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メタレンズの件 [科学と技術一般]

子供の頃,21世紀には自動車からタイヤが無くなると思っていましたが,現在でも,さまざまな改良が加えられているとは言え,基本的に黒いゴムタイヤが使われています。

カメラのレンズも,ガウスなどが解析した古典的幾何光学を用いた屈折レンズがずっと使われるものだと思っていましたが,「遂に来たか」という感じです。

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IEEEのSpectrum7月号の表紙が「メタレンズ」になっていました。

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メタレンズの記事が載ったSpectrum 2023年7月号
スマートフォンのカメラなどに用いられる小型レンズは,古典的な幾何光学を使いながらも,急激に厚みを薄くして来ました。従来のカメラレンズでは考えられない程の非球面レンズ組み合わせて「こんな小さなものでよく写るものだ」というくらいになっています。高度に進化した撮像センサーに適う性能を出すためには収差補正のために異種透明素材の異種レンズを数枚重ねるしか手はありません。光学的屈折を用いる限りはほぼ限界でしょう。

従来レンズ(左)とメタレンズ(右)の比較
Metalenz社のメタレンズは,平面のガラス基板上にSi半導体の微小な柱を立ててレンズ効果を持たせるもので,レンズ部は平坦です。受光素子が化学の銀塩から半導体化したのは時の流れとしても,まさか屈折式のレンズにとって替わるものが現れるとは思い及びませんでしたが,おそらくヒントは量子ドットの研究開発にあったのでしょう。

Metalenz社のメタレンズ
原理は同記事によれば,フォトン(光子)が,微細に作り込まれたSiの柱の頂上に当たるとプラズモン(プラズマ粒子)になって,Siの柱を伝って行き,柱の底でまたフォトンを吐き出すのだそうです。通常の屈折レンズが厚みの違いで光を交通整理するように,メタレンズではSiの柱の太さ?などを変えることにより,屈折レンズと同等(以上)の働きをするらしいです。

メタレンズの製造そのものは,1枚のマスクでフォトリソができるので,CMOSデバイスなどよりもはるかに単純な上,半導体の受光素子と隣り合わせで製造できるので,いっぺんにレンズと撮像ユニットを製造できて,薄型・単純・安くと,良いことだらけのようです。ドットパターンの設計がこのメタレンズ技術の大半を握るものと思われます。

古典的な屈折式の薄型レンズとしてはフレネルレンズがあります。これはかつて大型化する灯台のレンズの開発競争の末に出てきたものだそうで,これはこれで利用価値はあります。精密さを要求されない集光レンズなどには便利なものですが,迷光などを発生して撮影レンズには使えません。カメラ技術の究極はレンズレスカメラらしいですが,光学屈折を用いない半導体作成技術を用いたメタレンズは,数世紀にもわたって使われて来た屈折レンズを一挙に置き換えるインパクトがあります。

早晩,スマホ用やその他監視用の小さな曲面レンズは姿を消しそうです。他の技術同様,レンズの動作が小中学校の理科で学ぶような素朴な理解が出来なくなるのは残念ですが,それが時の流れというものでしょう。

メタレンズのメリットは,単に薄型になって安くなるというものではなく,屈折レンズとは原理が異なり,従来のレンズ(強度と位相)の情報に加え光の偏光情報を読み取る事ができるので,例えば対象物の表面情報だけではなく,素材の質まで分かるそうです。いろいろな応用面は予測不能の様です。
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よしあき・ギャラリー

難解です。^^;
by よしあき・ギャラリー (2023-08-04 14:09) 

ロートレー

私はガラケー愛好者ですが
スマホの画像の美しさは羨ましい限りです。
でも、種類としてはまだ屈折レンズなんですね
監視衛星などは真っ先にメタレンズが使われるのでしょうね
by ロートレー (2023-08-04 17:47) 

Enrique

よしあき・ギャラリーさん,
屈折レンズはある程度図形的な理解が可能ですが,メタレンズになるとそれが難しくなりそうです。
by Enrique (2023-08-04 19:15) 

Enrique

ロートレーさん,
スマホの画像の美しさは,撮像素子の進歩に加え屈折レンズといえ相当な技術開発がなされています。それと恐らくスマホのCPUでも相当な画像処理をやっているものと思います。レンズが最後の砦だった様な気がします。そうですね,監視偵察衛星などに使われる他,かなり安くできる様ですので数年以内にスマホのカメラレンズが置き換わりそうな気もします。
by Enrique (2023-08-04 19:21) 

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