音階と53音平均律は響き的にはかなり良いはずで,この音律を使ったオルガン鍵盤も19世紀に開発されたが,普及しなかったようだ。

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