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「音律と音階の科学」について(1) [音楽理論]

DSC00650.JPG専門がプラズマ物理の小方厚氏の2年前の著作音律と音階の科学 (ブルーバックス) である。音律や音階の話は,愛好者の方々がネットでかなり詳しいページを構えておられ,それらを総合すれば十分な理解が得られるが,ぱっと参照できる読み物が手元にあってもいいかなと思い,久々にブルーバックスを買って眺めていたら,娘が同書をボーイフレンドにもらったと言っていた。しかし娘は(妻も)この手の話は嫌い(苦手)と言っていた(その後ボーイフレンドとの関係も悪くなってしまったようだ)。音楽は感性でなされるべきもので,理数的アプローチなどクソくらえというのが彼女らの言い分である。

まあ,彼女らの言い分も音楽界の一つの立場かも知れないが,その立場をとると議論は終了してしまうので,それはそれとして,当著作の感想と参考になる点などを述べたい。本書のもともと購入(する必要は無かったのだが)の目的は,ギターのチューニングおよびフレッティングに関して参考になるかと思ったからである。

今後何回かに分けて,クラシックギターにも関連しそうな部分を取り上げてみたい。

1章~3章までは,音律の話で,音階の基礎事項である。
ピタゴラス音階,純正率と来て,ピタゴラスのコンマ・転調の問題に行き当たり,ミーントーンやヴェルクマイスターをたどって,12平均律にたどり着くという,通常の流れ。どなたが書いても,同じような流れにはなるだろう。

ミーントーンの説明は簡潔にしてあるが,ヴェルクマイスターに関しての説明は殆ど無い。ピタゴラスとミーントーンの各種折衷は,うまく調律したと言う意味で,ウェル・テンペラメント。バッハの平均律クラビール曲集は,文字通りの現在の平均律ではなくウェル・テンペラメントを使ったと,これは定説らしい。現在の12音平均律は本ブログでも何度か書いているが,一つの妥協案だと当然本書にもあり,12音平均律の使用はドビュッシー以降とある。確かにドビュッシーお得意の全音音階は6音音階であり格好の応用例だったのだろう。厳密に言えば12音音階を用いたシェーンベルク以降だろうか。いずれにせよ,近現代曲は12音平均律を使うのはセーフだが,それ以前のものはアウトなのである。当時の響きとは異なるだろう。極論すれば,美味しい調や和音を用いて作曲された料理(曲)が,ごった煮にされるわけだ。

アルベニスやグラナドスもギリギリだがあぶなそうだ。もともとスパニッシュな旋法音楽だろうから,平均律では面白くなさそうだ。そうそう,この「旋法」に関しても,ウェブにかなり詳しいページはあるが,簡単にまとまったものが欲しかったのだ。

音律の話に戻せば,モーツァルトがミーントーンを好んだとのこと。おそらく,ソルあたりもミーントーンを好んだのではないかと思われるが,どうだろうか?19世紀ギターが流行するが,楽器の音響構造もさることながら,この古典音律に沿ったフレッティングとチューニングが必要なのである。

この本のまえがきにも書いてあるが,現代のピアノなどの平均律楽器は民族音楽などで別系統の音階(旋法)を使う人からすれば,調子っぱずれなのである。日本の音階も12平均律の中にはきちんと落ちない。例えば,「こんぴらふねふね」のメロディを三味線で聞くと,半音がずいぶんと短いことに気づく。民謡でなく正調の陽旋法・陰旋法でもしかりだろう。ポピュラー音楽でも,昔ボズ・スギャッグスの「We are all alone」のメロディを楽器で弾いて見たが音階にはまらず,困った記憶がある。

現代用いられる12平均律は妥協の産物であり,転調が自在と言ったメリットは大きいが,和音の響き(特に3度,6度)が悪いこと,調による色合いが出にくいなど欠点もあり,必ずしも最上ではないのである。現代の12平均律には現代人かなり慣らされているが,もともと人工的なので,多少のイントネーション(整調)が必要と思う。

オーケストラ楽器である多くの弦楽器は純正率を使う(というか自動的にそうなる)ので,ハーモニーが美しく響く。歌も勿論である。これを全く出来ないのが鍵盤楽器である。だから,1オクターブに53音もある鍵盤まで試作されたそうである。いかに響きの良さを求めた人たちがいたかである。ギターはフレットを持つため鍵盤楽器に近いが,チューニングとフレッティングで多少の調整は可能である。名人は押さえ方で和音の構成音を上げ下げして響きを調整する。渡辺範彦氏がそうだったと言う。さらにセゴビアや山下和仁氏は演奏中でも盛んにチューニングする。これは必ずしも途中で狂うからでなく,狂わなくても,演奏の時々で合わせるのが理想なのである。厳密には和音が変わったり,転調した際にも必要なはずだ。ギターのチューニングに限らず,もともとの音階・音律そのものが非合理なものであると,この本でも述べられている。

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追記: この記事をポストしてから,実際にミーントーンなどの古典音律で切ったフレットのギターを用いて実際に演奏しているページを見つけた。

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コメント 4

koten

はじめまして!
「実際に古典音律で切ったフレットのギターで演奏している者」wです。
「ソルあたりもミーントーンを好んだのではないか」・・まさに同感です!
小生、ミーントーンギターでソルの曲を弾いたら、もう2度と平均律フレットのギターに戻る気がしなくなってしまいました(汗)
http://www.youmusic.jp/modules/x_movie/x_movie_view.php?lid=2539

 現在、iの指に腱鞘炎を抱えているのでギター休止状態ですが、その内に色々とupしていきたいです。美しい和音はそれだけでエネルギー(生命力、やる気等)をもらえるような気がしますからね・・。
by koten (2009-08-27 19:59) 

Enrique

私は普通の楽器を弾いており,古典音律について余り詳しくないので,今回の研究課題でした。取り組んで方から共感いただき,光栄です。

つねづね和音の響きには疑問を持っておりました。ソルは鍵盤も弾いていたせいか,あまりギター的でない調を多用したり,4月にGGから出たソルの教則本全訳の楽器の絵のフレットは,まっすぐではありますが間隔が変なので,もしや?とは思っていました。
by Enrique (2009-08-27 21:43) 

koten

 (他のところで述べたように、)ギター(音楽)では頻繁に使う調や和音が限られている(≒非常に偏っている)ためか、昔のギターのフレッティングでは、良く使う和音の響きを出来るだけ綺麗にする工夫がなされているみたいですね。(例えば第4フレットをナット寄りにするなど)

 現代ギター2000年1月号(No.420)の別冊付録の「19世紀ギターへの誘い」の12ページからの「3.基準音、調律、音律」の記事を読むと、このことが伺われます。
 詳細はこのページ(mixi某コミュ)の21番発言で書きました。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=9899844&comm_id=85864
 
 補足:(ひそひそ・・)ソルの時代は、鍵盤楽器は未だ12平均律ではなく何らかの古典音律で調律されていたはずなんですよね(そして、ソルの作風も古典派鍵盤楽器作曲家のそれに極めて近い・・)。現代人はどうもその歴史的事実(?)を余りに軽視しているようでなりません(笑)。
by koten (2009-08-28 21:32) 

Enrique

ひきつづきコメントありがとうございます。
音律にはあまり深入りするつもりは無かったのですが,少しはまりそうな気がします。やはり,ギターは響きが魅力。今のところ,フレットを改造する予定まではありませんが,頭では考えていくつもりです。
またご意見お聞かせください。
by Enrique (2009-08-28 23:27) 

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