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バッテリーと自動車の話から [科学と技術一般]

当方電気の専門ながら,電池については得意ではありません。
電池は専門分野で言えば,電気化学という独特な分野です。これは電気工学ではなく,化学の一分野です。電気工学的に電気回路としての電池は,起電力と内部抵抗として単純化されるのみですので。

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補機バッテリーでお馴染みの鉛蓄電池(いらすとやさんより)。

電池の意味のバッテリー(battery)とは,語源的には大砲などの砲台を指すのだそうです。

どちらが先かは知りませんが,野球のバッテリーは,ピッチャーとキャッチャーのペアを指す訳ですが,如何にも充放電を繰り返すバッテリーになぞらえられます。

電池には,使い切りの一次電池と,充放電して繰り返し使用する二次電池とがあります。日本では一次電池を単に電池,二次電池を蓄電池(バッテリー)と言っている様に感じますが,英語では区別せずにバッテリーという様ですので,両者の混同には少々注意が必要です。

具体例を挙げますと,マンガン電池やアルカリ電池の乾電池は使い切りの一次電池,乾電池でも充電式のニッケル水素電池やリチウムイオン電池は二次電池,むろんEVやPHEVに使われるバッテリーも二次電池です。エンジン車に昔から使われる補機バッテリーはほとんどが鉛畜電池です。

ちなみに,トヨタMIRAIなどに搭載の水素燃料電池は一次電池です。水素の化学エネルギーを電気に変える訳で,充電が出来ませんから,そのためクルマとしては二次電池を別に搭載する必要があります。そうしないとブレーキング時の電力回生というEVの大きなメリットを享受できません。


近年のエレクトロニクス機器の電源には,高性能のバッテリーが使われています。モバイルの電子機器の発達はバッテリーの高性能化と二人三脚であったと言えるでしょう。

ドローンの発達なども,制御技術の進歩もさる事ながら,ハード的にはバッテリーの高性能化が大きいようです。何分重いと飛べません。バッテリーの性能を示す一つの重要な指標がエネルギー密度[J/kg]です。電池の質量1kg当たりどれだけのエネルギー[J]を保存できるかが,エネルギー密度[J/kg]です。この値が大きければ大きいほど,移動体やポータブルデバイスへの電気エネルギーの供給がラクになります。


自動車の電動化も急ピッチです。トヨタのプリウスはHV(ハイブリッド車)の先駆けですし,充電の可能なPHEV(プラグインハイブリッド車)も早期に出していましたが,EV(電動車)よりも,FCEV(燃料電池車)に熱心だったように見えます。同社はFCEVの基幹技術を公開する事で世界的普及を狙ったわけですが,必ずしも世界はそれにはなびいていないという現状ではないでしょうか。我々年配者にはどうしても,水素は「爆発する・危ない」というイメージがついて回りますが,むしろ車両火災に関してはガソリン車の方がずっと危ないのです。昔からタクシーなどが水素ガスよりもずっと熱量の高い(いわばより危険な)LPガスボンベで走っていましたが,爆発事故などは聞きません。

また,自動車の歴史を遡れば,元祖は電気自動車でした。1900年ごろ欧米では電気自動車とガソリンエンジン車が覇を争っていたようです。人類で初めて地上で時速100km/h越えを経験したのが,米国製の電気自動車ジャメコンタン号を駆ったベルギーのレーサーだったそうです。1899年の事でした。

フォードもロイスもポルシェも電気技術者だったそうです。フォードはエジソン電灯社の元社員,ロイスは経営していた電気機械の製造会社が傾いたので,ロールズから資金を得て高級車の製造に乗り出しました。ポルシェはウィーン工科大学の電気工学専攻で,卒業後すぐにEVを設計します。20世紀に入る頃には,エンジンの性能が上がり,当時のバッテリーの性能で制約されていたEVは,エンジン車に淘汰されたのでした。


自動車の動力はエンジンになったものの,その周辺には電装品がどんどん組み入れられました。1910年ごろには,ヘッドライトやスターターモーターが登場します。それまでは夜間の走行は言うに及ばず,エンジンを掛けるのも一苦労だったのです。手でクランクを回して始動するわけですから,バイクのキックよりも大変です。けっちん(キックバック)を食らったら,大怪我どころか命を落とすことさえあったのです。そのため,スタートがスムーズな電気自動車は当時特にご婦人方に人気があったと言うことです。

EVに勝利したエンジン車といえども,始動には電気モーターの助けが必要ですし,ライトを始めとした電装品がどんどん取り入れられました。車を動かすことには直接関係のないアミューズメント機能も進化します。最初のものがMotorolaのカーラジオでした。1930年の事で,トランジスタが発明される18年も前ですから,当然真空管製です。高電圧の乾電池が必要だったのは,以前の記事で触れた通りです。

初期のEVの電源でもあり,その後エンジンの始動モーターや電装品の電源として,現在でも広く使われるのが鉛蓄電池です。これは,なんと1859年にフランスのガストン・プランテによって発明された,大変古い技術です。160年以上も使われています。しかし,バッテリーが鉛蓄電池のままであれば,自動車の動力の電動化も進まなかったわけですが,一つのきっかけはリチウム・イオンバッテリーの開発でしょう。これには我が国の研究者らも開発の中心となっています。

