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練習の目的と手段 [演奏技術]

「アメリカで開始したクラシックギター」にC.エルモア氏の「ギター上達のための50のコツ」の一括編が掲載されている。10回に分けて詳細に説明されてきたもの。改めて眺めても,どれもなるほどと思われる内容で,これだけ網羅されていると,中から特に自分の強化すべき弱点を見出すことができる。

本ブログもより良い上達を目指したものなので,独断的な分析などを交え,練習に関して述べたいと思う。昨日の「上達の瞬間」などはそれ。もちろん定説などでは無く,思いつきであり持論ですらない。暗譜ともからむ問題であり,「何となく」の暗譜を脱していない私としては,「何となく」の上達でもいけないと思い,記した。自己の能力と取り組む曲が要求する技術・音楽的内容を把握した上で折り合いをつけないといけないが,これも難しい。スロー・プラクティスも効果絶大であることは分かっていても,実行はなかなか難しい。うまく弾けてなくても早く先を弾きたくなってしまう。

基礎練習としてのスケールやアルペッジョ,スパイダーウォークのような左手の訓練。良いと分かっていてもなかなか出来ない。フェルナンデスなどのやらない人もいるというのを基礎練習をさぼる言い訳にもする。「奇跡のカンパネラ」のフジコ・ヘミングも基礎練習はまったくやらないらしい。基礎練習は目的ではなく手段なので,しなくても弾ける人はそれでよい。目的はいかに音楽的に奏せられるかである。健康ブームの一時期流行った,「健康のためなら死んでもよい」のノリでジョギングなどを続けるのは,完全に手段と目的を取り違えてしまった例だろう。今はずいぶん違うが,怠惰心を敵視したのが,かつての日本のプラクティスを伴う教育の基本的発想であったと思う。しかし目的がはっきりしなかったり,効果が薄そうな基礎練習はやる気がなくなってくるものだ。

その上で,やはりスケールは重要である。調子よくいろいろな曲を弾けている人は大丈夫だろうが,ブランク後のリハビリに特に有効だろう。アルペッジョは押さえてから弾くという感覚だが,スケールは左右シンクロしていないと弾けない。何年ものブランクはもちろんのこと,出張や飲酒で2・3日練習を休んだ,長期出張でそれ以上弾いていないなどの後である。なお,出張中など弾けないときに逆に有効な練習もある。技術的なイメージトレーニングもそうだが,手元に楽器があるとどうして弾いてしまうので,長い曲など譜面を眺めて曲の構成を覚えるには,エレクトロニックデバイセスが使用できない航空機の中などでやるのが最も有効だろう。もちろん私には無関係の世界だが,演奏で飛び回る演奏家ならば飛行機の中は楽譜読みなどに絶好の時間だろうと想像する。それにより,新曲が楽器無しでもほぼ弾けるようになると思う。

基礎練習の目的に戻る。ギターは押さえを覚えればある程度は弾けるが,やはりその上で音楽的演奏として難しいのは,対位法的な動きの把握やハーモニーを感じた演奏だ。バッハでは最低2声の対位法的な動きが要求されるし,アランフェスなどのネオ・クラシックでも各楽章に登場する対位法的動きがある。ギターでは一段譜にうまく工夫して記述されるが,どうしても見えにくくなる。各声部をバラして練習して統合という作業は有効だ。スロー・プラクティスが時間的拡大だとすれば,こちらは空間的拡大である。演奏が立体的になるし,本来西洋音楽はそういうものだ。逆に「さくらさくら」のように音が空間に浮遊する音楽をジョンなどは新鮮に感じて取り上げたわけだ。

バッハなどのポリフォニックな曲はもちろん,ソルなどに代表される古典曲も,驚くほど横の声部の流れを考慮して書かれている。近年ピリオド楽器で当時の響きを再現しようという演奏が盛んだが,私はそれも手段として正しいとは思うが,新旧どちらの楽器を使うにしろ,作曲者の意図を良く読み取った演奏を目的とすべきと思う。以前も書いたが,ソルは弦楽四重奏や鍵盤を想定しており,作品自体必ずしも当時の楽器で表現しきれない内容を含んでおり,ソル自身当時のギターで満足していたとは思えない。だから当時を再現した考古学的な演奏も良いが,楽器を超越した世紀を越えた演奏も望まれる。私自身ピリオド楽器をやる余裕がないので,願望として書いている。

横の流れを良く把握するには2段譜で書けば良い。ギターの2段譜は古くはソルの幻想曲,アランフェス2楽章のカデンツァの一部,先日紹介したエトベシュ編のゴールドベルクの幾つかの変奏などで現れる。多弦楽器を使った楽譜などでは他にもあろうが,やはりかなり特殊であるし,スペースを食ってしまうので,最近出てきた符球の色分けもうまい方法であろう。ちなみに定番ノーテーション・ソフトFinaleでは画面上では入力した声部によって色分けされるが,印刷すると全部黒くなる。やり方があるのかも知れないが分からない。

練習用譜を作るのは有効な方法と思う。Finaleが自在に操られれば楽なのだろうが,無理なので,手書きで部分的に2段譜にしたり,色分けしたりする。技術面では,右手のみの開放弦の譜面を作って弾くのは効果的。あと,スケールやアルペッジョで付点を付けたり,アーティキュレーションを伴った練習は飽き対策にもなり技術的にも有効であるが,残念ながら,そこまでは練習は行かない。


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