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説明がメンドウな事柄〜その1〜 [雑感]

小学校の頃,キチョウをモンキチョウだと言い張る友人に辟易したという話を書きました。

大人になっても似た様な経験をしました。高校の教員をしていた時の事。
電源電圧が\(100\mathrm{V}\)でも\(200\mathrm{V}\)でも,電力は電圧掛ける電流だから,同じ事だと言い張る理科教員にも困りました。

彼がいうには,\(100\mathrm{V}\)でも電流を倍にすればいいだけの事だから同じだと。危険な\(200\mathrm{V}\)を使うなんてバカげているというわけです。

電圧が高い方が有利というのは電気をかじった人間ならば常識事項ですが,あまりにバカにした対応も失礼ですから,丁寧に説明してもピンときていない様なので,諦めました。


彼の頭の中には,理想化された\(P= VI\)の式しか無いのでした。

では,電力会社は何のために何\(10万\mathrm{V}\)にも昇圧して送電するのでしょうか?

基本式として,\(P= VI\)はもちろん結構です。

やはり,中学で習う基本のオームの法則の\(V= IR\)をその式に使って,
\[P= I^2R \tag{1}\] を分かっていただければ十分なのです。

現実の回路には必ず導線の抵抗がつきまといます。それが負荷に直列に入ることになります(下図)。

‎超基本回路.png
        導線抵抗を考慮した基本回路
仮に,導線の抵抗を\(r=1\mathrm{Ω}\)*とします。
\(1000\mathrm{W}\)を電源から供給するとします。

まず,\(100\mathrm{V}\)で供給する場合です。電源側から供給する電力は\(P= VI=100\mathrm{V}×10\mathrm{A}=1000\mathrm{W}\)です。
\(10\mathrm{A}\)流れる電線で電力ロス\(p\)は(1)式を使って,
\[p=I^{2}r=10^{2}×1=100\mathrm{W}\]
生じますから,負荷側で使用できる電力は\(900\mathrm{W}\)です。

一方,\(200\mathrm{V}\)で供給する場合です。電源側は供給する電力は\(P= VI=200\mathrm{V}×5\mathrm{A}=1000\mathrm{W}\)です。
\(5\mathrm{A}\)流れる電線で電力ロスは同様に,
\[p=I^{2}r=5^{2}×1=25\mathrm{W}\]
ですから,負荷側で使用できる電力は\(975\mathrm{W}\)です。

\(200\mathrm{V}\)で電力供給する方が,\(100\mathrm{V}\)の場合よりも導線での電力ロスが\(\frac{1}{4}\)に減り,負荷で電力を沢山使えるという事です。

電力ロスが,電流の2乗で効くところがポイントです。同じ電力を送るならば,なるべく電圧を上げて,流す電流を減らす事で,電力ロスは大幅に低減させることができます。トランスで電圧を容易に上げ下げできる交流が商用電力として使われている大きな理由です。


理科で学ぶ事柄は,理想的な条件での話となりがちです。
むろんそれは基本事項をおさえる為には重要なことですが,それが全てだとカンチガイしてしまうと,「何とかの一つ覚え」ということになりかねません。

導線の抵抗がゼロならば,その理科教師のいう通りです。しかし,それは超伝導線ででもなければ現実に有り得ません。また電線での電力ロスを含めての総電力ならば,やはり供給電圧には関係ありませんが,ムダに電線で消費した電力までを一緒くたにしたのではバカげた話です。電力会社が徴収する電気代は,ムダに屋内配線で消費した電力だろうが実際に負荷で使った電力だろうが区別しません。

安全対策や絶縁の話は別途考慮しないといけませんが,それとこれをごっちゃにされると話が通じません。

当記事の読者諸賢にはご理解いただけるかどうかですが。

*実際に配線用の1.6mmφのVVFケーブルを50m引き回すとその程度の抵抗値です。
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コメント 2

風神

中学で習ったはずのオームの法則を知りませんでしたが^^;、解説でよく解りました。
間違った記憶かもしれませんが、「彼がいう...危険な200V」ですが、危険なのは高い電流だと聞かされていたような気がするんですが。
by 風神 (2023-10-15 15:16) 

Enrique

風神さん,
解っていただけて,ホッとしました。

ただやはり,中学で学ぶオームの法則の理解が驚くほどなされていない現状ですが,高校の理科教員でもそんなレベルですから教員の方もわかっていないのだと思います。

「電圧」が高いのは間違いなく危険性は増します。ふつう電圧は「高い低い」といいますが,電流は「大きい小さい」ですね(他分野の例でも例えば圧力は高い低いといいますが,流量は大きい小さいです)。間違って体に流れてしまう「電流の大きさ」により危険性が決まるということであれば正解です。

オームの法則により,抵抗が同じならば,電流は電圧に比例します。感電のダメージは,体に流れてしまう電流の大きさによりますので,抵抗条件が同じならば電圧が高い方が,流れる電流も大きく危険性が増します。ですから,同じ条件で触れば100Vより200Vの方が危険なのは間違いありません。

ただ,電圧は100Vや200Vという2倍程度の違いですが,抵抗の方は条件により何桁でも異なりますますので,それにより抵抗に反比例する電流も何桁も変わります。抵抗が何MΩという事もあれば,1kΩ以下という事もあります。電流は抵抗に反比例しますから,電圧の2倍程度の違いよりも抵抗の何桁もの違いが流れる電流の大きさを支配します。

絶縁手袋をしていれば高電圧でも安全ですが,100Vでも濡れた手でさわれば感電死の危険性があります。電圧の2倍程度の違いよりも抵抗の何桁もの違いが生死を分けます。
by Enrique (2023-10-15 17:39) 

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