クルカさんより
クルマの電動化に関しては,エンジン車とは長短あるにしても,現在では総合的に見てEVの方が優れていると言え,今後電動化が進むのは間違いありません。ただその普及はゆっくりです。特に日本では電動化が遅れていると言われます。むろん新幹線などの電車や高速エレベータなど,電動化の技術面でなんら問題無く,モーター技術,制御技術,バッテリー技術どれをとっても優れていると思いますが,ユーザーも業界も保守的思考が強い様に思われます。カー・マニアにとっては,電気モーターのスムーズな動きよりもエンジンの爆音が良いようですし,もっと大きいのがインフラの整備でしょう。ガソリンスタンドはどんどん減っていますが,充電スタンドにとって替わって生き残るのは難しいでしょう。充電スタンドでは,売上がガソリンより減る上,充電にガソリンの充填よりも時間がかかれば回転も悪く,とても経営は成り立ちません。充電スタンドだけでの経営が難しいとなれば,スーパーやコンビニ,ホテル等の付帯サービスとならざるを得ないでしょう。

もう一つのネックは,車両コストです。モーターの回転などを制御するインバータなどもさることながら,バッテリーの値段と車重です。いくらランニングコストが低くても,車両コストが高い上にインフラの問題が重なれば尚更です。


EVの普及とは別に,もう一つ問題をあげるとすれば,大学などでの強電研究室の少なさです。電気系技術者の不足はどの分野でも顕在化しています。自動車でなくても,電気設備の管理監督業務を行う電気主任技術者(三種から一種まであり)も不足しています。特に二種が不足していて,大手企業からその養成支援を依頼されたことがあります。名のある一流企業が若手の二種技術者の求人を出しても全く集まらなかったのだそうです。下位資格の三種でさえ,本来は高卒資格のものの,現在では有名大学院卒者でも難しいと言われています。大概の工場であれば,三種で十分ですが,50kVを超える高圧受電の大工場では二種以上の資格者が必須ですが,資格保持者は高齢化していて若手を確保しないといけません。

しかしながら,電気系をかじった人ならばまだしも,他の分野,例えば機械系の人には大変難しいと言われます。何十もの国家資格などを持ついわゆる資格マニアの人でも,何とか取れるのは三種までで,筆記試験のある二種以上は困難と言われます。


自動車メーカーの若い入社間際の電気技術者が,経験豊富な機械系の先輩技術者に電気のイロハを教えている。というのをだいぶ前に聞きました。世の中から求められながらも,電気分野の強電分野は近年避けられる不人気分野であるのが懸念材料です。

日本が科学技術に関する興味関心が先進国中で最低レベルであることは10年以上前から憂えられています。特に電気技術が,本来インテリジェンスが必要な分野でありながら"3K"の一種に捉えられて,避けられ軽視されて来たキライがあります。大企業でも,カネさえ出せば何とかなると,電気技術を軽視して来て来たツケが出ている様に感じます。
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プー太の父

記事の内容と少し異なるかもしれませんがお許しください。
そろそろ自分の車のバッテリーを買い替えを考えましたが
アイドリングストップ車のバッテリーは値段が高いですね。
自分の車種用のは普通のバッテリーの3~4倍の価格です。
私はアイドリングストップがわずらわしいのと、始動やストップを
繰り返してもたいしたガソリン節約にもならないし
逆に車に良くないだろうと思って、いつもアイドリングストップ
機能は停止して使用していません。たとえアイドリングストップを
利用しても普通のバッテリーとアイドリングストップバッテリーの
差額分もガソリン節約になってはいないと思います。
信号待ちのエンジン停止で排気ガスは若干減るかもしれませが
その分以上に無駄な走行を減らして歩くことも多いので
環境には人より気を使っているつもりです。
もうアイドリング車なんて二度と乗りたくありません。
すみません長々と、スッキリしました(^^
by プー太の父 (2024-02-11 14:55) 

Enrique

プー太の父さん,
エンジンのアイドリング時は効率が0なので,エンジンを止めてしまおうという発想ですね。一番簡単な省エネ車でしょうが,確かに私も慣れないアイドリングストップ車はイヤです。その上バッテリーが高いとなると,燃料節約分のモトが取れないかもしれません。当方は18年落ちのマニュアル車に乗っていますので,信号待ちで手動でアイドリングストップをする事もあります。5秒以上のアイドリングなら切った方が燃料節約と聞いたことがあります。新車時代の純正指定が50Ah前後でしたが,現在倍の105Ahの容量のものを使っていますが1万円程度でした。一番効果的なのは,下り坂でエンジンを切ってしまい,セルを回さないで再始動(押し掛けと同様)させる事ですが,油圧が効かず危険なので禁止されています。

クルマに限らず,省エネ機器というのはだいたいそんな感じで,ランニングコストの節約分がモノのコストに上乗せされているような格好で,あまり節約にならないものです(照明器具しかりエアコンしかり暖房器具しかり)。どんな車でも長く乗るのがイチバンだと思います。そうするとシンプルなエンジン車という事になるのでしょうが,時代の趨勢は電気化で,早かれ遅かれ電気モータ主流になるはずです。電気ですからON/OFFは何の問題もありません。ただ,クルマ関係者もユーザーも電気化への抵抗は根強いですね。
by Enrique (2024-02-11 16:18) 

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