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ツマグロヒョウモンの北上と [雑感]

ツマグロヒョウモンは子供の頃は見なかったチョウでした。
1998年ごろ初めて見ました。長年地元を離れていたということもあり,もっと前からいたのかも知れません。

最初見たときは興奮しましたが,その後ウンザリしてきました。いるところにはモンシロチョウよりもうじゃうじゃいます。その生態も妙に馴れ馴れしい感じもして好きになれません。例えれば,一般のヒョウモン類が野鳥なのに対して,この種はカラスとかスズメという感じで,ヒトの生活圏によく現れます。以前にも記事にしました

元々は南方のチョウという認識です。この種の北上・増加は,地球温暖化に伴う事例の一つとして認識されています。また,ヒョウモン類の食草の多くはスミレ類ですが,何故かこの種は栽培種のパンジーなどを好むのも大量発生を助長した一因のようです[1]

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ツマグロヒョウモンの♂(左),♀(右)(当方の標本箱から。採集日♂が1999年10月11日,♀が1999年9月30日とあります。当時は物珍しくて熱心に採集したもの。)
ヒョウモン類は,翅柄の性差が結構あり,知らない人が見たら別種に見えることでしょう。特にこの種はツマグロヒョウモン(褄黒豹紋)ですが,♀だけツマグロですから,妻黒豹紋でも良いのかも?しれませんが,もっと極端なのがそのものすばり,メスグロヒョウモンがいます。

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メスグロヒョウモンの♂(左),♀(右)(当方の標本箱から。♂♀共に採集日1985年6月29日とあります。採集地はツマグロとは別です。)

地球温暖化の指標の一つとなったツマグロヒョウモンが,もともとは南方系のチョウだという一つの根拠(傍証)として,マダラチョウ科のカバマダラやスジグロカバマダラに擬態している事が指摘されます。

カバマダラ♀*(撮影地インド。[コピーライト] 2010 Jee & Rani Nature Photography (License: CC BY-SA 4.0)
もともと南方系のカバマダラやスジグロカバマダラは,体内に食草由来のアルカロイド系の有毒物質を持っており,鳥が間違って食べると酷い目に遭いますので,そういう経験をした鳥は決してこの手のチョウは食べなくなるといわれます。

ツマグロヒョウモン自体は鳥が食べても無毒のようですが,ツマグロヒョウモン♀は危険なチョウに擬態することで,いわば虎の衣を借りて鳥の食害から身を守っているといわれています。

ハチなども超危険な昆虫ですから,わざと目立たせて危険人物をアピールします。まったくハチの仲間ではないスカシバなどの蛾類もハチっぽく見せて虎の衣を借りています。


解せないのが,ツマグロヒョウモンです。
カバマダラと同じ環境に居るのであれば,擬態の効果もありそうなものですが,ツマグロは本家より先にどんどん北上しています。学習していない鳥のいるところでは,擬態の効果がない様な気もします。

しかし,鳥の後天的な学習では無くて「翅先にツマグロがあるチョウは危険!」というのが,もし鳥のDNAに刻まれているのだとすれば,話は別です**。本家のカバマダラは鳥という天敵がいないためか,樹木がこのチョウで覆われるくらいの,ものすごい大発生をします。やたらツマグロヒョウモンが多いのも,鳥に食べられにくいという特性からなのだとすれば少し合点が行きます。


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トンボの蚊のハンターぶりは凄まじいものがあるようです(以前トンボの脳に関する記事を書きました)[2]

トンボは蚊の強力な天敵であることは疑いようのない事実ですが,その事を蚊が(普通の意味で)学習しているとはとても思えません。もっとシンプルに強烈にDNAに刻み込まれているのでしょう。そうでなければ,「おにやんま君」などが効果的である理由が考えられません。

引用文献:

[1]例えば,望月 宏美, 山口 隆子「ツマグロヒョウモンの北上に関する生気候学的研究」,日本生気象学会雑誌 57-4, pp.135-141(2021)
[2]Frances Chance, "The Brain of a Tiny Hunter",IEEE Spectrum 58-8, p.28 (August, 2021)

今回の記事の要約:
・1970年頃まで全くいなかったツマグロヒョウモンを90代後半から見かける。
・ツマグロヒョウモンの北上は地球温暖化の一事例と見られている。
・命名と元となっているこの種のメスは,鳥害を防ぐため毒チョウのカバマダラなどに擬態しているとされている。
・毒チョウのカバマダラの方がいない地域では擬態の意味がなさそうだが,鳥などが学習するというよりも本能的に忌諱するのであれば合点がいく。


*本家のカバマダラでは♂♀の区別はツマグロヒョウモン程にはありません。危険を知らせる意味では同じ柄の方が良く,あえて区別する必要もないのでしょう。
**カバマダラが飛翔しているのを実際に見たことはありませんが,ツマグロヒョウモン♀の性標は,飛翔中目玉の様に見えて非常によく目立ちます。鳥にはそれでアピールするのかも知れません。
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コメント 4

風神

さすがです。見事な標本ですね。
メスグロヒョウモンは、見た事が無いです。

ご無沙汰しておりました。
約2週間ぶりに社会復帰しました。またよろしくお願い致します。
by 風神 (2023-09-19 10:42) 

Enrique

風神さん,メスグロヒョウモンは,ツマグロヒョウモンと並んで良く性差を比較されるチョウなので並べてみましたが,その個体数は比べるべくもなく,その時期によく発生する草原の産地などに行かないと滅多にお目に掛かれません。
入院中とはつゆ知りませんでした。
ご復帰おめでとうございます。
by Enrique (2023-09-19 14:50) 

ロートレー

虎の衣を借りる擬態は人間社会でも同じで、面白いと思います。
でも本当にヤバい奴もいるので、近づかないことですね^^
by ロートレー (2023-09-22 06:06) 

Enrique

ロートレーさん,
確かに,本物か擬態か見分けるのも危いので,近づかない。
擬態の効果極まれりですね。

by Enrique (2023-09-22 06:34) 

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