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上達の瞬間 [演奏技術]

Brian with his Classical Guitar by Made Underground.jpg愛好家は日々練習を重ねることにより上達する。がむしゃらにやっても,スマートにやっても,いつの間にかこなれてくる。難しい曲に長期間取り組んでいる場合は,進歩と退歩が交錯して上達が見えにくくなることもあるが。いったい,いつ上達しているのだろう?上達の瞬間はあるのか?連続的に上達しているのだろうか?デジタル的なのだろうか?これを説明する学問は教育学などの中にあるのだろうが,ここでは思いつくことを述べる。

Brian with his Classical Guitar by Made Underground with CC License Attribution

課題を意識し解決した瞬間ではないかと思う。「ああこう弾くのか」と,弾き方をつかんだ瞬間である。どんな複雑な曲でも初見で,あるいは一度聞いたら譜面無しでもすぐに弾けてしまうという超人的な人は別として,新曲に取り組む場合,大概すんなり弾けないところが随所に現れる。弾けないという問題に対して,なぜ弾けないかという課題が発生する。これを解決するわけである。だとすると,弾けないのだけれども,なぜ弾けないのかの課題が明確になっていない時点では,まだ上達モードに入っていないということになる。課題の抽出がすばやく出来,課題解決の技の引き出しを沢山持っている人が早くうまくなる人だ。ある曲が弾けるようになるというのは,その人の持つ基礎技術がその曲用にオーガナイズされると言うことだろう。

課題解決が瞬間的になされる場合は初見がきく。しかし,これには大きく個人差がある。予測や先読みが必要だが,これは曲を沢山やって慣れるしかない。ギターは運指が複雑なので初見奏は難しいと言われる。また,やさしい曲を初見奏できても余り意味が無いので,重視されないようだ。初見モードで弾けるのと,暗譜を伴った演奏とはやはり異なるだろうから,ここでは考えないことにする。暗譜しないと弾けないという人は,逆に弾ければ暗譜は完璧なのだから,暗譜奏に関してはむしろ有利だろう。

上の定義では,弾き方がわかった瞬間に上達するが,これが定着しないといけない。それには繰り返しと休息が必要であろう。正しい弾き方の繰り返し,適切な休息の重要性も良く言われるところである。レッスン前日一夜漬けで練習しても,課題の発見と解決その定着がなければ,効果は少ないようだ。学生時代には24時間くらいぶっ続けで練習したこともあったが,自己満足だけで下手になる練習だったのかもしれない。当時は暗譜が先に終わり,弾けないところが随所にあっても,スピードも落とさず闇雲に弾きまくっていた。

齋藤メソッドで有名な故齋藤秀雄氏はオケなどの練習で1小節1小節,信じられないくらいの時間をかけてゆっくりと練習させたそうで,その効果は絶大であったようだ。まさに,「アメリカで開始したクラシックギター」で紹介されていた「スロー・プラクティス」である。速く2回弾くよりも,半分の速度で1回弾いた方が有効ということだろう。超ゆっくり弾くということは,正しい弾き方をいわば定着させながら練習するわけだ。なお,ギターでは押さえが苦しい時は速く弾き飛ばしたくなるわけだが,逆説的ながら,そういう箇所はゆっくり弾ければ速く弾くのはなんでもないわけだ。

上達を自然現象にたとえれば,何か水が凍ったり,ある物質が結晶化するといった相転移現象にたとえられるかもしれない。最近「渋滞学」を創始した人が,道路の渋滞のメカニズムを解明した。一見不可解な現象であったが,これが全く相転移現象に例えられるそうだ。渋滞は,ある車間距離を下回ったとき突如発生するのだそうだ。丁度,車間距離が相転移現象の転移温度に相当するわけだ。だから車間距離を一定以上開けさえすれば起こらないし,車間を詰めればあっという間に発生する。上達の転移温度に相当するものは何だろうか?明確に意識できる量だろうか?先を急ぐ余り,車間を詰めてしまい,却って渋滞を招いてしまっている人間の所業に,私の練習法もあてはまるのかもしれない。


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