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弦への期待 [楽器音響]

以前,理想の弦の振動パターンを紹介したが,あれは弦を理想として扱ったもの。

現実の弦はどうなのか。
ナイロン弦に関しては,各社の弦は元祖オーガスチンと大差ない。カーボンとかチタンとか言われるものは,殆ど「イメージ」で,前者はカーボン繊維ではないし,後者は現代ギター4月号に東レ訪問記事にもあるように,金属チタンをどうかしているはずはない。

通常カーボン弦と言われるものは,なぜそう言われるのか不思議だが,ポリフッ化ビニリデン(PVdF)という素材で,ナイロンよりも密度が高い為,細くできるのでシャープな音がする。素材自体の減衰率が低いというわけではなく(むしろ高い),細くできることが最大の理由。これには有名な銘柄があり,日本のK社が納めていることも有名。素材がナイロンにしろ,PVdFにしろ,ガット弦の代わりに釣り糸を使うと言う話は,リュートやピリオド楽器をやっている人たちには常識事項。

66ナイロンという共通の素材を用いた弦(モノフィラメント)が,それぞれ何らかの個性を出す重要因子は,芯鞘構造と呼ばれる,弦の中心部と外周部との結晶度の差である。具体的には紡糸時の冷却速度で決まる。この辺は企業のノウハウなのであろうが,もう少し突込みが欲しかった。素材メーカーの方にエンド・ユーザーの立場からの取材では,企業の人も答えにくかったのではないか。

アクリル(PMMA)をギター弦に試したことがある。最近光ファイバーに使われているものだが,透明度が高くて表面がつややか,見た目すばらしい音がする気がしたが,これはダメだった。際限なく伸びて音程が定まらない。おそらく透明度など光学特性優先の分子配向なためだろうが,高分子屋さんに聞いてみないとわからない。

従来より 3弦の鈍さが問題にされてきたためか,某社から 3弦にコンポジットと呼ばれる硬い弦が出ているが,あれはいただけない。弦は硬くするのでなく,柔らかくしないといけない。硬いと音は余計鈍くなるし,音程も合わなくなる。PVdFの様に素材は硬くても,密度が高いため細く出来るなら話は別である。

レッドコア(lead core)と呼ばれる,中心に鉛を仕込んだ釣り糸がある。シンキングラインと呼ばれるトローリング用のラインだが,もし適切な太さがあれば使えるかどうか興味深い。また,本当のカーボン繊維やケブラーを低音弦の芯線に使ったものなども出てきて良いと思うのだが,PMMAの例のように弦には向いていないのだろうか。未だに弦素材として,最も古典的な合成繊維であるナイロンが主流である。ナイロン弦の完成度が高いためだろうが,楽器同様,弦の世界も保守的である。
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